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(月刊)ひとり総研

ベンチャー企業に関連する情報、ファイナンス情報、その他役に立ちそうなデータを月1ペースでまとめるブログ。

08_2014年にIPOしたスタートアップの業績まとめ

久々の投稿となります。更新しなくてすみません・・・

今月からがんばります(`・ω・´)

 

Index

■何が知りたいのか?

■何を調べたのか?

■何が分かったのか?

■おまけ

 

何が知りたいのか?

 (だいぶ前の投稿になりますが)以前の投稿で、2014年のマザーズ新規上場数をレビューしましたが、新興市場が非常に活気付いてきているということをお伝えしました。

 一方で、昨今は新興企業を中心とした成長企業の上場直後のパフォーマンスについて、東証から一種のアラートらしきものが出る事態にもなっています。

 この潮流を受けて、今回は”花々しくIPOしたスタートアップは、果たして「上場ゴール」だったのか?”ということをテーマに進めていきたいと思います。

 

何を調べたのか?

調査対象

前期(2014年)マザーズに上場した企業のうち、創業年数が10年以内のベンチャー企業の売上高・経常利益・当期純利益(及び総資産・純資産)。

調査期間

2015/5/31までに公表されている財務数値(*1)。

調査方法

それぞれのスタートアップの上場日は当然異なるので、上場した期を「N期」として、その1年前及び2年前を「N-1期」、「N-2期」とすることで、上場した時期に関係なく、上場日を基準に業績がどのように推移しているのかを企業ごとに比較できるように集計します。

調査結果

以上に挙げた調査対象の範囲でそれぞれの上場企業の業績をトラッキングしたところ、売上高の推移は以下のように、

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経常利益の推移は以下のように、

f:id:vwwatcher0719:20150701194750p:plain

 

当期純利益の推移は以下のようになりました。

 

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USENだけ金額の水準が明らか大きいので縦軸を別にしてます。

 

 すみません。全然わからないですよね。ただ、大雑把に、上場日を挟んで業績がどのように推移したのかがわかるのではないでしょうか・・・?以下が、それぞれの指標について、調査対象22社の中間値の推移です。(黒塗りになっている部分については、CYBERDYNE1社のみで、母集団が明らかに統計的に有意ではないので無視します。)

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※総資産・純資産は右軸。

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何が分かったのか?

全体的な傾向

 上記調査の結果から分かる全体的な傾向として、IPO後(N期)に大きく業績はアップしており、その一方でN+1期1Qを最高点に、N+1期2Qに全体的に業績が落ち込んでいるケースが多いということ。N期に調達した資金を開発や人材採用等に投資したことから、業績が悪化しているためでしょうか・・・。次のセクションでは、N+1期の2Qで業績が落ち込んだ原因を個社ごとに分析していきましょう。

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個社分析

 N+1期の2Qで業績が落ち込んだ会社の業績不振の要因を、有価証券報告書・決算説明資料をもとにまとめました。

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 経常利益が下落しているのは22社中7社ですが、その7社のうち、売上自体が下落しているのは3社です。原因を見てみると、殆どが翌期以降の売上を立てるための開発・人員増強のためのコストが先行していることがわかります。これは、調達した資金を固定費化(設備投資や採用資金に)したものの、その固定費をまかなうだけの収益が上がっておらず、結果的に赤字(又は業績低下)に繋がっている状態であると考えられます。

 

 つまり、上場後のスタートアップは、上場したことによって得られた資金を投資活動に回したことにより、上場直後の会計期間ベースでは利益が落ち込んでいるということです。この状態はVC等からファイナンスを受けたものの、利益がまだたっていないスタートアップ期の状態と相似しており(*2)、従って、IPO直後はその会社にとっての"第2のスタートアップ期”であると考えることもできます。

 

 但し、IPOする前と異なるのはステークホルダー(利害関係者)の多さ。不特定多数の株主からファイナンスを受けている以上、そのお金をどこに投資するかという意思決定は、今までに増して非常に重要な判断となります。

 

 以上より、上場直後に業績が落ち込むという事実だけをもって「上場ゴール」と判断することはできません(むしろ業績が落ち込むのは必然)。しかし、上場直後のベンチャー企業は「第2のスタートアップ期」にいることから、CFOをはじめとしたマネジメントは、その投資の効果について、これまで(上場前)以上に厳しくモニタリングする必要があると考えられます。

 

おまけ「上場期・上場直後期における業績修正の有無」

 上記調査に加えて、何かと話題になる業績予想の修正の有無も調べました。当初予想に対する未達成率(下方修正した%)を、N期及びN+1期分、適時開示情報をもとに集計しました。

 結果は以下の通りです。

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 実際に利益を下方修正しているのは、N期で1/22(4%)、N+1期で2/22(9%)であり、少数であることがわかります。

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 N+1期目に修正を行っている企業(フリークアウト、イグニス)は、N期に上方修正を発表しており、N+1期に大幅な未達を予定しています。下方修正を出す会社はソフトウェア開発等、期ズレの影響を受けやすい業態であり、利益の予測が困難な会社が多いということもわかります。

 

続きを読む

07_2014年スタートアップファイナンスまとめ(国内)

INDEX
◆何を調べるか
◆調査結果(2014年未公開スタートアップ資金調達データ)
◆2014年未公開スタートアップ資金調達額ランキング(業種別)
◆今回の調査結果からわかること
◆まとめ


◆何を調べるか
 新興市場が盛り上がりを見せる中、スタートアップ・ブームが到来したと言われる2014年でしたが、未上場のスタートアップでも多額のファイナンスを成功した事例がいくつかありました。今回は往く年を振り返るということで、2014年の未公開スタートアップ企業の資金調達状況をまとめてみたいと思います。

◆調査結果
 図表07_01が2014年に資金調達をしたスタートアップ企業の情報をまとめたデータです。ダウンロードしてご覧ください。プレスリリースが出ているものを収集して延べ104件ピックアップすることができました。

図表07_01(2014年国内スタートアップファイナンスデータ).xlsx - Google ドライブ

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<図表07_01>
 
 また、10億円以上調達したスタートアップを対象に、調達額ランキングを作成しましたので、この1年でどんな企業が投資家から評価されたのかざっくり知りたい方はご覧ください。
 

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<図表07_02>

◆2014年未公開スタートアップ資金調達額ランキング(業種別)
 このセクションでは2014年に大型のファイナンスを成功させたスタートアップを業種別に振り返ります。ここでいう「業種」はサービスに関わるプレイヤーの関係及びマネタイズの方法を参考に分類したもので、分析しやすいように各サービスをきわめて単純化して分類したものです。
 具体的には「メディア(※1)」「EC(クラウドソーシング及び予約サイト含む)(※2)」「ゲーム(※3)」「SaaS(※4)」「決済(※5)」「ストリーミング(※6)」「ハードウェア(※7)」「その他(※8)」の9業種に分類しています。
 では、業種ごとに大型のファイナンスを実施したスタートアップを簡単に振り返りましょう。

①メディア
 メディア系のスタートアップ。自社のプラットフォーム上に広告を掲載し、広告主から広告収入を得るビジネスモデル。
 

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 <図表07_03>
 
 図表07_03から読み取れるトレンドは以下の通りです。
 
 ・ニュースキュレーションアプリの盛り上がり・・・「スマートニュース」(36億円調達)「Gunosy」(24億円調達)「NewsPicks」運営の「ユーザベース」(4.7億円調達)等。
 O2O関連のスタートアップも注目・・・「tab」(4億円調達)、「Pathee」を運営するtritrue(1.3億円調達)
 ・全体の傾向としてSNSとしての性格が強いCGM(Consumer Generated Media)が評価されている・・・「Tokyo Otaku Mode」(17.7億円)
 
 ニュースキュレーションアプリについては2014年もっとも盛り上がった領域であると言って良いでしょう。背景として、スマホシフトの加速に伴い、従来インターネットユーザーはウェブブラウザからYahoo!などのポータルを通してニュースを見ていましたが、スマホから直接ニュースを見ることができる「ニュースキュレーションアプリ」にユーザーが流れたものと考えられます。
 また、上記で挙げた「スマートニュース」、「Gunosy」、「NewsPicks」運営のユーザベースですが、面白いのはこれら3つのアプリのメディアとしてのスタンスがまったく異なることです。3つのサービスのイメージを説明した図表として図表07_04を用意したのでご覧ください。これら3つ以外にも"フォローメディア"(自分の好きなテーマをフォローできるアプリ)「kamelio」等のサービスもあり、スマホシフトによって情報収集の仕方が多様化してきています。
 

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<図表07_04>

 また、上記で挙げたCGM(Consumer Generated Media)」とは、ユーザーがコンテンツを作成するタイプのメディアです。そのため、CGMは共通の興味をもつコミュニティを集めて作られることが多く、広告の効果は高くなると考えられます。そういったコミュニティは無数に存在するため、こういったタイプのサービスはこれからもどんどん出てくるものと思われます。
 
 メディア系スタートアップ全体にいえることですが、ユーザーが広告を閲覧することが広告収入につながると考えると、一義的にはPV(アプリならばDL数)がKPIになります。そう考えるとTVCMなどでマス展開を図るのが収益をあげるためにもっとも効果的です。しかし、Gunosyやスマートニュースは、TVCMを打つ前にサービスのUIやUXを大胆に変更し仮説検証を繰り返しています。ある意味でメディアはユーザーの顔色を伺いながらサービスを作っていく側面があるので、自社サービスを一番使ってくれるユーザー(アーリーアダプター)はどんな人物なのか、仮説検証の段階で熟知してからマス展開をかけていくのが正攻法だと考えられます。

②EC(クラウドソーシング及び予約サイト含む)
 Eコマース、つまり、インターネットを利用したサービスやプロダクトのマーケットプレースの提供を事業としているスタートアップ。この領域のスタートアップは売手と買手をつなげるプラットフォーマーであり、両者の取引のうち一定割合を手数料として収受する。
 

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<図表07_05>
 
 業種の括りが広いこともあって、33件のスタートアップをピックアップしました。図表07_05から読み取れるトレンドは以下の通りです。
 
 ・CtoCフリマアプリの盛り上がり・・・「mercari」(38億円調達)、Fablicが運営する「Fril」(10億円調達)
 ・スタートアップが物流などリアルなサービスにも進出・・・スターフェスティバルが運営する「ごちクル」(28億円調達)や、鮮魚流通の「八面六臂」(4,500万円調達)
 ・まだまだ盛り上がりをみせるクラウドソーシング・・・「ランサーズ」(10億円調達)、うるるが運営する「Shufti」(6.3億円)等
 ・全体の傾向としてバーティカルコマース(特定の分野に特化したECサイト)が評価されている・・・「Tokyo Otaku Mode」(17億円調達)、「オーマイグラス」(9,000万円調達)等

 こちらの領域でも、スマホシフトの加速に伴い急成長したサービスがあります。そのひとつがCtoCフリマアプリです。従来Yahoo!オークション等でウェブブラウザを使ったCtoC取引があったものの、スマホの普及でPCでの取引よりもっと簡単かつ手軽に取引ができるようになったことがCtoCフリマアプリ普及の背景です。
 そしてやはり、メルカリが運営する「mercari」と、Fablicが運営する「Fril」についても、サービス及び資本政策に異なる特徴があるので図表07_06にまとめてみました。
 

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<図表07_06>

 スタートアップがリアルなサービスにも進出しているのは海外ではUber等の例がある通り、1つの大きなトレンドです。この背景には運送業者等にもモバイルデバイス(スマホタブレット)が普及し、それを活用する文化が浸透してきた点が挙げられます。
 また、上記で挙げた八面六臂は鮮魚の流通をITで効率化するスタートアップですが、このようにモバイルデバイスどころか、ITが普及していなかった業界にITを普及させるビジネスは、まずはその業界のプレイヤーに「ITを活用することのメリット」をアピールしなければならないという点で非常に骨が折れる反面、業界に変革を起こしうるビジネスだと考えられます。

③ゲーム
 ゲームの開発及び流通(パブリッシング)を行うスタートアップ。
 

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<図表07_07>
 
 調達金額の平均値が10億円を超えており、この領域のスタートアップはいずれも投資家から高い評価を受けている点が特徴です。なかでもモバイルネイティブゲームの開発・販売を行うgumiは50億円の調達を実施しており、今年東証一部に上場しています。
 
 また、これらのスタートアップに共通しているのはグローバル展開していること三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる調査報告書「著作物等の流通促進に関する調査報告書」によると、日本から海外に輸出されるコンテンツ(物販除く)のうち、95%がゲームであり、その輸出額はH23年度時点で5,064億円にのぼるそうです。つまり、世界でもっとも受け入れられやすい日本のサービスがゲームであるため、ターゲットユーザーが多い分収益力も上がり、企業価値が高く評価されているのではないかと推測されます。
 
SaaS
 Software-as-a-Serviceの略。主にエンタープライズ向けのソフトウェアシステムをクラウド上で提供するスタートアップ。
 

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<図表07_08>
 
 この領域のスタートアップはゲームとは対照的に調達金額の平均値は4,000万程度であり調達金額は少ないです。2014年に調達を成功させたプレイヤーとしては、ERP・経理財務系のシステムを提供する「マネーフォワード」(15億円調達)「freee」(14億円調達)「アカウンティング・サース・ジャパン」(13億円調達)、CRM系のシステムを提供する「Sansan」(14億円調達)等が挙げられます。
 
