08_2014年にIPOしたスタートアップの業績まとめ
久々の投稿となります。更新しなくてすみません・・・
今月からがんばります(`・ω・´)。
Index
■何が知りたいのか?
■何を調べたのか?
■何が分かったのか?
■おまけ
何が知りたいのか?
(だいぶ前の投稿になりますが)以前の投稿で、2014年のマザーズ新規上場数をレビューしましたが、新興市場が非常に活気付いてきているということをお伝えしました。
一方で、昨今は新興企業を中心とした成長企業の上場直後のパフォーマンスについて、東証から一種のアラートらしきものが出る事態にもなっています。
この潮流を受けて、今回は”花々しくIPOしたスタートアップは、果たして「上場ゴール」だったのか?”ということをテーマに進めていきたいと思います。
何を調べたのか?
調査対象
前期(2014年)マザーズに上場した企業のうち、創業年数が10年以内のベンチャー企業の売上高・経常利益・当期純利益(及び総資産・純資産)。
調査期間
2015/5/31までに公表されている財務数値(*1)。
調査方法
それぞれのスタートアップの上場日は当然異なるので、上場した期を「N期」として、その1年前及び2年前を「N-1期」、「N-2期」とすることで、上場した時期に関係なく、上場日を基準に業績がどのように推移しているのかを企業ごとに比較できるように集計します。
調査結果
以上に挙げた調査対象の範囲でそれぞれの上場企業の業績をトラッキングしたところ、売上高の推移は以下のように、
経常利益の推移は以下のように、
当期純利益の推移は以下のようになりました。
※USENだけ金額の水準が明らか大きいので縦軸を別にしてます。
すみません。全然わからないですよね。ただ、大雑把に、上場日を挟んで業績がどのように推移したのかがわかるのではないでしょうか・・・?以下が、それぞれの指標について、調査対象22社の中間値の推移です。(黒塗りになっている部分については、CYBERDYNE1社のみで、母集団が明らかに統計的に有意ではないので無視します。)
※総資産・純資産は右軸。
何が分かったのか?
全体的な傾向
上記調査の結果から分かる全体的な傾向として、IPO後(N期)に大きく業績はアップしており、その一方でN+1期1Qを最高点に、N+1期2Qに全体的に業績が落ち込んでいるケースが多いということ。N期に調達した資金を開発や人材採用等に投資したことから、業績が悪化しているためでしょうか・・・。次のセクションでは、N+1期の2Qで業績が落ち込んだ原因を個社ごとに分析していきましょう。
個社分析
N+1期の2Qで業績が落ち込んだ会社の業績不振の要因を、有価証券報告書・決算説明資料をもとにまとめました。
経常利益が下落しているのは22社中7社ですが、その7社のうち、売上自体が下落しているのは3社です。原因を見てみると、殆どが翌期以降の売上を立てるための開発・人員増強のためのコストが先行していることがわかります。これは、調達した資金を固定費化(設備投資や採用資金に)したものの、その固定費をまかなうだけの収益が上がっておらず、結果的に赤字(又は業績低下)に繋がっている状態であると考えられます。
つまり、上場後のスタートアップは、上場したことによって得られた資金を投資活動に回したことにより、上場直後の会計期間ベースでは利益が落ち込んでいるということです。この状態はVC等からファイナンスを受けたものの、利益がまだたっていないスタートアップ期の状態と相似しており(*2)、従って、IPO直後はその会社にとっての"第2のスタートアップ期”であると考えることもできます。
但し、IPOする前と異なるのはステークホルダー(利害関係者)の多さ。不特定多数の株主からファイナンスを受けている以上、そのお金をどこに投資するかという意思決定は、今までに増して非常に重要な判断となります。
以上より、上場直後に業績が落ち込むという事実だけをもって「上場ゴール」と判断することはできません(むしろ業績が落ち込むのは必然)。しかし、上場直後のベンチャー企業は「第2のスタートアップ期」にいることから、CFOをはじめとしたマネジメントは、その投資の効果について、これまで(上場前)以上に厳しくモニタリングする必要があると考えられます。
おまけ「上場期・上場直後期における業績修正の有無」
上記調査に加えて、何かと話題になる業績予想の修正の有無も調べました。当初予想に対する未達成率(下方修正した%)を、N期及びN+1期分、適時開示情報をもとに集計しました。
結果は以下の通りです。
実際に利益を下方修正しているのは、N期で1/22(4%)、N+1期で2/22(9%)であり、少数であることがわかります。