 SaaSのマネタイズ方法は基本的にサブスクリプション(月額課金)であることから、軌道に乗れば収益力は他のスタートアップに比べ高いはずなので、もっと評価されるスタートアップが出てきても良いのではないかと思います。その反面、サービス導入段階で、スタートアップの提供するシステムを導入しようとするインセンティブがユーザー側に働かないことが多いので、営業人員の強化は必要不可欠であると考えられます(SaaSスタートアップの約30%が調達した資金を人員採用のために充てると公表しています。)。
 
⑤決済
 決済に関係するサービスを提供するスタートアップ。 
 

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<図表07_09>

⑥ストリーミング
 ユーザーに対し、コンテンツの配信を行うスタートアップ。
 

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<図表07_10>
 
⑦ハードウェア
 プロダクトの開発(製造・販売)を行うスタートアップ。
 

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 <図表07_11>
 
 ハードウェア系スタートアップも1件あたりの調達額が多額である点(調達額の平均が9.8億円)が特徴的です。研究開発型のスタートアップは売上がほとんどたたない場合が多く、従って運転資金として多額の資金を必要とするケースが多いものと考えられます。
⑦その他

 上記いずれにも該当しなかったスタートアップ。
 

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<図表07_12>
 
 ①~⑦いずれにも分類されなかったスタートアップとして「Quipper」(5.8億円調達)「マナボ」(3.3億円調達)「ライフイズテック」(3.1億円調達)等の教育系(Edutech)スタートアップが目立っています。(これらは、「教育」というひとつの切り口で様々なサービスを提供するスタートアップであるため、①~⑥いずれにも分類ができなかったものです。)
 
◆今回の調査結果からわかること
 前セクションでは2014年の資金調達の状況を具体的な企業名ベースで見ていきましたが、このセクションでは図表07_01から読み取れる以下のことについて考えてゆきます。といっても、同様の考察は以前上半期のスタートアップファイナンスまとめで書きましたので、詳しくは7月の記事をご参照ください。
 
①スタートアップは何のために資金調達をするのか?
 (Ⅰ)資金用途と調達規模の関係
 (Ⅱ)資金用途と調達ラウンドの関係
②スタートアップはどのような投資家から資金調達するのか?
 (Ⅰ)投資家と調達規模の関係
 (Ⅱ)投資家と調達ラウンドの関係
 
 図表07_14が2014年の調達案件全件の資金用途をプレスリリースの内容等をもとにまとめたものです。
 

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<図表07_14>

 (Ⅰ)資金用途と調達規模の関係
 このセクションでは、スタートアップが「どれくらいの燃料(調達資金)で、どのようなことができるのか」ということについて考えてゆきます。
 調達金額を3分類(10億円以上、1億円以上、1億円未満のファイナンスに分類。)し、それぞれの資金使途をまとめたグラフが以下の3つです(図表07_15)。
 

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<図表07_15>

<図表07_15からわかったこと>
・調達額が10億超になると海外進出・マーケティングのための資金調達が目立つ。
・逆に採用のための資金調達はファイナンス規模が大きくなればなるほど少なくなる。


 (Ⅱ)資金用途と調達ラウンドの関係
 スタートアップは成長のステージごとに調達した資金の使い道が異なると考えられます。このセクションでは、調達ラウンドごとに、調達した資金がどのような目的で使用されるのかということについて考えます。
 調達ラウンドごとのそれぞれの資金使途をまとめた円グラフが以下の図表07_16です。

<図表07_16>
 

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<図表07_16からわかったこと>
・Seed期からレイターステージにかけて、人材採用のためのファイナンスは減少傾向にある。
・Cラウンド(レイター)においてマーケティング資金を調達するファイナンスが目立つ(代表的なものはGunosy)。
・Bラウンド(ミドル)は開発及び人材採用以外はほぼ横並びであり、スタートアップによって調達した資金の用途がバラバラである。


②スタートアップはどのような投資家から資金調達するのか?
 投資家(VC)とスタートアップの関係にフォーカスしてみましょう。ひとり総研では、投資家を5タイプに分類したうえで、「どのタイプの投資家がどのタイミングでスタートアップにどれくらいのお金を入れる傾向にあるのか」を分析します。
 VCのタイプ別の調達件数は図表07_17に示した通りですが、事業会社・CVC系の投資家によるファイナンスが多数見受けられます。 WiL1号ファンドにSONY等の大企業が出資したことや、KDDIが100億円規模のファンドを組成した出来事に代表される通り、今年のひとつのトレンドとして、大企業の資金がスタートアップに流れはじめた点が特徴といえるでしょう。
 

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<図表07_17>

(Ⅰ)投資家と調達規模の関係
 このセクションでは、ざっくり言うと「一番金払いのいいベンチャーキャピタルはどういうベンチャーキャピタルか」ということについて考えてゆきます。 
 ひとり総研では、図表07_01のデータを、それぞれのタイプの投資家ごとに集計し、ファイナンス規模(調達額)の平均値及び中央値をとってみました。その結果が図表07_18になります。
 

f:id:vwwatcher0719:20141231175209p:plain<図表07_18>


<図表07_18からわかったこと>
・独立系VCのファイナンス金額(平均値)がもっとも大きい(独立系VCが資本参加している案件は業界的に注目されるディールであることが多い。)。但し、中央値で比べると金融系VCを下回るため、案件ごとにばらつきがある。


(Ⅱ)投資家と調達ラウンドの関係
 このセクションでは、「どういう投資家がどの段階で資本参加してくれるのか」ということについて考えます。結果は、以下の図表07_19にまとめました。
 

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<図表07_19>

<図表07_19からわかったこと>
・金融系はCラウンドからの参加が多い。一方で創業期のスタートアップへの投資件数は少ない。
・CVC・事業会社系及び独立系に関しては、金融系とは異なりレイター投資の件数少ない。
事業会社・CVC系はベンチャー投資によって得られるシナジーをどう見込んでいるかによる。早期から出資しているケースが多いが、レイターから資本参加するケースも見受けられる。

◆まとめ
 以上、2014年のスタートアップファイナンスをざっくりまとめましたが、全体として「メディア」とくに「キュレーションメディア」、「EC」とくに「CtoC」、そして「ゲーム」領域のスタートアップが投資家から圧倒的に評価されている点が特徴でした。なお、多額の調達をしているスタートアップはいずれも世界に挑戦するスタートアップであり、日本から世界へ飛び出すスタートアップも2015年はもっと増えることっでしょう。
 それに加え、ハードウェア系のスタートアップのファイナンスも増えてきたように感じます。ハードウェア・スタートアップのファイナンスについては、以前記事を書いたのでそちらを参照していただければと思います。
 投資環境としては、事業会社によるスタートアップへの投資が増加傾向にあり、今後はM&AによるEXITにも注目してみようと思います。
 ということで、2015年もがんばって更新していきますので、ひとり総研をよろしくお願いします。
 

06_2014年にIPOしたスタートアップの財務分析をしてみた。

 こんにちは。気が早いようですが、現状分かっている範囲で2014年1月1日から2014年12月31日までに上場(または上場する予定のある)したスタートアップについてまとめたいと思います。2014年にIPOしたスタートアップの主要な財務データ等もまとめてあるので、気になる方は読んでいただけると幸いです。
 
関連記事


01_2012年、2013年にIPOしたスタートアップのファイナンスをまとめてみた。 - (月刊)ひとり総研

 
INDEX
◆2014年のIPO概況
 
IPOしたスタートアップの分析
①成長性
(ⅰ)PER
(ⅱ)-1 売上高成長率
(ⅱ)-2 経常利益成長率
②収益性(売上高経常利益率
③安全性(自己資本比率
 
◆まとめ
 
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
  

◆2014年IPOの概況

 

 まず、2014年(※1)のIPOの概況をざっくりレビューしていきましょう。図表06_01は上場した市場に関係なく、2014年に上場した(若しくはする予定である)会社数を示したグラフです。
 
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 <図表06_01>
 
 IPO全件を総括すると、前期58件に比べ当期は74件と30%近く増加しています。さらに、新興市場(マザーズ)にフォーカスすると前期29件に比べ当期42件であり、45%近く増加しています。つまり、今年のIPO増加トレンドは、新興市場が牽引しているものと考えられます。
 
 では、新興企業のIPOにフォーカスして概況を整理しましょう。まず、本稿の分析対象とする「スタートアップ企業」を、①設立から上場まで10年以内の会社、かつ、②東証マザーズに上場した会社と定義します。このような企業について、年別の上場件数、調達額の合計、時価総額の合計をまとめたグラフが図表06_02です。
 
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<図表06_02>
 
 現時点(11/30)で分かっている限りのデータではあるものの、設立5年以内かつマザーズにIPOした会社は前期13件に比べ当期は今のところ22件であり、著増しています。新興市場は活況を呈しておりますが、その主な要因は設立年月が浅いにも関わらず、非常に成長性の高いスタートアップが上場している点が2014年IPO案件の特徴といえます。つまり、少なくともここ5年の間で2014年という年は、スタートアップにとって最もIPOしやすい絶好の時代であったということです。
 
 蛇足ではありますが、図表06_02の時価総額及び公募増資額を件数で割ったもの、つまり、1社当たりの増資額及び1社当たりの時価総額をグラフにしたのが、図表06_03です。
 
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<図表06_03>
 
 資金調達規模は前期と比べると小粒化していると見ることができます。但し、スタートアップであるにも関わらず、直接東証1部又は2部に上場することができた会社もあるため、一概に小粒化しているとは言えません。いずれにせよ、全体の傾向を見る限りではEXITは以前よりしやすくなっているものの、EXITした企業の企業価値が以前に比べ大きくなっているとはいえないのではないのかということです。
 

IPOしたスタートアップの分析

 

 次に、2014年11月30日現在で上場することがわかっているスタートアップ企業(①設立から上場まで10年以内の会社、かつ、②東証マザーズに上場した会社の2要件を満たす会社)はどういう会社があるのか見ていきます。図表06_04に、2014年にIPOすることが分かっているスタートアップの「上場(予定)日」「会社名」「業種・事業内容」「創業日」「創業日から上場日までの年数」「調達額」「時価総額」を整理しました。「調達額」は会社がIPOした結果、新たに調達(公募)することができる金額です(※2)。また、「時価総額」はIPOした時点のスタートアップの企業価値を表します(※3)。
 
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<図表06_04>
 
 図表06_04を元に計算すると、調達額の平均は9億程度、中央値で5億円程度です。2014年上半期での未上場スタートアップの調達データ(前回記事参照)によると、調達額の平均値3億,中央値1.2億なので、上場のメリットのひとつとして、多額の資金調達ができる点が挙げられますが、このメリットの恩恵を受けているスタートアップはまだ多い状況であることが読み取れます。一方で最近では、未上場でも数十億円規模のファイナンスが目立ってきているため、そういった会社にとっては、お金が欲しいから上場するというよりは、サービスやプロダクトの知名度を上げるため・社会的信用を得るために上場することが目的になってゆくものと考えられます。また、22件中6件が赤字上場である点も注目に値します。これは、マザーズに上場するにあたり、利益について特に数値的な基準がないので、成長可能性を説明することさえできれば上場が可能であるためこのような案件が出てきたものと推測できます。上場審査にあたっての基準は以下をご参照下さい。
 
 
 個々の会社を見ていくと、ロボットスーツの製造販売を行うCYBERDYNEの時価総額及び調達額が特に目立ちます。この会社は日本で初めて種類株式を上場させたことでも有名です。また、調達額・時価総額ともに上位がU-NEXT、みんなのウェディング、クラウドワークス、セレス、フリークアウト、イグニスと、スタートアップ界隈でも名前を聞くことが少なくない会社がいくつかランクインしています。
 
 では、当期IPOすることができたスタートアップたちは、なぜIPOすることができたのでしょうか。前述したとおり、上場審査で自社の成長可能性を説明した上で、自社のビジネスモデルが効率よく稼げるビジネスであること(=収益性)、会社が倒産しないこと(=安全性)を示すことができたためと考えられます。以下のセクションでは、成長性・収益性・安全性を示すいくつかの指標の上位5件と下位5件の会社をピックアップして、IPOした会社の財務内容を簡単にレビューしていきたいと思います。データを全てまとめたファイルもエクセルで公開致しますので、参考にして頂ければと思います。(今回はGoogleDriveで共有します。)
 
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<図表06_05>
<ファイル(feel free to download)>
 

①成長性(成長可能性)

 会社の成長性を示す指標は大きく2種類に分かれます。『①将来どれくらい成長すると見込まれているか』と『②これまでどれくらい成長してきたか』です。①は、PER(株価収益率)の高さを見ることで把握できます。②は売上高及び経常利益(※4)の過年度に対する成長率を見ることで把握できます。
(ⅰ)PER

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⇒会社の利益に対する株価の割安(割高)さの程度を示す指標。大きければ大きいほど、現在会社が稼いでいる利益に比べ、株価が割高である。つまり、株主はその会社が将来稼ぎ出す利益が大きいと見込んでいることを示す。従って、PERの大きさを見ることで、株主が会社に対して見込んでいる将来性を把握することができる。
 
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<図表06_06:上位5社+赤字だが株価のついたスタートアップ>
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<図表06_07:下位5社>
 
 2014年に上場した(する予定)のスタートアップ企業のうち、PER上位5社(それに加えて、赤字であるにも関わらず株価がついた会社もピンク色で付け加えています。)及び下位5社を、それぞれ図表06_06と図表06_07に示しました。
 ざっと見た印象ですが、上位5社にはリアルワールド、弁護士ドットコム、アドベンチャー、フリークアウト、みんなのウェディングと、ベンチャーっぽいベンチャーが入っています。また、上位5位には全てVCが株主として入っているものの、下位5社にはFFRIを除く4件全てにVCが入っていません。ここから読み取れる事実は、VCが株主として入っているスタートアップは、利益水準に比べ公募価格が高く設定される傾向にあるということです。この理由として考えられるのは、VCが高値でのEXITを志向するため、IPOでダウンラウンドするわけにはいかず、結果として公募価格が高い水準になるものと考えられます。
 
(ⅱ)-1 売上高成長率

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⇒直前期の売上高が、直前々期に比べ、どれだけ成長したかを示す指標。「高い成長性」を上場の要件とするマザーズ上場会社にとっては、重要な指標。
 
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<図表06_08:上位5社>
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<図表06_09:下位5社>
 
 2014年に上場した(する予定)のスタートアップ企業のうち、売上高成長率上位5社及び下位5社を、それぞれ図表06_08と図表06_09に示しました(※5)。図表から読み取れるのは、基本的に直前期の売上が直前々期の売上に比べて減少している会社は成長性がないと判断され、IPOすることは困難であるということです。業種的に創薬系バイオと同様に経常的な赤字が見込まれるCYBERDYNEは例外的に成長率が下がっていますが、他は全件売上が伸びています。
 
(ⅱ)-2 経常利益成長率

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 ⇒直前期の経常利益が、直前々期に比べ、どれだけ成長したかを示す指標。こちらも「高い成長可能性」を上場の要件とするマザーズ上場会社にとっては、重要な指標。
 
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<図表06_10:上位5社>
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<図表06_11:下位5社>
 
 2014年に上場した(する予定)のスタートアップ企業のうち、経常利益成長率上位5社及び下位5社を、それぞれ図表06_10と図表06_11に示しました。ここからわかるのは、売上高成長率と同様に、「利益水準は低いものの、成長可能性のある会社を上場させる」ことがマザーズの目的であるため、基本的に経常利益が前期より増加していないと上場することは難しいという点です。但し、IPOしたスタートアップ全件が増益傾向にあるわけではなく、3件(リアルワールド、エクストリーム、サイジニア)の例外はあります。売上高と違い、経常利益が減少していても、成長性を説明することはできます(会員数などのKPIが伸びているが、広告宣伝費などがかさんでしまい、利益ベースでは減少しているケース等)。このような例外ケースの会社は、上場審査において「今後この事業は間違いなく成長しますよ」ということを合理的に説明することができた結果、直前期の経常利益が直前々期の経常利益を下回っていたとしても、上場することができたものと思われます。
 
 では、どうやって説明したのか。それは申請期の実績が直前期の実績を上回っている事実をもって説明したものと考えられます。例えば、2013年4月1日~2014年3月31日を上場直前期とすれば、2014年4月1日~2015年3月31日は申請期(名前の通り、上場を申請した日の属する会計期間)です。申請期は現在進行中ですが、四半期レベルでは業績が確定しています。なので、直前期が赤字だとしても、例えば申請期の第2四半期までに100百万円の経常利益が出ていれば、年間で200百万円の経常利益を出せるということを実績込みで説明することができるのです。
 リアルワールド、エクストリーム、サイジニアは、申請期で経常利益が黒字かつ直前期に比べ大きく成長しているため、直前期の経常利益の落ち込みが一時的なものであることを示すことができたのだと考えられます。リアルワールド、エクストリーム、サイジニアの具体的な財務分析は脚注(※6)をご参照下さい。
 
 以上をまとめると、上場審査上求められる事業の「成長可能性」を判断するにあたり、経常利益は直前々期より直前期が増加していることが求められるが、申請期の実績等から今後の成長が確実視される場合は、例外的に上場することができると考えられます。 
 

②収益性

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⇒売上高に対する経常利益の割合。大きければ大きいほど、利益率の高いビジネスモデルであることを示す。
 
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<図表06_12:上位5社>
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<図表06_13:下位5社>
 
 2014年に上場した(する予定)のスタートアップ企業のうち、売上高経常利益率上位5社及び下位5社を、それぞれ図表06_10と図表06_11に示しました。収益性(利益率)はどの会社もある程度決まっており、10%程度(平均値12.4%、中央値8.3%)が目安となります。ここで、上位5社と下位5社の違いを見て分かるのは、やっている事業の数です。つまり、上位5件に含まれる会社のセグメント数は全て1つだけである一方、下位5件の会社は複数のセグメントをもつ会社が5件中4件。1つの事業(セグメント)に集中している会社の方が収益性は高い一方で、セグメントが複数ある会社では、複数のセグメントを管理するための共通費などがかかってしまうから、収益性が低下してしまうと考えられます。
 
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<図表06_14>
 

③安全性

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⇒純資産額が総資産額全体に占める割合。スタートアップに関しては純資産額≒エクイティであり、純資産以外は負債(株主・創業者以外の他人から借りているお金)である。つまり、自己資本比率が高ければ高いほど、株主から調達したお金で事業を回しており、自己資本比率が低ければ低いほど、銀行等の外部から調達した借金で事業を回していることを示す。
 
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<図表06_15:上位5社>
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<図表06_16:下位5社>
 
 2014年に上場した(する予定)のスタートアップ企業のうち、売上高経常利益率上位5社及び下位5社を、それぞれ図表06_15と図表06_16に示しました。平均的な自己資本比率は40%程度(平均値41.0%、中央値40.3%で、企業の総資産のうち、半分よりちょっと少ないくらいのお金がエクイティとしてVCや創業者が入れたお金にあたります。
 また、スタートアップは基本的に借入金で多額の資金調達をすることが困難といわれます。しかし、IPOするステージの企業となると、借入をしている会社も多いようです。有価証券届出書を見たところ、22件中15~16件が外部から借入をしているようです。
 
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<図表06_17>
※○がついている会社は借入している会社です。
 
 

◆まとめ

 

・全体的にEXITはしやすくなっているが、EXITする金額が大きくなっているわけではない。
 
・スタートアップ企業(①設立から上場まで10年以内の会社、かつ、②東証マザーズに上場した会社の2要件を満たす会社)のうち、マザーズに上場した会社の各財務指標は以下の通り。
 
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<図表06_18>
 
・マザーズに上場するためには事業の成長可能性を説明する必要がある。そのためには、直前々期に比べ、直前期の売上高・利益ともに増加傾向にあることが原則的には求められると考えられる。しかし、四半期等の直近の実績が回復傾向にあることを示す事ができれば、事業の成長性を説明することも可能。
 
 以上です。特に"自社事業の成長可能性を説明する"ことの重要性について書きましたが、これは未上場企業がVCからお金を調達するときにも必要な心がけです。そのためには、利益が増加していることを示せるのが一番手っ取り早いですが、そうでない場合はKPIが伸びていることを示す必要があります。そう考えると日々のKPI管理の重要さを再認識する次第であります。
 来月は国内未上場企業のファイナンスニュース(下半期版)を頑張ってまとめます!ご指摘やリクエスト等あればご遠慮なく連絡いただければと思います。遅くなってしまうかもしれませんが返事はします!
 

05_ベンチャーキャピタルのビジネスモデルを丸裸にしてみた。

INDEX
◆何を知りたいか
①そもそも、ベンチャーキャピタルはどういうビジネスモデルなのか?
リスクマネーの供給者であるベンチャーキャピタル(VC)の視点で見たスタートアップ市場の環境
 
◆前提知識
 
◆VC3社の経営分析
①沿革及び特徴
③財務分析
 
◆VC3社の経営分析からわかったこと
新興市場のマクロ的な傾向:EXITしやすい/初値がつきやすい
事業会社系VCのメリット&デメリット
 (メリット:行き届いたポートフォリオ管理/デメリット:①キャピタルゲインが薄い、②投資家としてのノウハウ不足)
③一般的な投資の回収スパンは4年程度
 
 タイトルが扇情的で誠に申し訳ありません(いいタイトルが思い浮かばなかったので・・・)。私のようにスタートアップファイナンスのニュースを日々ウォッチしている人間からすると、"どんなスタートアップがVCから資金調達をしているのか"というトピックが最大の興味関心事になります。しかし、今回の記事では趣向を変えて"どんなVCがスタートアップに投資しているのか"或いは"そもそもVCって何なのか"という問題提起をしてみたいと思います。VCといっても、その大半はボランティアでスタートアップにお金を出しているわけではなく、何らかの戦略をもって投資を行っているはずです。(例えば、前回の記事で紹介したとおり、欧米ではVCがそれぞれの専門分野を持って、スタートアップからパートナーとして選ばれるための戦略的なポジショニングをとっているケースもあります。)
 なので、今回の記事はVCの経営分析を通じて、VCが何を考えているのか(VCの戦略)ということを、スタートアップファイナンスのざっくりとした知識を紹介しながら解説したいと思います。なお、筆者はこの記事で紹介したいずれのVCにも属していないので、HPや決算書などの一般公開されている情報をもとに記事を書いています。なので、多少の曲解はあるかもしれませんがお赦し頂ければと思います。
 

◆前提知識

①VCとは?
 まず、VCの定義から見ていきます。以下、ジャフコのHPからの抜粋です。
 
 ここで、「ベンチャーキャピタルによる投資は、~投資事業組合ファンド)を通じて行われます。」とありますが、これを図解すると以下のようになります。
 
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<図表05_01>
 
ファンドの構成(投資事業有限責任組合の場合)~GPとLPの定義~
 図表05_01において、GPとは、ファンドを運営する意思決定者です。そしてLPはそのファンドにお金を出すものの、意思決定はせず、ファンドの運用益を配当としてもらう主体です。普通の会社に置き換えると、GPはファンドの経営者兼株主、LPはファンドの株主であると考えるとわかりやすいです。
 
ファンド取り込みの会計処理:取り込み時期/会計処理の趣旨
 今回はVCの決算書を読んでいきますが、その前提知識として多少会計知識が必要です。図表05_01で見たように、VCそれ自体はベンチャー投資を行っていない(ファンドベンチャー投資を行っている)ため、”VCがスタートアップに投資している”という経済実態を決算書で表現するために行う会計処理を「ファンド取込」と呼びます。
 
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<図表05_02>
 
 ファンド取込はファンドが持っている資産や負債をVCの貸借対照表上で取り込む会計処理であり、例えば、VCがGPをしているファンドの持分を20%もっている場合は、ファンドのもっている資産(負債)の20%分をVCの決算書上に付け加えて、あたかもVCが直接ファンドの保有する資産(負債)をもっているかのように処理するものす。以上、筆者の言葉でかなりざっくりした解説をしましたが、詳細を知りたい方は新日本監査法人の解説を参照して下さい。
 
ファンド組合決算書とファンド取込
 VC(XX Ventures)はファンド取込をするために「ファンドがどんな資産(負債)をいくらもっているか」という情報を入手する必要があります。これはファンド側で(XX fund)作っている決算書があり、そこから入手します。ファンドが作っている決算書は基本的には金融商品取引法とは別の法律で作成が求められているものですが、ある一定の要件(※1)を満たしたファンドについては、金融商品取引法に基づく決算書を作成する義務があります。いずれにせよ、VCはファンドが作った決算書をもとにファンド取込を行います。
 

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<図表05_03>
 
⑤営業投資の定義 
 「営業投資有価証券」(以下、「営業投資」)とは、多くの場合、VCから資金調達をしたスタートアップの発行している株式です。スタートアップはファイナンスをする際、株式を発行しますが、VCが引受先となった場合、VCはその株式を投資育成目的で保有することになります。VCの営業の目的はスタートアップに投資・育成を実施することで、スタートアップの企業価値を向上させ(バリューアップ)、当初投資した金額より大きい金額で外部に売却(EXIT)することで、キャピタルゲインを得ることです。従って、VCが投資育成目的で保有した株式はその名の通り、「営業」投資として保有される株式となります。
 

◆VC三社の比較経営分析

 このセクションでは、日本で上場している代表的なVCを3社選び、財務分析などのざっくりとした経営分析を行います。比較する三社はジャフコデジタルガレージ日本アジア投資を選びました。財務分析の手法としては、クロスセクション比較(同時系列における類似企業の財務データ等を比較する分析方法)を通してそれぞれのVCの特徴を、時系列比較(直近5年度の財務データ等の推移を分析する分析方法)を通して最新のVCのトレンドを分析します。
 
①沿革及び特徴
 比較3社のバックグラウンドをレビューして、それぞれのもつ特徴を整理します。
 
(ⅰ)株式会社ジャフコ
 東証一部上場企業である株式会社ジャフコ(以下、「ジャフコ」)の沿革を有価証券報告書の「企業情報」に記載されている「沿革」の部分を抜粋してみてみましょう。
 

当社は昭和48年4月5日、日本合同ファイナンス株式会社の商号をもって東京都中央区に設立されました(資本金5億円、未上場の優良中堅・中小企業を発掘、投資、育成することを主要業務とし、それとの関連でリース、延払(割賦)、融資等のファイナンスサービスを行うことを目的として設立)。

 