N+1期目に修正を行っている企業(フリークアウト、イグニス)は、N期に上方修正を発表しており、N+1期に大幅な未達を予定しています。下方修正を出す会社はソフトウェア開発等、期ズレの影響を受けやすい業態であり、利益の予測が困難な会社が多いということもわかります。
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07_2014年スタートアップファイナンスまとめ(国内)
INDEX
◆何を調べるか
◆調査結果(2014年未公開スタートアップ資金調達データ)
◆2014年未公開スタートアップ資金調達額ランキング(業種別)
◆今回の調査結果からわかること
◆まとめ
◆何を調べるか
新興市場が盛り上がりを見せる中、スタートアップ・ブームが到来したと言われる2014年でしたが、未上場のスタートアップでも多額のファイナンスを成功した事例がいくつかありました。今回は往く年を振り返るということで、2014年の未公開スタートアップ企業の資金調達状況をまとめてみたいと思います。
◆調査結果
図表07_01が2014年に資金調達をしたスタートアップ企業の情報をまとめたデータです。ダウンロードしてご覧ください。プレスリリースが出ているものを収集して延べ104件ピックアップすることができました。
図表07_01(2014年国内スタートアップファイナンスデータ).xlsx - Google ドライブ
◆2014年未公開スタートアップ資金調達額ランキング(業種別)
このセクションでは2014年に大型のファイナンスを成功させたスタートアップを業種別に振り返ります。ここでいう「業種」はサービスに関わるプレイヤーの関係及びマネタイズの方法を参考に分類したもので、分析しやすいように各サービスをきわめて単純化して分類したものです。
具体的には「メディア(※1)」「EC(クラウドソーシング及び予約サイト含む)(※2)」「ゲーム(※3)」「SaaS(※4)」「決済(※5)」「ストリーミング(※6)」「ハードウェア(※7)」「その他(※8)」の9業種に分類しています。
では、業種ごとに大型のファイナンスを実施したスタートアップを簡単に振り返りましょう。
①メディア
メディア系のスタートアップ。自社のプラットフォーム上に広告を掲載し、広告主から広告収入を得るビジネスモデル。
また、上記で挙げた「スマートニュース」、「Gunosy」、「NewsPicks」運営のユーザベースですが、面白いのはこれら3つのアプリのメディアとしてのスタンスがまったく異なることです。3つのサービスのイメージを説明した図表として図表07_04を用意したのでご覧ください。これら3つ以外にも"フォローメディア"(自分の好きなテーマをフォローできるアプリ)「kamelio」等のサービスもあり、スマホシフトによって情報収集の仕方が多様化してきています。
また、上記で挙げた「CGM(Consumer Generated Media)」とは、ユーザーがコンテンツを作成するタイプのメディアです。そのため、CGMは共通の興味をもつコミュニティを集めて作られることが多く、広告の効果は高くなると考えられます。そういったコミュニティは無数に存在するため、こういったタイプのサービスはこれからもどんどん出てくるものと思われます。
②EC(クラウドソーシング及び予約サイト含む)
Eコマース、つまり、インターネットを利用したサービスやプロダクトのマーケットプレースの提供を事業としているスタートアップ。この領域のスタートアップは売手と買手をつなげるプラットフォーマーであり、両者の取引のうち一定割合を手数料として収受する。
こちらの領域でも、スマホシフトの加速に伴い急成長したサービスがあります。そのひとつがCtoCフリマアプリです。従来Yahoo!オークション等でウェブブラウザを使ったCtoC取引があったものの、スマホの普及でPCでの取引よりもっと簡単かつ手軽に取引ができるようになったことがCtoCフリマアプリ普及の背景です。
スタートアップがリアルなサービスにも進出しているのは海外ではUber等の例がある通り、1つの大きなトレンドです。この背景には運送業者等にもモバイルデバイス(スマホやタブレット)が普及し、それを活用する文化が浸透してきた点が挙げられます。
③ゲーム
⑥ストリーミング
前セクションでは2014年の資金調達の状況を具体的な企業名ベースで見ていきましたが、このセクションでは図表07_01から読み取れる以下のことについて考えてゆきます。といっても、同様の考察は以前上半期のスタートアップファイナンスまとめで書きましたので、詳しくは7月の記事をご参照ください。
①スタートアップは何のために資金調達をするのか? (Ⅰ)資金用途と調達規模の関係 (Ⅱ)資金用途と調達ラウンドの関係 ②スタートアップはどのような投資家から資金調達するのか? (Ⅰ)投資家と調達規模の関係 (Ⅱ)投資家と調達ラウンドの関係 |
(Ⅰ)資金用途と調達規模の関係
このセクションでは、スタートアップが「どれくらいの燃料(調達資金)で、どのようなことができるのか」ということについて考えてゆきます。
調達金額を3分類(10億円以上、1億円以上、1億円未満のファイナンスに分類。)し、それぞれの資金使途をまとめたグラフが以下の3つです(図表07_15)。
<図表07_15>
<図表07_15からわかったこと> ・調達額が10億超になると海外進出・マーケティングのための資金調達が目立つ。 ・逆に採用のための資金調達はファイナンス規模が大きくなればなるほど少なくなる。 |
(Ⅱ)資金用途と調達ラウンドの関係
スタートアップは成長のステージごとに調達した資金の使い道が異なると考えられます。このセクションでは、調達ラウンドごとに、調達した資金がどのような目的で使用されるのかということについて考えます。
調達ラウンドごとのそれぞれの資金使途をまとめた円グラフが以下の図表07_16です。
<図表07_16>
<図表07_16からわかったこと> ・Seed期からレイターステージにかけて、人材採用のためのファイナンスは減少傾向にある。 ・Cラウンド(レイター)においてマーケティング資金を調達するファイナンスが目立つ(代表的なものはGunosy)。 ・Bラウンド(ミドル)は開発及び人材採用以外はほぼ横並びであり、スタートアップによって調達した資金の用途がバラバラである。 |
②スタートアップはどのような投資家から資金調達するのか?
投資家(VC)とスタートアップの関係にフォーカスしてみましょう。ひとり総研では、投資家を5タイプに分類したうえで、「どのタイプの投資家がどのタイミングでスタートアップにどれくらいのお金を入れる傾向にあるのか」を分析します。
VCのタイプ別の調達件数は図表07_17に示した通りですが、事業会社・CVC系の投資家によるファイナンスが多数見受けられます。 WiL1号ファンドにSONY等の大企業が出資したことや、KDDIが100億円規模のファンドを組成した出来事に代表される通り、今年のひとつのトレンドとして、大企業の資金がスタートアップに流れはじめた点が特徴といえるでしょう。
(Ⅰ)投資家と調達規模の関係
このセクションでは、ざっくり言うと「一番金払いのいいベンチャーキャピタルはどういうベンチャーキャピタルか」ということについて考えてゆきます。
ひとり総研では、図表07_01のデータを、それぞれのタイプの投資家ごとに集計し、ファイナンス規模(調達額)の平均値及び中央値をとってみました。その結果が図表07_18になります。
<図表07_18>
<図表07_18からわかったこと> ・独立系VCのファイナンス金額(平均値)がもっとも大きい(独立系VCが資本参加している案件は業界的に注目されるディールであることが多い。)。但し、中央値で比べると金融系VCを下回るため、案件ごとにばらつきがある。 |
(Ⅱ)投資家と調達ラウンドの関係
このセクションでは、「どういう投資家がどの段階で資本参加してくれるのか」ということについて考えます。結果は、以下の図表07_19にまとめました。
<図表07_19からわかったこと> ・金融系はCラウンドからの参加が多い。一方で創業期のスタートアップへの投資件数は少ない。 ・CVC・事業会社系及び独立系に関しては、金融系とは異なりレイター投資の件数少ない。 ・事業会社・CVC系はベンチャー投資によって得られるシナジーをどう見込んでいるかによる。早期から出資しているケースが多いが、レイターから資本参加するケースも見受けられる。 |
◆まとめ
以上、2014年のスタートアップファイナンスをざっくりまとめましたが、全体として「メディア」とくに「キュレーションメディア」、「EC」とくに「CtoC」、そして「ゲーム」領域のスタートアップが投資家から圧倒的に評価されている点が特徴でした。なお、多額の調達をしているスタートアップはいずれも世界に挑戦するスタートアップであり、日本から世界へ飛び出すスタートアップも2015年はもっと増えることっでしょう。
06_2014年にIPOしたスタートアップの財務分析をしてみた。
◆2014年IPOの概況
◆IPOしたスタートアップの分析
①成長性(成長可能性)
(ⅰ)PER
(ⅱ)-1 売上高成長率
(ⅱ)-2 経常利益成長率
②収益性
③安全性
◆まとめ
05_ベンチャーキャピタルのビジネスモデルを丸裸にしてみた。
◆前提知識
①VCとは?