 
 昭和48年というと、1973年なので40年超VCをやっていることになります。日本に現存するVCの中では最古のVCとなります。
 

昭和57年4月  わが国で初めて投資事業組合を設立

 

 また、特筆すべきは、日本で初めて投資事業組合ファンド)を設立したという点です。この投資事業組合は、後に投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)によって、「投資事業有限責任組合」に法人形態を進化させ、今日のベンチャー投資制度の重要なインフラとなっています。
 なお、おそらく創業当初より野村グループからの資本参加があり、有価証券報告書の「関係会社の状況」には、間接所有分も合わせて19.5%野村ホールディングスに株式を保有されています。この事実を指してスタートアップ界隈では、「ジャフコは金融(証券会社)系VCである」と言われるわけです。
 
(ⅱ)株式会社デジタルガレージ
 次は、JASDAQ上場企業である株式会社デジタルガレージ(以下、「DG」)の沿革を有価証券報告書の「企業情報」に記載されている「沿革」の部分を抜粋してみてみましょう。
 

平成7年8月 インターネットを媒体とした広告・企画・制作等を目的として㈱デジタルガレージ(代表者  林郁、伊藤穰一)を設立。

 もともとはインターネット検索サービス等を中心としたweb事業を行う事業会社でした。
 
平成17年7月 インキュベーション事業を担当する連結子会社(旧)㈱DGインキュベーションを設立。
 
 その後、DGは検索・広告・イーコマース・決済まで事業領域を広げ、平成17年にDGインキュベーションを設立し、スタートアップの投資育成を手がけることとなります。もともとは純粋な事業会社であったものの、事業領域を広げてゆくにつれインキュベーション事業に参入したことから、DGのインキュベーション事業は「事業会社系のVC」に分類されると考えられます。有価証券報告書を見ると、DGの事業セグメントは3つに分かれており、①マーケティング事業、②ペイメント事業、③インキュベーション事業と記載されており、DGによるVC事業はDGのメイン事業の1つとして成長したことがわかります。
 
(ⅲ)日本アジア投資株式会社
 次は、東証一部上場企業である日本アジア投資株式会社(以下、「JAIC」)の沿革を有価証券報告書の「企業情報」に記載されている「沿革」の部分を抜粋してみてみましょう。
 
昭和56年7月 東京都千代田区丸の内二丁目3番2号に日本アセアン投資株式会社の商号をもって設立(資本金10億円)
昭和62年11月 事業目的の一部変更(「投資事業組合の管理運営業務」の追加)
平成3年6月 日本アジア投資株式会社に商号変更
 

 

 こちらも創業は古く、昭和56年(1981年)です。その後5年後に、ファンドを通じた投資事業を行う会社に事業目的を変更します。有価証券報告書を見たところ親会社やその他JAICの株式をもっている関係会社等は存在せず、完全に独立資本の会社です。ジャフコと違って、JAICは金融機関の資本参加がありませんし、DGと違って、投資事業以外の事業をやっている会社でもありません。つまり、JAICはVCをやるために設立された純粋なVCである「独立系VC」です。
 
ポートフォリオ
 このセクションでは、それぞれのVCが保有するポートフォリオをざっくり把握したいと思います。とは言っても、それぞれとても歴史が長いVCですし、規模もまちまちなので、ポートフォリオ全てを比べるのは面倒ですし、ほぼ不可能です。ここは、アントレペディアさんのデータベースから任意でそれぞれのVCにつき10社ずつポートフォリオを挙げてみましょう。
 
株式会社ジャパンベンチャーリサーチ「entrepedia -アントレペディア」

 

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<図表05_04>
 
 それぞれのVCについて特に決まった特徴があるとはいえません。理由としては比較3社全てが大企業であり、特定のジャンルに特化した投資するというよりも、万遍なく色んなサービスに投資する傾向にあるからではと思います。但し、DGだけはウェブサービス系のスタートアップに集中的に投資しています。これは本業とのシナジーのないセグメント(創薬等)には投資しないためだと考えられます。
 ここで、ジャフコについては、そのメインとなるファンド(※2)の組合決算書を開示していました。このファンド決算書「組合等の現況」に記載されている「投資有価証券の主要銘柄」をもとに、業種、ステージ別に件数ベースのデータをまとめ、ヒートマップを作成しました。
 

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<図表05_05>
 
 図表05_05を見ると件数ベースでは、ジャフコは意外にもアーリーステージへの投資が多いです。業種的にはITサービスが圧倒的に多いものの、医療・バイオ、エレクトロニクスへの投資は少ないことがわかりました。
 
③財務分析
 以上のセクションではジャフコ・DG・JAICについて定性的な情報を中心に比較をしてきましたが、以下では、それぞれの有価証券報告書から取れる数字をもとに定数的な分析(財務分析)を行います。財務分析をするにあたり会計的な知識が多少必要ですが、それについては、「前提知識」のセクションを参照して下さい。目次と知りたいことをまとめた表が図表05_06になります。
 

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<図表05_06>
 
(ⅰ)営業投資割合の比較と推移
 「営業投資有価証券」(以下、「営業投資」)とは、スタートアップの発行している株式です。従って、VCの有価証券報告書で計上されている営業投資が、VCの総資産に占める割合を算出することで、「VCの資産のうち、どの程度をベンチャー投資に回しているのか」がわかります。
 
営業投資割合=営業投資有価証券÷総資産
 

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<図表05_07>
 
 図表05_07を見ると、ジャフコとJAICの営業投資割合はやはりDGを圧倒的に上回っていることがわかります(ジャフコにいたっては、全資産の50%を営業投資に回しています。)。これは二社が専業のVCであるためであると考えられます。
 しかし、時系列で比較すると、ジャフコは横ばい、JAICは減少傾向にあるものの(※3)、DGの増加が目立ちます。つまり、専業VCからだけでなく、事業会社からのリスクマネー供給が増加傾向にあると考えられます。具体的には、営業投資割合1%だった5年前に比べ、2014年度には10%成長し、11.36%になっています。この要因として考えられるのが、投資先であるスタートアップの中にIPOしたものの、まだDGが売却せずに保有している株式の時価が高騰したことによる影響です。それを表すのが、主に営業投資有価証券の評価差額が計上される「その他有価証券評価差額金」で、前期107,938千円であるのに対し、当期(2014年6月期)は2,163,068千円と、前期比で200%近くの評価差額が計上されています。つまり、DGのようなVCを専業としない事業会社系VCにおいても、近年は投資案件自体が増えていることはもちろんのこと、実際にIPOして時価がついているスタートアップを輩出してきているということがわかります(※4)。
 なお、参考までに貸借対照表に計上されている営業投資の金額も同時に比較してみます。この指標を比べることで、各社がスタートアップに対してどれだけ投資してきたのか割合ではなく、絶対数ベースで分析できます。
 

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<図表05_08
 
 大まかな傾向としては営業投資割合でわかることと同じで、やはりリスクマネーの総供給量は上昇傾向にあるといえます。ジャフコについては、割合ベースで見ると前期と当期は横ばいですが、金額ベースで見ると増加傾向にあることが特徴的。こちらも主に時価評価された営業投資の評価増が増加の主要因です。DGでもそうですが、IPOしたスタートアップ株式が市場で高く評価されていることから、営業投資に係る評価差額金が多額に計上しているようです。
 
(ⅱ)営業投資有価証券売却高の比較と推移
 営業投資有価証券売却高は、VCが営業投資有価証券を売却した金額、つまりEXIT価額です。この指標を比べることで、VC3社が投資しているスタートアップのEXIT規模を概括的に把握することができます(この金額が大きければ大きいほどより大きなEXITによりたくさん携わっているということになります)。
 

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<図表05_09>
 
 図表05_09を見るとジャフコの売却高が圧倒的に大きいことがわかります。ジャフコとJAICを比較すると、営業投資の規模はジャフコはJAICの約7倍であり、売却高についてもジャフコがJAICの7倍なので、妥当な水準といえそうです。一方で、ジャフコとDGを比較すると、営業投資の規模はジャフコはJAICの14倍、売却高についてはジャフコはJAICの7倍なので、なんとDGはジャフコより少ない投資でより大きな成果を挙げていることになります。この理由としては、大きく2つ考えられます。まず1つの仮説としては、DGの投資規模の小ささにあると考えられます。ポートフォリオがある程度小さいと、大規模な専業VCと違いハンズオンも積極的にできると考えられます。2つめの仮説は、スタートアップが事業会社であるDGに出資してもらうことでバリューアップしたということが考えられます。事業会社系のVCは営業投資といえどある程度本業とシナジーをもつ事業領域に投資しているはずなので、スタートアップはDGのノウハウや経営資源を共有することができるものと思われます。
 また、時系列で比較すると、前期(2013年3月期)で一旦少し落ち着いているものの、急速な勢いで営業投資売却高が増加していることがわかります。新興市場全体が右肩上がり(スタートアップがEXITしやすい環境)であることを如実にあらわしています。
 
(ⅲ)キャピタルゲイン割合の比較と推移
 キャピタルゲイン割合は以下の数式で表される指標です。VCが投資した金額を100%とすると、EXITにより回収した金額は投資に対して何%上回っているのかを示す指標なので、「VCのポートフォリオのうちどれくらいのスタートアップがEXITしたか/しないか」ということではなく、更にその上のレベルの話として「EXITしたスタートアップがどれくらいのバリューでEXITしたのか」ということをあらわす指標です。
 
キャピタルゲイン割合=営業投資売却高÷営業投資売上原価 - 1
 

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<図表05_10>
 
 キャピタルゲイン割合の1つの目安が「0%」(投資した金額が全額回収できた状態)です。そう考えると三社全て0%を上回っており、全体として高い傾向にあるといえます。ジャフコ・JAICといった専業VCがDG(事業会社系VC)のキャピタルゲイン割合を上回っているのは、やはり専業VCとしてのノウハウがあるためだと考えられます。例えば、ジャフコ運営ファンドの組合決算書を読むと、ジャフコは投資した株式を流動化(売却して現金化)するための専門部隊を擁していることがわかります。つまり、VCとしてキャピタルゲインを徹底的に取りに行くリソースも事業会社系のVCに比べると圧倒的に多いことが読み取れます。従って、キャピタルゲイン割合については専業VC(ジャフコとJAIC)が高い結果を示したと考えられます。(※5)
 
ジャフコ・スーパーV3-A号投資事業有限責任組合等の発行する有価証券報告書(EDINET参照)より
 
(2)投資リスクに対する管理体制
⑥ 投資資金の機動的な回収
未上場投資証券の流動化を担当する部署を設置しており、迅速な回収活動のため、投資部門の当初担当部署から投資先事業者等の担当を移管することがあります。投資先事業者の株式上場が困難であると判断した場合には、その状況に応じて、投資契約書に基づく売却や買戻しの交渉だけでなく、資本提携の提言を絡めて第三者への売却や金庫株による自己株式取得の提言等を行っています。
 
 
 時系列で比較すると、売却高の傾向と同様に急速な勢いでキャピタルゲイン割合が伸びているので、近年の新興市場はEXITしやすいだけでなく、初値もつきやすいという傾向にあることがわかります。
 
(ⅳ)投資回収スパンの比較と推移
 投資回収スパンとは、VCが投資をしてからスタートアップをEXITさせるまでの期間です。もちろん、早ければ早いほど現金が手に入るので良いということになりますが、これをどうやって算定するのかというと以下の算式で算定します。
 
営業投資回転期間(投資回収スパン)[ヶ月]=営業投資(引当金控除後)÷(営業投資売却高÷12ヶ月)
 
 財務分析の手法の一つに回転期間分析というものがありますが、これをVCの経営分析用に応用した指標です。例えば、一般事業会社で売掛金がどれくらいで現金化されるのかということを計算するときには、以下のように計算します。期末時点の売掛金の大きさが1ヶ月の売上の何倍かを見ることでその売掛金が何ヶ月で解消するかということを見ることができる指標です。
 
売掛金回転期間[ヶ月]=売掛金÷(売上高÷12ヶ月)
 
 なお、この指標の逆数として、営業投資回転率も参考までに算出しておきました。これは、営業投資売却高が営業投資の何倍かを見ることで、営業投資の効率性を分析する指標です。
 
a.営業投資回転期間(投資スパン)
 

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<図表05_11>
    図表05_11では、ジャフコ及びJAICの回転期間は50ヶ月(4年)程度であるのに対し、DGは110ヶ月(10年)程度です。投資の回収に10年かかるとは思えませんが、これだけ違いが出てしまった要因は2つ考えられます。1つ目は、単純にDGの投資回収スパンが長いこと。つまり、シード・アーリーステージをメインに投資しているためであると考えられます。2つ目は、営業投資の金額(分子)が1ヶ月当たりの営業投資売却高(分母)に比べ大きすぎるという理由です。分子の営業投資は、正確な計算の観点から(※6参照)、投資損失引当金控除後の営業投資を用いていますが、DGが見積もった投資損失引当金が小さすぎるため、このような結果になったと考えられます。こちらについては詳細は(ⅴ)で見ていきたいと思います。
 なお、ジャフコとJAICの営業投資回転期間が正常な値だとすると、一般的なVC(長期の投資スパンを想定しているシードアクセラレーターなどを除く専業VC)は3~4年の間にEXITすることを見込んでスタートアップに投資を実行するものと考えられます。
 
b.営業投資回転率

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<図表05_12>
 本セクション(ⅱ)で述べたとおり、DGの投資効率の良さが注目ポイントです。また、こちらも(ⅱ)で述べたとおり、ジャフコとJAICの投資効率は同程度(0.5回転程度)です。
 