-
株式会社ジャフコ「ベンチャーキャピタルとは」
- ベンチャーキャピタルは、高い成長性が見込まれる未上場企業に対し、成長のための資金をエクイティ(株式)投資の形で提供します。 ベンチャーキャピタルによる投資は、金融機関や機関投資家などから運用委託された資金を基に組成した投資事業組合(ファンド)を通じて行われます。
- ベンチャーキャピタルは、 投資に際し、綿密なデユーデリジェンス(企業調査)を行い、その会社の将来性を判断します。投資後は、資金面だけでなく、人材の獲得、販売先・提携先の紹介等を通じて経営に深くコミットし、投資先企業の企業価値の向上を支援します。
- ベンチャーキャピタルは、高い成長性が見込まれる未上場企業に対し、成長のための資金をエクイティ(株式)投資の形で提供します。 ベンチャーキャピタルによる投資は、金融機関や機関投資家などから運用委託された資金を基に組成した投資事業組合(ファンド)を通じて行われます。
②ファンドの構成(投資事業有限責任組合の場合)~GPとLPの定義~
③ファンド取り込みの会計処理:取り込み時期/会計処理の趣旨
④ファンド組合決算書とファンド取込
◆VC三社の比較経営分析
①沿革及び特徴
当社は昭和48年4月5日、日本合同ファイナンス株式会社の商号をもって東京都中央区に設立されました(資本金5億円、未上場の優良中堅・中小企業を発掘、投資、育成することを主要業務とし、それとの関連でリース、延払(割賦)、融資等のファイナンスサービスを行うことを目的として設立)。
昭和57年4月 わが国で初めて投資事業組合を設立
平成17年7月 インキュベーション事業を担当する連結子会社(旧)㈱DGインキュベーションを設立。
昭和56年7月 東京都千代田区丸の内二丁目3番2号に日本アセアン投資株式会社の商号をもって設立(資本金10億円)平成3年6月 日本アジア投資株式会社に商号変更
②ポートフォリオ
③財務分析
◆わかったこと
①新興市場のマクロ的な傾向:EXITしやすい/初値がつきやすい
②事業会社系VCのメリット&デメリット
③一般的な投資の回収スパンは4年程度
04_2014年上半期のスタートアップファイナンスまとめ(海外版)
◆何を知りたいか
◆何が分かったか ~2014年上半期スタートアップファイナンスのトレンド~
◆ひとり総研からの提案
◆何を調べたか
①調査対象
・海外のスタートアップ企業によるファイナンス。
・「払込日」或いは「調達のプレスリリース日」が2014年1月1日~2014年6月30日のもの。
・全件を網羅することはできないので、CrunchBase及びTHE BRIDGEでピックアップされた案件(つまり、スタートアップ界隈で話題になったファイナンス)のうち、JPY2億超のファイナンスを調査対象とする。
・投資家及び調達資金の情報が公開されていないファイナンスについては対象外。
②調査項目
前回と全く同じです。①の「調査対象」に当てはまったファイナンス全件について、下記を調べました。
・会社名
・創業日
・調達ラウンド
・調達金額
・出資者
・サービス内容
・資金用途
・サービスの独自性
・業種
以下のセクションでは、↓のイメージ図の通り、各項目の関連性から、最近のスタートアップファイナンスのトレンドを分析してゆきます。
<イメージ図>
◆何が分かったか ~2014年上半期スタートアップファイナンスのトレンド~
①2014年上半期ファイナンスはざっくりどんな感じだったか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンス概況~
(ⅰ)調達額及び買収額の大きいスタートアップ
(a)調達回数(ラウンド)が後の方になればなるほど、調達規模が大きくなる傾向にある。
(e)業種が多種多様
(f)特徴のあるVCが多い
②スタートアップは何のために資金調達をするか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『資金用途』の観点から考察する~
③投資家はどのようなスタートアップに出資しているか ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『投資家』の観点から考察する~
投資家(VC)とスタートアップの関係にフォーカスしてみましょう。ひとり総研では、投資家を以下のように5タイプに分類したうえで、「どのタイプの投資家がどのタイミングでスタートアップにどれくらいのお金を入れる傾向にあるのか」を分析します。(※3)
タイプ1:金融系