(ⅴ)投資損失引当率の比較と推移
 投資損失引当金(※7)とは、かなり大雑把に言えば、期末時点において、将来営業投資から損失が出そうなものについて、将来出そうな損失の額を見積もって計上した金額です。つまり、投資損失引当金が大きいということは、VCは将来EXITができず、投資回収ができなくなる銘柄がたくさん出てくると悲観的な予想を立てており、一方で投資損失引当金が小さいということは、VCは将来EXITできない会社なんて全然でないと楽観的な予想を立てている、ということです。つまり、投資損失引当金の大きさを見ることで、VCの新興市場に対する将来予測を読み取る事ができるのです。
 
 投資損失引当率=投資損失引当金÷営業投資
 

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 <図表05_13>
 
 図表05_13をまとめると、JAICは悲観傾向、DGは楽観傾向、ジャフコは両者の中間だが近年は楽観傾向にあるということです。まず、DGの楽観傾向ですが、(ⅳ)で述べた通り、通常の投資回収スパンから予想すると、やや不合理な引当率といっても良いかもしれません。つまり、将来的には現在計上している引当金を超える損失(想定外の損失)が出てしまう可能性が高いということです。これは、DGが営業投資から損失が出ないと高をくくっているのではなく、営業投資からどれくらいの損失が生じるのか見積もるノウハウが他2社に比べ蓄積されていないためと考えられます。
 そして、JAICについては営業投資が減少傾向にあるのに関わらず、その営業投資に対する投資損失引当率は増加傾向にあり、悲観的な予測となっていますが、一方でジャフコは営業投資は増加傾向にあるのに関わらず、その営業投資に対する投資損失引当率は減少傾向です。全く逆の傾向を示している2社ですが、ここから読み取れるメッセージとしては、JAICについては「今後は今までの投資を回収するフェーズに移行するので、(回収できたとしても)損失が出てしまう銘柄は増えますよ」、ジャフコについては「今後もたくさんベンチャー投資していくし、市場環境も良くなってきたのでどんどんEXITさせるよ」というシグナルが読み取れます。
 

◆わかったこと

新興市場のマクロ的な傾向:EXITしやすい/初値がつきやすい
 2014年3月期までの時系列比較を通じて、VC3社の有価証券報告書から読み取れる「VCの視点で見たスタートアップ市場の環境」は非常に良好だと言えます。というのも、営業投資売却高は3社右肩上がりで、投資額に対するキャピタルゲインの割合も年々高くなってきているためです。つまり、EXITの確度が上がっているだけでなく、高いバリューでのEXITも増えてきているといえます。
 
事業会社系VCのメリット&デメリット
 クロスセクション比較をしたところ、ジャフコ・JAICに比べDGの特徴が目立つ結果となりました。事業会社系VCのメリットとしては、ポートフォリオが小さいためハンズオンが行き届くが故に、EXITの確度は高い点です。これは営業投資回転率の高さから読み取ることができます。一方でデメリットとしては、①高いバリューでの投資回収(EXIT)が困難である点と、②投資家側にベンチャー投資のノウハウの蓄積が少ない点が挙げられます。①については、キャピタルゲイン割合が他2社に比べ低いこと、②については、引当率の水準が他2社に比べ楽観的であることから導かれた結論です。大企業によるベンチャー投資が活発化している昨今、大企業側でベンチャー投資のノウハウを構築する必要があります。具体的には、投資先の財務情報のモニタリングや、適切なバリュエーションを客観的に見積もることができるバリュエーションのチームや、投資回収を行うためにポートフォリオの売却先を探すチームなどを構成し、ノウハウを蓄積することなどが考えられます。
 
③一般的な投資の回収スパンは4年程度
 限られたデータから得られた知見ではあるものの、一般的な投資の回収スパン(最初に投資してからEXITするまでの期間)は4年程度と計算することができました。ジャフコとJAICは他のVCより業種・ステージともに満遍なく投資を行っているため、比較的説得力のある数字であると考えています。
 

04_2014年上半期のスタートアップファイナンスまとめ(海外版)

 今月は2014年上半期に資金調達に成功したスタートアップについて調べました。前回が国内版のスタートアップファイナンスまとめだったので、今回は日本と海外の未公開株式市場の違いにスポットライトをあてた調査をしたいと思っています。(ちなみに、『月刊』と銘打ったものの、1記事つくるのがとても大変で更新が遅れてしまいました。すみません。来月から頑張ります。)
 
INDEX
◆何を知りたいか
①2014年上半期海外のスタートアップのファイナンスはざっくりどんな感じだったか。 ~2014年上半期スタートアップファイナンス概況~
②日本と海外(主に米国)のスタートアップを取り巻く市場環境の違いは何か。
③スタートアップは何のために資金調達をするか。 ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『資金用途』の観点から考察する~
④投資家はどのようなスタートアップに出資しているか ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『投資家』の観点から考察する~
⑤ファイナンスをしたスタートアップはどのようなサービスなのか。 ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『業種』の観点から考察する~
◆何を調べたか
①調査対象
②調査項目

◆何が分かったか ~2014年上半期スタートアップファイナンスのトレンド~
①2014年上半期ファイナンスはざっくりどんな感じだったか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンス概況~
②スタートアップは何のために資金調達をするか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『資金用途』の観点から考察する~
③投資家はどのようなスタートアップに出資しているか ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『投資家』の観点から考察する~
④ファイナンスをしたスタートアップはどのようなサービスなのか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『業種』の観点から考察する~

◆ひとり総研からの提案
 
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◆何を調べたか

①調査対象
下記項目にあてはまるファイナンスを調査対象としました。3つめの項目については、国内版スタートアップファイナンスまとめ(前回の記事)と異なる項目です。国内版では、原則的にプレスリリースを出ているファイナンス全件を調査対象としましたが、海外版だとスタートアップの数も無数にあるので、スタートアップの専門メディアの中でも代表的なメディアで記事にされている案件のみを調査対象としています。

・海外のスタートアップ企業によるファイナンス。
・「払込日」或いは「調達のプレスリリース日」が2014年1月1日~2014年6月30日のもの。
・全件を網羅することはできないので、CrunchBase及びTHE BRIDGEでピックアップされた案件(つまり、スタートアップ界隈で話題になったファイナンス)のうち、JPY2億超のファイナンスを調査対象とする。
・投資家及び調達資金の情報が公開されていないファイナンスについては対象外。

 

②調査項目


 前回と全く同じです。①の「調査対象」に当てはまったファイナンス全件について、下記を調べました。

 ・調達日付(分からない場合はプレスリリース日)
 ・会社名
 ・創業日
 ・調達ラウンド
 ・調達金額
 ・出資者
 ・サービス内容
 ・資金用途
 ・サービスの独自性
 ・業種
以下のセクションでは、↓のイメージ図の通り、各項目の関連性から、最近のスタートアップファイナンスのトレンドを分析してゆきます。
 

f:id:vwwatcher0719:20140713162517p:plain<イメージ図>

◆何が分かったか ~2014年上半期スタートアップファイナンスのトレンド~


①2014年上半期ファイナンスはざっくりどんな感じだったか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンス概況~

(ⅰ)調達額及び買収額の大きいスタートアップ
 今回の調査結果はざっくり版が図表04_01(簡易版)、詳細版が図表04_01(詳細版)になります。図表04_01(詳細版)については、サービスの独自性まで掘り下げて分析しておりますので、気になる方はDropboxからダウンロードして下さい(※1)。ひとり総研調べでは合計103件です。目立ったファイナンス案件としては、タクシーの配車アプリ「Uber」を提供するUber TechnologiesのUSD12億(約JPY1,200億)。これによるUberの企業価値はUSD170億(約JPY2兆)と報道されており、現在IPOしていないスタートアップ企業の中では最もバリュエーションが高い企業となっています。これに続き、AirbnbのUSD4.5億(JPY約450億)、PinterestのUSD2億(約JPY200億)、HouzzのUSD1.6億(約JPY160億)等が大きく報道されています。一方、既にExitしたスタートアップについては、Facebookによるバーチャルリアリティヘッドセットを開発するOcculus VRの買収USD20億(約JPY2,000億)や、GoogleグループのNest LabsによるDropcamの買収USD5.5億(約JPY550億)等が大きく取り上げられています。

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<図表04_01(簡易版)>
 

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<図表04_01(詳細版)>

 

(ⅱ)図表04_01から分かる海外と日本の未公開株式市場の違い
 読者の方に、以下のセクションをスムーズにご覧頂けるように、図表04_01から分かる海外と日本の未公開株式市場の違いを予めざっくりまとめたいと思います。また、前回の記事を予め読んでいただけると更に理解が深まると思います。

 (a)調達回数(ラウンド)が後の方になればなるほど、調達規模が大きくなる傾向にある。
   ⇒種類株式が普及しているため、調達回数と調達規模は比例関係にあることが多いです。詳しくは本稿の②(ⅱ)をご参照ください。
 
 (b)公開前にできる資金調達の機会が多い
   ⇒2014年上半期に限った話ではありますが、日本では最も多くてCラウンド(IPO前の4回目の資金調達)までの調達でしたが、今回の海外版ではFラウンドまであります。
 
 (c)公開前に調達できる金額が大きい
   ⇒こちらも2014年上半期に限った話ではありますが、日本では24億円が1企業が調達した最も大きい金額でしたが、今回の海外版で最も大きなファイナンスはSell OutによるEXITでUSD20億(約2,000億円)、EXIT前の調達でUSD12億(約1,200億円)で全体的に桁が違います。
 
 (d)買収も一般的
   ⇒今回調査の対象となったファイナンス108件のうち、8件がSell Outです。国内版では0件です。

 (e)業種が多種多様
   ⇒業種について、日本国内では殆どがwebサービス(アプリケーション)であり、その殆どがメディアやSNS、ゲームであるのに対し、(調査対象が広いので当たり前ですが)今回の調査の対象となったサービスは多種多様です。webサービスのほか、ハードウェアやテクノロジーそのものを商材としたスタートアップもあります。詳細は、本稿の③をご参照ください。

 (f)特徴のあるVCが多い
   ⇒海外の投資家は独立系VCの層が厚く、VCもハンズオンの仕方を差別化しています。詳細は、本稿の②をご参照ください。
 

②スタートアップは何のために資金調達をするか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『資金用途』の観点から考察する~
 
 スタートアップが調達した資金をどうやって使うかということについて調べます。調達した資金のパターン分類は前回の調査と同じです。分類の仕方については前回の記事(◆何を調べたか ③冒頭部分)をご参照ください。
 
パターン1:開発(機能強化)
パターン2:採用
パターン3:マーケティング
パターン4:海外進出
パターン5:新規サービスのローンチ
パターン6:その他(上記パターン1~5に当てはまらないもの。又はどれも当てはまるもの。シード期に調達する資金は便宜上パターン6に分類する。)
 
 2014年上半期に行われたファイナンスに全件ついて調査した結果、調達した資金の使途は以下の図表04_02のようにまとめることができました。
 

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<図表04_02>
 
 日本では、開発、採用、マーケティング、海外進出、新規サービスのローンチの順番で件数が多かったのですが(前回記事参照)、海外では、開発、マーケティング、採用、海外進出、新規サービスのローンチの順番で件数が多いです。つまり、海外では、マーケティング施策を打つための資金調達の方が、人員を拡大するための資金調達より件数が多いのです。この理由は、シリコンバレーをはじめとしたスタートアップエコシステムの発達した地域では、人材の流動性が高く、大企業の社員がスタートアップにジョインすることは珍しいことではないためと考えられます。従って、海外ではファイナンスを実施してまで人材採用のためのお金を用意する必要はなく、自然流入として、イケてるスタートアップに優秀な人材が流れるケースが多いと思われます。
 では、調達した資金の使途と、調達額や、調達した資金調達ラウンドの関係を以下で調べてゆきます。
 
 (ⅰ)調達規模と資金用途の関係
 このセクションでは、スタートアップが「どれくらいの燃料(調達資金)で、どのようなことができるのか」ということについて考えてゆきます。
 調達金額を3分類(日本円換算後で、100億円以上、10億円以上、2億円以上のファイナンスに分類。)し、それぞれの資金使途をまとめた円グラフが以下の3つです(図表04_03)。
 

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<図表04_03>
 
 図表04_03から読み取れる事実をまとめると以下の通りです。
・JPY100億以上のファイナンスは開発・採用が凡そ40%を占める全体の傾向(図表04_02参照)と乖離しており、マーケティング・海外進出・新規サービスのローンチ等、既存のサービスをフックにして事業拡大を行うためのファイナンスが多い。
・日本においては、調達規模が大きくなる程、マーケティングのための資金調達案件が増加する傾向にあったものの、海外では調達規模に関係なく、マーケティングのための資金調達案件の割合は変化していない。
 