⇒銀行や証券会社等の金融機関を母体に設立されたもの。それに加え、今回は投資対象がスタートアップ以外のPEファンドを運営する資産管理会社等も金融系VCに含める(※4)。
タイプ2:事業会社・CVC系
⇒事業会社を母体に設立されたもの、或いは事業会社からの直接投資。
タイプ3:独立系
⇒ベンチャーキャピタル業を専業とする投資家であり、ファウンダーが個人であるもの。シードアクセラレーター等もこれに分類される。
タイプ4:政府系
⇒公的機関により設立されたもの。
タイプ5:その他
⇒ベンチャーキャピタル業を行いながらも、他の事業を行っている場合や、今回調査の対象となっていない個人投資家(エンジェル投資家)の資産管理会社が投資を行っている場合等、上記タイプ1~4に分類できなかったもの。(※5)
海外のスタートアップファイナンスの案件を全件調べたわけではないので、網羅性に限界はありますが、海外では独立系VCがスタートアップエコシステムで大きな役割を担っているように思えます。
このセクションでは、国内版と同様、「一番金払いのいいベンチャーキャピタルはどういうベンチャーキャピタルか」ということについて考えてゆきます。(もちろん2014年上半期だけのデータから読み取れる結論なので、普遍的な結論は出せないことにご留意下さい。)
このセクションでも、国内版と同様、「どういう投資家がどの段階で資本参加してくれるのか」ということについて考えます。結果は、以下の図表04_08及び図表04_09にまとめました。独立系VCの絡んだ案件が多すぎるので絶対数で比較するとわかりにくいことから、各々のタイプのVCが出資したラウンドの案件数を100分率ベースで見たものが図表04_09です。
上記図表から読み取れることは、国内版で見た通りのことです。即ち、日本のVCも海外のVCもタイプ別に見たら資本参加のタイミングに大きな差異はない、ということです。詳細は前回の記事の「◆何が分かったか ③ (ⅱ)」をご覧下さい。
④ファイナンスをしたスタートアップはどのようなサービスなのか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『業種』の観点から考察する~
(ⅰ)調達規模とサービスの属性(業種)の関係
◆ひとり総研からの提案
03_2014年上半期のスタートアップファイナンスまとめ(国内版)
◆何を知りたいか
◆何を調べたか
◆何が分かったか ~2014年上半期スタートアップファイナンスのトレンド~
①2014年上半期ファイナンスはざっくりどんな感じだったか。 ~2014年上半期スタートアップファイナンス概況~
②スタートアップは何のために資金調達をするか。 ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『資金用途』の観点から考察する~
(ⅰ)調達規模と資金用途の関係
(ⅱ)調達ラウンドと資金用途の関係
③投資家はどのようなスタートアップに出資しているか ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『投資家』の観点から考察する~
(ⅰ)調達規模と投資家の関係
(ⅱ)調達ラウンドと出資者の関係
④ファイナンスをしたスタートアップはどのようなサービスなのか。 ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『業種』の観点から考察する~
(ⅰ)調達規模とサービスの属性(業種)の関係
(ⅱ)調達ラウンドとサービスの属性(業種)の関係
◆ひとり総研からの提案
①投資家の視点から
②スタートアップの視点から ~ファイナンスを実施する際に留意すべきこと~
「うちのサービスは、今こういう課題を抱えている。この課題を解決するためには、こういう施策をいつまでに実施すべき。そのためにはいつまでにどれくらいの金額が欲しい。」
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02_ハードウェア・ベンチャーのファイナンスをまとめたみた
INDEX
◆何を知りたいか。
◆何を調べたか。
◆何がわかったか。-今回のまとめから得た知見-
◆ひとり総研からの提言 -日本からメガベンチャーを輩出するために-
さて、前回の記事から、VCにとって「ハードウェア系」のスタートアップ企業は良い投資先になるのではないかという点について言及しました。つまり、こういった企業は、バイオベンチャーに比して投下資本の回収リスクが低く、ウェブサービス系のベンチャーに比してEXIT時のリターンが大きい。日本の新興市場で2012年度、2013年度にIPOを果たした銘柄を対象に、こういった知見を得ることができました。