 JPY100億円以上の超大規模なファイナンスにおいて、開発や採用のために資金調達が行われるケースが少ない理由としては、2つの理由が考えられます。1つ目の理由として、米国等のスタートアップを取り巻くエコシステムが発達している国では、IPO(EXIT)する前にサービスが完成している場合が多く、既存のサービスを強化したり、大規模な人員強化を行う必要性が、アーリーステージと比べると相対的に少ないためであると考えられます。このように考えると、海外ではIPOする前に十分な資金を調達できる環境が整っており、そのために、社内の体制とそのサービスを確立したあとにIPOするケースが多いのではないかと思われます。逆にいえば、日本の新興市場では、IPOする資金を既存のサービスの強化や人員の補充に充てる場合が多く、社内の体制やサービスが確立しないままIPOしてしまうケースがあるということです。2つ目の理由としては、この規模のファイナンスとなると、単純にBuy Out(Sell Out)によるEXITが多く、既存のサービスがBuy Outした企業側のサービスにマージされるケースがあるためと考えられます。
 海外では日本と異なり、マーケティングのための資金調達案件の割合が、資金調達規模に関わらず一定であることの理由については、次のセクション(ⅱ)で述べます。
 
 (ⅱ)調達ラウンドと資金用途の関係 
 スタートアップは成長のステージごとに調達した資金の使い道が異なると考えられます。このセクションでは、調達ラウンドごとに、調達した資金がどのような目的で使用されるのかということについて考えます。
 調達ラウンドごとのそれぞれの資金使途をまとめた円グラフが以下の図表04_04です。
 

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<図表04_04>
 
 図表04_04から読み取れる事実をまとめると以下の通りです。
・Seed期からレイターステージにかけて、人材採用のためのファイナンスは減少傾向にある。
・日本においては、Cラウンドや、大規模なファイナンス案件においてマーケティング資金を調達するファイナンスの件数が目立つ(代表的なものはGunosy)。しかし海外においては、マーケティング用の資金調達はBラウンド(ミドルステージ)より20~30%をキープしており、レイターステージになればなるほどマーケティングのための資金調達案件は多くなる兆候は見られなかった。
・Eラウンド、FラウンドといったPreIPOともいえるラウンドでは、他のラウンドに比べると、海外進出のための資金調達案件が多い。一方、日本においては、どのラウンドにおいても、海外進出のための資金調達案件は割合としては少なかった(どのラウンドでも約10%)であったが、大型の調達になると、海外進出のための資金調達案件が増加する傾向にあった。
 
 人材採用のためのファイナンスが資金調達の回数を重ねるにつれ減少傾向にある点については、日本と同様であるため、詳細については前回の記事をご参照ください。
 また、日本ではレイターステージにおけるファイナンスや、前のセクション(ⅰ)で述べた通り、規模の大きいファイナンスを実施してマーケティングのための支出に充てるケースが非常に多いですが、海外ではそのような傾向はないことから、これは日本のスタートアップ特有の傾向であると考えられます。日本においてマーケティングのために大規模な資金調達を行った企業の例として挙げられるのは、「Gunocy」「mercari」「アカツキ」等、一般消費者向けのスマホアプリを作っているスタートアップであり、これらのスタートアップが手がけるビジネスは(特にソーシャルゲームアプリ)、TVCMによる効果が大きいとされています。従って、これらのスタートアップは、そのサービスをTVCMによって一般消費者(つまり将来のユーザー)に認知させる強いインセンティブをもっており、その結果、大規模なファイナンスによって得た資金をTVCMに投下しています。そして、このようなコンテンツを提供するwebサービスは日本においてはスタートアップの主流ですが、海外に目を向けると、SNSやゲーム等を主力のサービスとするスタートアップは日本に比べ相対的に少ないため、大規模な調達をしてTVCMを打つ必要性がなく、「調達規模が大きくなればなるほどマーケティングのための資金が調達される」という傾向は日本独特である考えられます。
 さらに、海外進出のための資金調達案件がレイターステージになればなるほど増加する点についても、日本のケース(前回記事参照)と異なります。このような傾向が見られる理由としては、海外においては、ラウンドを重ねるごとに調達できる金額は大きくなるケースが一般的であり、日本においては、資金調達の回数と一度のラウンド調達できる金額が必ずしも比例関係にない、つまり、ラウンドが上がったとしてもバリュエーションが上がるとは限らないためと考えられます。 「ラウンドが上がったとしてもバリュエーションが上がらない」というのは、ダウンラウンド(※2)を意味しますが、ではなぜ日本の未公開株式市場は、海外に比べてダウンラウンドするケースが多いといえるのでしょうか。それは、日本の未公開株式市場において、種類株式が普及していないためであると推測できます。簡単に言えば、種類株式とは、株式をもっている株主にオプションで色々な権利を使うことを認めてあげようという内容の株式ですので、オプションがある分、普通株式による出資に比べてバリュエーションが高くなる傾向にあります。この種類株式について、日本ではその複雑さや、「普通株式による資金調達が一般的である」という市場全体の認識から、欧米に比べるとその普及度は著しく低いといわれています。海外のスタートアップファイナンス環境における、各ラウンドとその調達額の中央値を図表04_05にまとめたのでご参照ください。
 

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<図表04_05>
 
 
③投資家はどのようなスタートアップに出資しているか ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『投資家』の観点から考察する~

 投資家(VC)とスタートアップの関係にフォーカスしてみましょう。ひとり総研では、投資家を以下のように5タイプに分類したうえで、「どのタイプの投資家がどのタイミングでスタートアップにどれくらいのお金を入れる傾向にあるのか」を分析します。(※3

タイプ1:金融系
⇒銀行や証券会社等の金融機関を母体に設立されたもの。それに加え、今回は投資対象がスタートアップ以外のPEファンドを運営する資産管理会社等も金融系VCに含める(※4)。
タイプ2:事業会社・CVC系
事業会社を母体に設立されたもの、或いは事業会社からの直接投資。
タイプ3:独立系
ベンチャーキャピタル業を専業とする投資家であり、ファウンダーが個人であるもの。シードアクセラレーター等もこれに分類される。
タイプ4:政府系 
⇒公的機関により設立されたもの。
タイプ5:その他
ベンチャーキャピタル業を行いながらも、他の事業を行っている場合や、今回調査の対象となっていない個人投資家(エンジェル投資家)の資産管理会社が投資を行っている場合等、上記タイプ1~4に分類できなかったもの。(※5

 海外のスタートアップファイナンスの案件を全件調べたわけではないので、網羅性に限界はありますが、海外では独立系VCがスタートアップエコシステムで大きな役割を担っているように思えます。
 また、今回のリサーチを通じて分かった日本と米国のVCの最大の違いは、「VCがハンズオンの仕方について差別化を図っている」という点です。この理由としては、シリコンバレー等スタートアップを取り巻くエコシステムが発達した地域では、スタートアップのサービスが多種多様であり、IPO前に大規模なファイナンスまでできることから、未公開のスタートアップでも様々なステージの企業が存在していることから、VCは投資するスタートアップを「選ぶ」側というよりも、スタートアップから「選ばれる」側に立っているのではないかと思います。ちなみに、今回調べていて個性的だと思ったVCをピックアップしたのが図表04_06です。(YcombinatorやAndreessen Horowitzとかは有名すぎるので敢えて入れていません。
 

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<図表04_06>
 
(ⅰ)調達規模と投資家の関係 
 このセクションでは、国内版と同様、「一番金払いのいいベンチャーキャピタルはどういうベンチャーキャピタルか」ということについて考えてゆきます。(もちろん2014年上半期だけのデータから読み取れる結論なので、普遍的な結論は出せないことにご留意下さい。)
 

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<図表04_07>
 
図表04_07より読み取れる事実は以下の通り。
・最もディール規模が大きいのはCVC・事業会社系。
・金融系はレイターステージによっているので、規模の大きいディールが多い。
・独立系はシードアクセラレーター等も含むため、金融系に比べると比較的小さい案件が多い。
 
 CVC・事業会社系の投資家の調達規模が大きいのは、事業会社によるスタートアップのBuy Outが含まれており、調達金額にExit価額が含まれているためであると考えられます。
 また、金融系VCの調達規模が大きいのは、調達規模が大きいレイターステージからの資本参加が多いためと考えられます。金融系VCがレイターステージから資本参加する理由については、前回の記事をご参照ください。
 
(ⅱ)調達ラウンドと出資者の関係
 このセクションでも、国内版と同様、「どういう投資家がどの段階で資本参加してくれるのか」ということについて考えます。結果は、以下の図表04_08及び図表04_09にまとめました。独立系VCの絡んだ案件が多すぎるので絶対数で比較するとわかりにくいことから、各々のタイプのVCが出資したラウンドの案件数を100分率ベースで見たものが図表04_09です。
 

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<図表04_08>

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<図表04_09>

 上記図表から読み取れることは、国内版で見た通りのことです。即ち、日本のVCも海外のVCもタイプ別に見たら資本参加のタイミングに大きな差異はない、ということです。詳細は前回の記事の「◆何が分かったか ③ (ⅱ)」をご覧下さい。
④ファイナンスをしたスタートアップはどのようなサービスなのか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『業種』の観点から考察する~
 2014年上半期の海外のスタートアップによる資金調達ですが、ざっくりサービスの属性(業種)を分類したうえで、今どんなジャンルのサービスに資金が集中しているのかを分析します。分類方法は、分類①と分類②という大きく2つのレベルに分類し、それぞれの説明は以下の図表04_10に示しました。(前回の記事では分類は①から③までありましたが、今回は多種多様なサービスが調査対象になっているため、2つにとどめておきました。)
 

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<図表04_10>
 
(ⅰ)調達規模とサービスの属性(業種)の関係
 このセクションでは、「どのサービスが投資家の注目を集めているのか」ということを考えます。それぞれの分類ベースで調達金額をまとめた図表04_11をご覧下さい。
 

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<図表04_11>
 
図表04_11のうち、投資家からの注目度が高い業種についてレビューします。
 
IoT :調達金額が最も大きいのは、FacebookによるOcculus VRの買収USD20億が含まれているため。また、全4件中3件がSell Outである点にも注目すべき。これは、大企業が研究開発戦略の一環としてスタートアップを買収しているものと考えられます。(詳細は前々回のハードウェア関連のスタートアップについてリサーチした記事をご参照ください。)
 
SharingEconomy :世界中のスタートアップの中で最もバリュエーションの高いUberが属する業種であることから、投資家からの注目度は非常に高いと考えられます。Sharing Economyといっても、共有するものによって分類することができ、乗り物のシェアは「Uber」、スペースのシェアは「Airbnb」や、国内では最近注目度の高い「スペースマーケット」等が具体例として挙げられます。しかし、ここで注目すべきは、全6件中4件が乗り物のシェアリングサービスであるという点です。つまり、Uberのクローンが各国で複数ローンチされているということですが、なぜこのようなスタートアップが続々と資金調達を成功させているのでしょうか。その理由はSharingEconomy系サービスは地域に根ざしたビジネスであるためだと考えられます。つまり、SharingEconomy系のサービスは、ユーザーのサービスに対するアクセシビリティや、現地の規制に対応する必要があるということです。例えば、現在Uberが東京の一部地域で利用可能となっているものの、地方に住んでいるユーザーはUberのサービスを受けることができません。このように、各国の慣行や規制、文化に精通した現地のプレイヤーがユーザーに最も使われる可能性が高く、逆にUber等の国際展開を進めるメガ・プレイヤーは、各国にサービスをローカライズする必要があります。よって、各地域に根ざしたSharing Economy系サービスは、たとえUberのパクりであろうと、ある程度の成長性は見込める(寧ろUberの成功体験に習うことができる)ため、投資家からの注目を浴びるのには一定の合理性はあるといえます。
 
Fintech :この分野が注目される理由は、ITによるイノベーションが起こっていない領域が多くあるためであると考えられます。例えば、Eコマースが各国で一般化するにつて、決済関連のサービスへのニーズが高まるし、BitCoinの普及によって、BitCoinの決済や交換などの周辺サービスへのニーズが高まるものと考えられます。
 
(ⅱ)調達ラウンドとサービスの属性(業種)の関係
   このセクションでは、「どのようなサービスが何回目の出資を受けているのか」ということを調べることで、スタートアップ業界において将来的にバズるであろう業種を推定します。これについては、例のごとくGartnerの”HypeCycleもどき”を作りました。詳細は、前回の記事(◆何が分かったか ④(ⅱ))をご参照ください(※6)。
 

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<図表04_12>
 
 図表04_12から各業種の市場環境について考察した結果、以下のことが分かりました。
・BtoBのSaaSERP,BigData,HRM,CRM)はレッドオーシャン
・SharingEconomy系サービスはレッドオーシャン(?)
 