今回はというと、国内外のハードウェア系スタートアップについて、以下の点につきリサーチしたいと思います。
◆何を知りたいか
①どんなハードウェア・ベンチャーが、どれくらいの規模で誰から資金調達をしているのか?
②なぜGoogleやFacebook等ITの巨人は、ハードウェア・ベンチャーをバイアウトするのか?
③日本のハードウェア・ベンチャーからメガベンチャーは登場するのか?
◆何を調べたか
対象となったハードウェア・ベンチャー(※1)に対して、以下の項目を調べました。
①創業日(創業年数)
調査対象の企業が「新興企業か否か」を判断する目的です。
②調達資金と投資家(事業会社)
当然、ここが一番知りたい項目です。ファイナンスの規模とお金の出し手を調べます。Sell OutによるEXITの場合は買手の事業会社の名称を調べます。
③資金用途
資金調達を行った際、殆どのスタートアップはPressを出し、その中で今回のラウンドで調達した資金の使い道を公表します。「ハードウェア・ベンチャーが何にお金を使うのか」。これを明らかにするための項目です。
④事業内容とプロダクトの独自性
資金調達を果たし、急成長を遂げるスタートアップであるからには、そのサービスは革新的であるはずです。サービスの革新性はそのスタートアップが手がけるプロダクトの独自性を源泉にするものという仮説のもと、リサーチを行っています。
事業会社によるスタートアップのBuy Outが行われる場合、そこにシナジーが生じる可能性については前回の記事でも言及しています。この項目について調査する事で、大企業が一見ニッチなガジェットをつくっているハードウェア・ベンチャーを買収することの合理性に迫ります。
⑥ 前回の資金調達
ハードウェア・ベンチャーの資金需要が生じるタイミング等の知見を得るため、前回の資金調達の概要を簡単にまとめます。
以上、6つの疑問点をリサーチしたのが、図表02_01です。・・・といってもあまり見えないと思いますので(笑)、細かいデータ等、気になる方は以下のリンクからエクセルをダウンロードして下さい。
Dropbox - 図表02_01(ハードウェア・ベンチャーファイナンス).xlsx
<図表02_01>
◆何がわかったか。-今回のまとめから得た知見-
図表02_01をご覧いただくと、本当にさまざまなプロダクトがファイナンスをしていることがわかります。切り口はいろいろあると思いますが、今回分かった事を凝縮してまとめたのが以下の①~③です。
③研究開発活動としてのベンチャー企業買収
図表02_01のファイナンス規模をレビューしていくと、ひときわ目立つのがIoT(※2)のサーモスタットメーカーNest(図表02_01のNo.19)のGoogleへのセルアウトです。
この他にも、調査対象期間を絞った関係で、図表02_01には反映されていませんが、VRヘッドセットベンチャーのOcculus(図表02_01のNo.17)がFacebookにUSD2,000,000,000で買収されたことは記憶に新しいでしょう。
大企業によるスタートアップのバリュエーションは、シナジーを見込む関係上、過大になる傾向があることは前回の記事で指摘しましたが(01_2012年、2013年にIPOしたスタートアップのファイナンスをまとめてみた。 - (月刊)ひとり総研参照)、ハードウェアの世界では具体的にどういうシナジーを求めてスタートアップの買収が行われるのでしょうか。
図表02_02はGoogleの2013年度における売上の内訳です。
Google製のハードウェアがGoogleの売上全体に占める割合は、売上総額ベースで10%に満たないレベルです。(2年前は売上の10%どころか売上が計上されていません。)
しかし、Googleは米国の証券取引委員会に届け出ているAnnual Reportにおいて、
Other revenues consist of non-advertising revenues including licensing, hardware and digital content. We expect other revenues to continue to grow. However, operating margin on other revenues is generally lower than that on advertising revenues.
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と述べている通り、ハードウェアの売上成長を加速させる意気込みがあります。
上記事実と、2013年12月頃になされたGoogleはハードウェア・ベンチャーを8社買収したという報道等から読み取ると、Googleは経営資源を外部に見出しており、ハードウェア分野での競争優位を早期に確立するため、買収を行っているものと考えられます。
ハードウェア・ベンチャーはそのチームがもつ技術力をコアに事業を展開しています。Webサービス系のスタートアップとは違い、個々のスタートアップ間の模倣可能性が著しく低く、従って、Google等の大企業からすれば研究開発投資の一環としてM&Aが位置付けられているのではないでしょうか。
③米国と日本のファイナンスの特徴
図表02_03は図表02_01から日本と米国に法人登記をしている会社を抜き出し、ファイナンスの特徴を比較した表です。日本のハードウェア・ベンチャーの投資環境を、米国のそれと比較して、何かしらの示唆を得たいという趣旨でまとめたものです。
<図表02_03:米国vs日本のハードウェア・ベンチャーファイナンスデータ比較>
・・・と、思ったのですが、日本国内で未上場のスタートアップがエクイティで資金調達をしている事例が少なすぎました。
今回サンプルに当たったのは「J-TOWER」「ロイヤルゲート」「コイニー」の3件です。これでも搾り出したほうなので、他の事例に心当たりがある方は教えてください。
ファイナンス規模については、中央値で比較すると(※3)意外にも日本の方が規模感があります。この理由については、国がお金を出しているというのも考えられますが、やはり彼らがプロダクトを「つくる」ための資金を集めているからでしょう。
資金調達のスパンについても、米国に比べて間隔が長いです。また、米国では日本に比べ、創業間もないスタートアップが資金調達に成功しているイメージもあります。想像ですが、日本のVCとしては実績も何もない怪しいチームに大枚をはたくのには大きな抵抗がある、といったところなのでしょうか。
なお、最近では、CYBERDYNEの上場等の好事例は出ているものの、事業内容のバラエティについても米国のほうが富んでいます(会社の絶対数が違うので仕方ないといえば仕方ありませんが・・・)。さらにVCについても日本国内では産業革新機構など限られたVCしかお金を出していません。米国ではLemnos LabsやHaxr8r(ハクセラレーター)等、ハードウェアに特化したシードアクセラレーターの名も多く聞くとおり、やはりハードウェアでの企業を促すような風土が醸成されているのでしょう。
◆ひとり総研からの提言-日本からメガベンチャーを輩出するために-
今回の調査結果を踏まえ、ひとり総研から新興市場へ2つの提案を投げかけてみたいと思います。
①ハードウェア専門のクラウドファンディングプラットフォームの可能性。
②悩める大企業こそ、ハードウェア・ベンチャーのバイアウトを。
第1の提言ですが、ハードウェアに特化したクラウドファンディングプラットフォームを利用するスタートアップが増えれば、日本のハードウェア・ベンチャーからメガベンチャーが登場する可能性が高いのではないかという意見です。ハードウェア特化のクラウドファンディングは以下の点で優れています。
(ⅰ)市場調査やトライアルをしなくても、プロダクトに対して高関与なユーザーがプロダクトに対してフィードバックをもたらしてくれる。
(ⅱ)クラウドファンディングでの出資者は購入者であるため、つくったものは必ず売れる。従って、ハードウェア特有の在庫リスクや開発資金不足等の問題は起こりにくい。
(ⅲ)本来、スタートアップが「実績」をつくることは大変困難なこと。しかし、クラウドファンディングでお金が集まったプロジェクトは、お金を集めたことを「実績」として更なる資金調達ができる可能性がある。つまり、クラウドファンディングプラットフォームにおける資金の出し手が、「目利き」を行っているといえる。