 まず、BtoBのSaaS全般の市場環境ですが、BigData関連のBI(Business Intelligence)ツールや、HRM等の分野ではとくにプレイヤーの数が多いうえに、類似サービスを提供しうる既存の大企業(Intuit等)が存在することから、レッドオーシャンであると考えられます。しかしながら、例えばIntuitはスタートアップのBuy Outを非常に積極的に行っているため、EXITをSell Outとすれば、スタートアップ側も参入しやすい市場と言えるかもしれません。
 そして、非常に注目度の高いSharingEconomy系サービスですが、交通機関の共有はUber、スペースの共有はAirbnb等、各ジャンルにおいて支配的なプレイヤーが決している事から、一見レッドオーシャンであるように見えます。しかし、上述の通り、SharingEconomy系サービスは地域に根ざしたビジネスモデルであるが故に、各国におけるタイムマシン経営(※7)が成り立ちます。従って、UberやAirbnb等のメガ・プレイヤーがいかに迅速にグローバル展開、というよりもグローカル展開を行うかによって、各国の市場がレッドオーシャンブルーオーシャンになるかが決するものと思われます。
 最後に、こちらも注目分野であるIoTですが、ひとり総研ではブルーオーシャンな市場であると判断しました。その根拠としては、以下が挙げられます。
(a) ウェアラブルデバイスについては、その支配的なソフトウェアが決まっていない点。
(b) 今回の調査対象となったスタートアップのうち、4件中3件がSell OutによるExitであることから分かるように、大企業のIoTに関連する技術力に対する買収ニーズが非常に高いうえに、例えば、Googleの2013年度の売上の内訳を見ると、ハードウェア関連の売上はほとんど計上されていない(前々回の記事の◆何が分かったか ③をご覧下さい。)ことから、IoT分野で十分にマネタイズできている支配的なプレイヤーもまだ決まっていないといえる点。
(c) インターネットにつなげられるモノは、事実上無数にあることから、モノの数だけビジネスチャンスが広がる点。
 

◆ひとり総研からの提案

 

 海外のスタートアップファイナンスを調査して、日本のスタートアップを取り巻くファイナンス環境に今後必要な要素を挙げて、少しマクロな視点からの提案を掲げようと思います。筆者の言いたいことは図表04_13に凝縮していますので、時間のない方はそちらをご覧下さい。
 

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<図表04_13>
 
 スタートアップが公開前にファイナンスを行ううえで、ひとまずのゴールとなるのは「EXIT」です。このEXITをしやすく、なおかつ、EXIT後もその成長性を持続させるためには、スタートアップを取り巻く環境(エコシステム)はどうあるべきでしょうか。ひとり総研では、その答えとして理想的な未公開株式市場の2つの特徴を挙げたいと思います。1つ目が「Sell Outの活発化」、2つ目がIPO前のスタートアップの「サービス、及び内部統制(※8)の確立」です。これについては、どの教科書を見ても書いてあるようなことですね。但し、大事なのはこの2つの施策をどのように実現させてゆくべきかという点です。
 「Sell Outの活発化」を実現させるためには、ハードウェア・スタートアップをはじめとしたスタートアップの業種が多様化し、それを育てる多様なインキュベーター・VCが出現する必要があります。ここで、「スタートアップの業種多様化」と「インキュベーター・VCの多様化」は因果関係にあるものの、どちらが先かは分かりません。卵と鶏の関係です。但し、どちらかが多様化することによって、スタートアップのBuy Outを行うような大企業の多様なニーズに応えうる豊かなエコシステムを醸成すると考えられます。
 一方、「サービス、及び内部統制の確立」の実現は、スタートアップがEXIT前に多額かつ、何度も調達できる環境できるような未公開株式市場を前提としています(※9)。つまり、未公開のスタートアップでも、イケてる企業には多額に資金が集まり、資金調達の機会も豊富に与えられているという環境が理想的です。日本の未公開株式市場では、調達できる資金が海外に比べて少ないうえに、投資家・スタートアップともにダウンラウンドを恐れて資金調達の機会が極めて限定的になっています。その状況を打開できるのが「種類株式」であると考えられます。上述の通り、種類株式はオプションがついている分、普通株式よりバリュエーションを底上げすることができるため、投資家も安心して多くの金額をベットすることができます。その結果、スタートアップがEXIT前に多額かつ、何度も調達できる環境できるような市場環境が実現すれば、VCの動きも活発化し、「インキュベーター・VCの多様化」につながりますし、スタートアップにたくさんお金が流れるため、「スタートアップの業種多様化」にもつながります。
 つまり、「スタートアップの業種多様化」、「インキュベーター・VCの多様化」、「EXIT前に多額かつ、何度も調達できるファイナンス環境」を実現し、スタートアップエコシステムを整備することで、スタートアップがEXITしやすい環境をつくり、なおかつ、EXIT後も持続的に成長を続けられることが期待されるのでは、ということです。
 
 以上のように、海外のスタートアップファイナンスを調べる事で、日本のスタートアップを取り巻くファイナンス環境に今後必要となるべきであろうポイントをあぶりだすことができました。今回はややマクロ寄りの話になり、筆者も自信がない部分もありますので、何か変なところがあれば指摘して頂ければと思います。来月も宜しくお願い致します。

03_2014年上半期のスタートアップファイナンスまとめ(国内版)

INDEX
◆何を知りたいか
2014年上半期ファイナンスはざっくりどんな感じだったか。
②スタートアップは何のために資金調達をするのか。
③投資家はどのようなスタートアップに出資しているか
④ファイナンスをしたスタートアップはどのようなサービスなのか。
 
◆何を調べたか
①調査対象
②調査項目
 
◆何が分かったか ~2014年上半期スタートアップファイナンスのトレンド~
①2014年上半期ファイナンスはざっくりどんな感じだったか。 ~2014年上半期スタートアップファイナンス概況~
②スタートアップは何のために資金調達をするか。 ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『資金用途』の観点から考察する~
③投資家はどのようなスタートアップに出資しているか ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『投資家』の観点から考察する
④ファイナンスをしたスタートアップはどのようなサービスなのか。 ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『業種』の観点から考察する~
 
◆ひとり総研からの提案
①投資家の視点から
②スタートアップの視点から ~ファイナンスを実施する際に留意すべきこと~
 
 
 以下、本編です。今回は2014年上半期のスタートアップファイナンスをまとめてみました。この記事を通して最新のデータから読み取れるスタートアップファイナンスのトレンドを提供し、僭越ながら今後国内のスタートアップ市場を更に盛り上げるための提案までできればと思います。
 

◆何を知りたいか

①2014年上半期ファイナンスはざっくりどんな感じだったか。
2014年上半期のスタートアップ・ファイナンスを振り返って・・・
②スタートアップは何のために資金調達をするのか。
③投資家はどのようなスタートアップに出資しているか
④ファイナンスをしたスタートアップはどのようなサービスなのか。
 

◆何を調べたか

①調査対象
 下記項目にあてはまるファイナンスを調査対象としました。
 ・国内のスタートアップ企業によるファイナンス。
 ・「払込日」或いは「調達のプレスリリース日」が2014年1月1日~2014年6月30日のもの全件。
 ・投資家及び調達資金の情報が公開されていないファイナンスについては対象外。
 
②調査項目
 ①の「調査対象」に当てはまったファイナンス全件について、下記を調べました。
 ・調達日付(分からない場合はプレスリリース日)
 ・会社名
 ・創業日
 ・調達ラウンド
 ・調達金額
 ・出資者
 ・サービス内容
 ・資金用途
 ・サービスの独自性
 ・業種
 以下のセクションでは、↓のイメージ図の通り、各項目の関連性から、最近のスタートアップファイナンスのトレンドを分析してゆきます。
 

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 <イメージ図>
 

◆何が分かったか ~2014年上半期スタートアップファイナンスのトレンド~

 

2014年上半期ファイナンスはざっくりどんな感じだったか。 ~2014年上半期スタートアップファイナンス概況~

 今回の調査結果はざっくり版が図表03_01(簡易版)、詳細版が図表03_01(詳細版)になります。図表03_01(詳細版)については、サービスの独自性まで掘り下げて分析しておりますので、気になる方はDropboxからダウンロードして下さい。ひとり総研調べでは合計41件で、調達金額の平均は3億円程度。目立った案件としては、Gunosyの合計24億円、Sansanの14.6億円、メルカリの14.5億円、アカツキの14億円のファイナンスでしょう。一方でシード勢も元気です。創業年数1年以下のスタートアップは41件中6件。トランスリミット(ソーシャルクイズアプリ「Brain wars」)、クービック(ネット予約システムの「Coubic」)、ゴロー(ファッションキュレーションサイト「melo」)、ハッチ(ビッグデータ活用の人事採用系サービス「Talentio」)、スピカ(ネイル画像共有アプリ「ネイルブック」)、トレタ(予約管理台帳サービス「トレタ」)です。今後に要注目ですね。それぞれのサービスも独特で面白いので、是非詳細版もご覧下さい。(※1)

 

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<図表03_01(簡易版)>
 

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<図表03_01(詳細版)>
 
 

②スタートアップは何のために資金調達をするか。 ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『資金用途』の観点から考察する~

 スタートアップによる資金調達のニュースは華々しく、多くの業界関係者の注目を集めますが、本当に大切なのはスタートアップが調達した資金をどうやって使うか、ということです。そこでひとり総研では、会社の発表したプレスリリースをもとに、調達した資金の使途を調べました。まず、主な資金用途は以下の6パターンに分類されるものと考えました。
 
パターン1:開発(機能強化)
パターン2:採用
パターン3:マーケティング
パターン4:海外進出
パターン5:新規サービスのローンチ
パターン6:その他(上記パターン1~5に当てはまらないもの。又はどれも当てはまるもの。シード期に調達する資金は便宜上パターン6に分類する。)
 
 そして、2014年上半期のファイナンスそれぞれのプレスリリースを読んで、上記のパターン1~6に該当するものがあれば1件ずつカウントしてゆきます。例えば、2014年1月30日にファイナンスをした株式会社ワンオブゼムの資金用途は、プレスリリースによると以下の通りです。
 
メインプロダクト「ガチャウォリアーズ」大幅リニューアル(3月予定)及び年内ネイティブゲームタイトル3本のリリース。更に新規事業(ゲームコミュニティ事業及びB2Bマーケティング事業)の開始。
 
 この場合、パターン1「開発(機能強化)」とパターン5「新規サービスのローンチ」の2つが調達資金の使途であると判断します。このような作業を、2014年上半期のファイナンス全件について、実施した結果が、図表03_02です。

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<図表03_02>
 
 ところで、調達した資金の使途は、調達額や、調達した企業のステージ(調達ラウンド)によって変化するものなのでしょうか。もちろん相関性はありそうですが、具体的にどのように相関しているのでしょうか。以下のセクションでこの疑問に答えます。
 
 (ⅰ)調達規模と資金用途の関係
 このセクションでは、スタートアップが「どれくらいの燃料(調達資金)で、どのようなことができるのか」ということについて考えてゆきます。
 調達金額を3分類(10億円以上、1億円以上、1億円未満のファイナンスに分類。)し、それぞれの資金使途をまとめた円グラフが以下の3つです(図表03_03)。
 

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<図表03_03>
  
 調達額が10億超になると海外進出資金が目立ちます。(ⅱ)でラウンドごとの資金用途でも述べますが、ここで注意したいのが、調達額が大きいラウンドの全てが、レイターステージであるとは限らない点です。(ⅱ)の図表03_04のCラウンドの円グラフをご覧頂きたいのですが、10億円以上のファイナンスは海外進出目的の調達が目立ちますが、Cラウンドのファイナンスは海外進出目的の調達は13%に過ぎません。つまり、レイターステージでも調達額が大きくなければ海外進出に充てられるほどの資金を手にすることは出来ないと考えることができます。
 また、10億超のファイナンスが他の調達額に比べてマーケティングにあてられる点も注目すべきでしょう。(※2)
 
 (ⅱ)調達ラウンドと資金用途の関係
 スタートアップは成長のステージごとに調達した資金の使い道が異なると考えられます。このセクションでは、調達ラウンドごとに、調達した資金がどのような目的で使用されるのかということについて考えます。
 調達ラウンドごとのそれぞれの資金使途をまとめた円グラフが以下の図表03_04です。
 

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<図表03_04>
 
 図表03_04から読み取れる事実をまとめると以下の通りです。
 ・Seed期からレイターステージにかけて、人材採用のためのファイナンスは減少傾向にある。
 ・Cラウンドにおいてマーケティング資金を調達するファイナンスが目立つ(代表的なものはGunosy)。
 ・Bラウンドは開発及び人材採用以外はほぼ横並びであり、スタートアップによって調達した資金の用途がバラバラである。
 ・全体として開発(機能強化)のために資金調達したラウンドが多い。
 
 まず、Seed期からレイターステージにかけて、人材採用のためのファイナンスは減少傾向にある理由としては、シード資金の調達とともにコアメンバーを集め、そのメンバーを中心にEXITまで持っていくスタイルが主流なのだからかもしれません。この点、スタートアップ側にご留意いただきたいのが、EXITするのに必要なコストです。つまり、IPOをする場合、社内の管理体制がぐちゃぐちゃな会社を上場するわけにはいかないので、上場する前に堅牢な内部統制を整備すべきです。従って、上場が見えてきた段階でかまわないので、ある程度の人的コストをかけて管理面をフォローする必要があります。
 また、Cラウンドにおいてマーケティング資金を調達するファイナンスの件数が目立つ理由としては、レイターステージの調達になるとユーザー数もある程度の段階に達しているからだと考えられます。Webサービスの場合、会社の運営するサービスが1本だけ (例えば、Gunosyという会社が運営するサービスはGunosyというウェブサービス一本です。)であることも珍しくありません。従って、既存のユーザーに見放されないうちにマス展開を図り、リスクを低減するものと考えられ、そのために大規模なプロモーション施策をうつための資金調達を実施しているものと考えられます。
 Bラウンドは開発及び人材採用以外はほぼ横並びであり、スタートアップが調達した資金の用途がバラバラで、他のラウンドと少し様子が違います。つまり、調達した資金を何に使うかという意思決定は、アーリーステージとレイターステージではある程度どのスタートアップも同じ傾向にあるのに関わらず、ミドルステージでは、スタートアップがサービスを更にスケールさせるためにお金を使うポイントが、各企業ごとに異なるということです。そう考えると、「ミドルステージで調達した資金をどのような目的で使うか」という意思決定はスタートアップの今後を決定づける重要な意思決定であると考えられます。
 