(ⅰ)⇒(ⅱ)⇒(ⅲ)の順番で重要になっています。つまり、クラウドファンディングが活発化した場合に今後ある事例としては、以下のような事業のスケールのパターンが在り得るということです。
ある才能あるチームが作ったプロダクトが、クラウドファンディングサイトで大きな注目を集める。そのプロジェクトは開始1日で目標金額を突破、インターネット上で話題が話題を呼び、目標金額を大きく超えるかたちで締め切りを迎える。 決済が完了し、プロダクトが手元に届いた後も、クラウドファンディングを通じて形成されたユーザーのコミュニティからさまざまなフィードバックをもらい、次バージョンのプロダクトのイメージもはっきりしてきた。 ここで、そのチームは法人登記後、VCから出資を募ったところ、プロダクトがクラウドファンディングサイトで高い評価を得たということで高いバリュエーションで十分な資金を調達することができた。これを機に、創業者は大企業から優秀なエンジニアを迎えることができた。 |
もう一点、「大企業によるスタートアップの買収」自体が少ない日本ですが、特にハードウェアの世界にこそ、大企業によるスタートアップの買収が望まれます。なぜなら、ハードウェア・ベンチャーのコア・コンピタンスは多くの場合その『技術力』や、プロダクトを中心に構築した独自の『サプライチェーン』であると考えられるためです。こういった要素は一夜にして構築できる程模倣可能なものではないし、大企業におけるイノベーションのジレンマを考慮すると、大企業の中にそもそもそんな技術が芽を出す可能性すら低いのです。
そう考えれば、大企業としては、スタートアップの買収を通して研究開発活動を効率化することができるし、スタートアップとしてはVCより高いバリュエーションで研究開発資金を得ることができる。両者の力関係で多少の違いがあれど、理論的にはWin-Winの関係が築けるはずです。
以上のとおり、今回は2つの提案を投げかけて筆を置かせて頂きます。よく考えるとこの2つの提案はスタートアップ界隈ではよく言われていることで、別に目新しいことではない。しかし、世界のハードウェア・ベンチャーの資金調達を概観した結果、このようなことがわかったという点では、日本の新興市場に対して強い示唆となるのではないでしょうか。
来月は2014年上半期のスタートアップのファイナンスまとめを行う予定です。コンスタントに書き続けます!(決意)
宜しくお願いします。
※1今回の調査対象となったスタートアップ企業は以下の通りです。
① 2013/2/1~2014/1/31の約一年間でエクイティファイナンスを実施した企業
② 取り扱うサービスがプロダクト(実体)を伴うものである企業
③ 2013/2/1~2014/2/28の間にTech Crunchさんあるいは、StartUp Dating(THE BRIDGE)さんで調達のニュースが報じられている企業
④ ファイナンスについて、調達した資金と資金の出し手がわかる企業
⑤ファイナンス規模がJPY1億円以上(一回のラウンドが複数に分かれているものも含む。)
⑥ファイナンスがVCによって行われたものであること。
少なくとも、「調達→製造→組立→販売→サービス(保守)」のバリューチェーンの俎上にあるプロダクトをつくっているスタートアップであるというイメージを持っていただけると読みやすいです。
※2モノのインターネット(IoT)については、以下の資料に詳しい。
https://www.nri.com/jp/event/mediaforum/2012/pdf/forum183_1.pdf
※3平均値を用いずに中央値を用いる。Nestの買収等、調達額の大きさが桁違いのものを含めて平均をとると、データに偏りが生じてしまうため。