③投資家はどのようなスタートアップに出資しているか ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『投資家』の観点から考察する

 投資家(VC)とスタートアップの関係にフォーカスしてみましょう。ひとり総研では、投資家を以下のように5タイプに分類したうえで、「どのタイプの投資家がどのタイミングでスタートアップにどれくらいのお金を入れる傾向にあるのか」を分析します。
 
タイプ1:金融系
⇒銀行・生損保・地銀に加え、証券等の金融機関を母体に設立されたもの。具体例は、みずほキャピタルジャフコ(野村系)等。
タイプ2:事業会社・CVC系
事業会社を母体に設立されたもの。具体例は、グリー、サイバーエージェントGMO等、その子会社が運営するファンドも含む。
タイプ3:独立系
⇒どのパターンにも属しない投資家。具体例はグロービス、日本テクノロジーベンチャーキャピタル等。ここ最近は個人が運営するファンドも多く見受けられる(磯崎氏のFemtoや木下氏のSkyland等)。
タイプ4:政府系
⇒公的機関により設立されたもの。産業革新機構等。
タイプ5:海外投資家
⇒海外の投資家。投資家はパターン1~4のなかでも、海外から出資している投資家は別枠でカウントします。
 
 なお、2014年上半期、投資家のタイプ別スタートアップへの件数は以下の図表03_05にあります。事業会社・CVC系が割合として大きいですね。事業会社系はサービスのシナジーを見込んでの投資がケースとして多いので、大企業がスタートアップのサービスに熱視線を送っているということでしょうか。だとしたら非常に良い傾向だと思います。
 

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<図表03_05>
 
 (ⅰ)調達規模と投資家の関係 
 このセクションでは、ざっくり言うと「一番金払いのいいベンチャーキャピタルはどういうベンチャーキャピタルか」ということについて考えてゆきます。(もちろん2014年上半期だけのデータから読み取れる結論なので、普遍的な結論は出せないことにご留意下さい。)
 ひとり総研では、図表03_01のデータを、それぞれのタイプの投資家ごとに集計し、ファイナンス規模(調達額)の平均値及び中央値をとってみました(※3)。その結果が図表03_06になります。
 

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<図表03-06>
 
 件数自体が少ない海外・政府系を除くと、独立系の出資するラウンドの規模は大きい点が特徴的。独立系VCはキャピタルゲイン一本で食っていかなければならないVCが殆どですので、業界でも話題になる大きなディールに絡んでくるケースが多くあるためと考えられます。次に、CVC・事業会社系に注目すると、件数が多いという要因があるものの、全体としてラウンドの規模に大きな振れ幅があります。これについては次のセクションで触れます。
 
 (ⅱ)調達ラウンドと出資者の関係
 このセクションでは、「どういう投資家がどの段階で資本参加してくれるのか」ということについて考えます。結果は、以下の図表03_07にまとめました。
 

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<図表03_07>
 
 図表03_07から読み取れることとしては、以下のような事実です。
 ・金融系はCラウンドからの参加が多い。一方で創業期のスタートアップへの投資件数は少ない。
 ・CVC・事業会社系及び独立系に関しては、金融系とは異なりレイター投資の件数少ない。
 ・CVC・事業会社系はSeed~Aラウンドの創業期のスタートアップへの投資案件が多い。
 ・独立系はCラウンドへの投資案件が少ない。Seed,Bラウンドへの投資案件が多い。
 
 金融系VCの出資案件にレイターステージのスタートアップが多いのは、このステージの企業には、IPOやデットでの調達というイベントが控えているためと考えられます。つまり、金融系VCは、同グループの証券会社や銀行とともに囲い込みを行うインセンティブがあります。従って、自社グループによる囲い込みを効率的に行うためには、上場するかしないかわからないアーリーステージのスタートアップより、レイターステージのスタートアップへ出資するほうが確実です。そう考えると、金融系VCによる資本参加はIPOへのシグナルになるかもしれません。
 また、独立系VCは金融機関等と異なりファンドサイズが小さいものが多いです。従って、他のVCと差別化を図るためには積極的なハンズオンを行うインセンティブがあると考えられます。ハンズオンを行うためにはアーリーステージから経営者とコミュニケーションをとる必要があるため、比較的アーリーステージでの資本参加が多いのでしょう。(しかしVCによっては他のステージから資本参加するものもあり、VCの得意分野によって出資をうけるタイミングは異なるものと思われます。)
 CVC・事業会社の出資パターンは以下の2つ。
  (Ⅰ)サービスがしっかり回りはじめた時期に出資し、スタートアップが事業会社と組んで新規サービスをローンチするパターン。
  (Ⅱ)シードラウンドで出資をすることで、事業会社の既存サービスとシナジーがありそうなサービスを囲い込む。
 つまり、どのラウンドであっても、「事業とのシナジー」を中心に投資意思決定を行うものと考えられます。だから、上記のセクション(ⅰ)で示した通り調達額の大きさがバラバラだったんですね。
 

④ファイナンスをしたスタートアップはどのようなサービスなのか。 ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『業種』の観点から考察する~

 2014年上半期のスタートアップによる資金調達ですが、ざっくりサービスの属性(業種)を分類したうえで、今どんなジャンルのサービスに資金が集中しているのかを分析します。とは言うものの、一言でそのサービスの特徴を表現するのは難しいため、分類を3つ設けました(図表03_08)。分類①から分類③にかけて、分類が細かくなっているイメージです。
 

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<図表03_08>
 
 ちなみに、上記の分類とは別に、BtoBとBtoCで分類して集計したところ、図表03_09のようになりました。ファイナンスの件数ベースでは、BtoCのほうがBtoBをダブルスコアで上回っています。1件あたりの調達額もBtoCがBtoBを上回っています。新興市場のサービスはBtoC中心ということです。
 

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<図表03_09>
 
 (ⅰ)調達規模とサービスの属性(業種)の関係
 このセクションでは、「どのサービスが投資家の注目を集めているのか」ということを考えます。それぞれの分類ベースで調達金額をまとめた図表03_10をご覧下さい。
 

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<図表03_10>
 
 ハードウェアよりweb serviceの方がお金を集めていることに関しては何も違和感はありませんが、もうちょっとハードウェアスタートアップのファイナンスの事例が増えてきてもいいかなと個人的には思っています。詳しくは以前の記事(02_ハードウェア・ベンチャーのファイナンスをまとめたみた - (月刊)ひとり総研)をご参照下さい。
 さて、分類②をご覧下さい。「メディア」が、調達金額、調達件数ともに1位です。つまり、2014年上半期で最も投資家の注目を集めたジャンルが「メディア」ということです。具体的な企業名を挙げると、「つみき(filmarks)」「tab」「白ヤギコーポレーション(kamelio)」「Gunosy」「SUVACO」「カタリズム(あそびゅー!)」「賃貸情報(キャッシュバック賃貸)」。それぞれのサービス内容は図表03_01でご覧下さい。メディアといってもたくさんあるので、これを更に細かく分類すると、図表03_11のようになります。最もメジャーなジャンルとしてCGM、次にバーティカルメディア、その後にニュースアプリ枠でキュレーションメディアのGunosyとフォローメディアのKamelioが並ぶかたちとなっております。世の中に情報があふれているからこそ、その情報をどうやって見せるかという方法に、消費者が高い付加価値を見出しているのかもしれません。
 

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<図表03_11>
 
 
 次点で、「コマース」が、調達金額、調達件数ともに2位です。具体的な企業名を挙げると、「メルカリ」「Tokyo Otaku Mode」「ゴロー(melo)」「BASE」「セカイエ」「クリーマ」がこれに該当します。こちらもそれぞれのサービスの内容は図表03_01でご覧頂きたいのですが、この中でも、「メルカリ」「BASE」「クリーマ」がCtoCコマースである点にも注目です。
 分類③をご覧いただくと、SNSが件数、調達金額ともに大きいです。分類③はサービスの副次的な特徴を分類したものなので、このデータから読み取れるのは、純粋なSNSメッセンジャーアプリ等)より、既存のサービスにSNS要素を掛け合わせたサービスが投資家の注目を集めているものと考えられます。具体的には、ゲーム×SNS(例えば「Brainwars」等のソーシャルゲーム)、CGM×SNS(例えば「つみき(Filmarks)」等のメディア型のSNS)、HRM×SNS(例えば「wizpra」等の社内SNS)などなど。さまざまなジャンルが生まれています。
 
 (ⅱ)調達ラウンドとサービスの属性(業種)の関係
   このセクションでは、「どのようなサービスが何回目の出資を受けているのか」ということを調べることで、スタートアップ業界において将来的にバズるであろう業種を推定します。
 ある業種のあるスタートアップ(A社とします。)が、レイターステージ(Cラウンド)の調達を実施したとします。そのサービスが以前ピボット(企業がサービスを見直すこと)しなかったものと仮定すると、当該サービスは今回の調達で最低でも3回目の調達をしたことになります。従って、そのサービスの属する市場は、先行者であるA社によりある程度開拓されていると考えられるため、あとは価格競争による競争原理が働きます。つまり、その市場で取引されるサービスは既にコモディティ化しているものと考えます。逆に言うと、ある特定の業種に属するスタートアップがほとんどシード、アーリーステージで調達を実施している場合、その業種はまだ先行者がいない市場であると考えられます。つまり、こういう市場にスタートアップが参入すれば、ポジショニング理論的には競争優位を保つ可能性が高いといえます。
 この原理をもとに(ⅰ)の分類②をベースとして最も進んでいる調達ラウンドとサービスの属性(業種)の関係を示したのが図表03_12です。図表03_12では、縦軸に「普及/認知度」を、横軸に「サービスの属性(業種)」及び「調達ラウンド」をとっています。イメージとしては、左に行けば行くほど目新しい技術やサービス領域でブルーオーシャン、右に行けば行くほどコモディティ化してレッドオーシャンになるといったところです。この図表はGartnerが毎年発表している「Hype Cycle」から着想を得たものです。こちらも面白いので読んでみて下さい。
 

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<図表03_12>
 
 上記図表から読み取れることは以下の通りです。
 
 ・Fintech:freee1社でCラウンド調達。但し、この分野は既に大企業(弥生会計、OBIC等)が同様の事業を展開しているため、既に地獄(レッドオーシャン)。爆速で成長するfreeeが既存の大企業とどうやって戦うのかに目が離せない。
 ・メディア:地獄(レッドオーシャン)。プレイヤーが多い上に既にIPO間近までスケールしている先行者が存在している。
 
 ・コマース:投資家からの注目度は高く、プレイヤーは多いものの、形勢はまだ決していない。しかし、この分野は参入障壁がかなり低いため、ブルーオーシャンというわけではなく、近いうちに勝者が決まるものと考えられる。今後の各社の動きに注目。
 ・システム導入:シード資金を調達している2社は「webpay」と「アイキューブドシステムズ(COLMO)」。どちらも既存の大企業が提供していない方法でシステム導入を支援するツールを提供している。
 
 個人的にはサービスとして2014年下半期にバズる可能性があると考えている分野は「コマース」。とくにシード資金を調達したばかりの「ゴロー(melo)」や「BASE」の今後が気になります。また、大きな括りではありますが、スマートフォンの普及による消費者の購買行動の変化に伴い、企業側のwebサイトや決済システムにも変化が生じています。BtoBでこの変化に対応できるサービスがまだまだ出てくるのではないかなと個人的には思っています。
 

◆ひとり総研からの提案

 

①投資家の視点から

 以上を振り返ったとき筆者がうけた印象は、調達した資金を元手に海外進出をするスタートアップが少ないのではないか、ということ。つまり、IPO前にグローバル展開をしているスタートアップが少ないし、日本のVCはまだまだスタートアップの海外進出を後押しできていないのでは?ということです。
 まず、現状日本で勢いのある(=VCからお金をたくさん調達している)スタートアップは、CGMを中心としたメディア領域のビジネスや、SNS要素を取り入れたソーシャル系のビジネスです。そういったビジネスが海外展開をする場合、外国語への対応、現地の法規制への対応だけでなく、現地の文化にうまく溶け込めるようにサービスを再構築しなければなりません。そう考えると、海外展開に対応するためのコストは莫大です。しかし、「②(ⅰ)調達規模と資金用途の関係」で示した通り、海外展開のための資金調達を行っている事例はまだまだ少ない(全体の10%)ように思えます。IPOによって海外展開に向けた資金調達をするというケースもあるとは思いますが、国内の飽きっぽいユーザーにリーチしているだけのサービスに、果たして市場は高いバリューをつけるのでしょうか。(※4)
 スタートアップ側では(2014年下半期に調達を完了したgumiのように)世界を相手に戦うという意識を従業員全員で持ち続けるのは当然ですが、VC側でも現地のネットワークを使って、できるだけ低コストで海外進出をさせてあげるようなハンズオンの仕方ができる投資家が今よりもっともっと増えることが望まれます。
 

②スタートアップの視点から ~ファイナンスを実施する際に留意すべきこと~

2014年上半期のファイナンス事例を組み合わせて、ひとり総研なりの「資金調達の勝ちパターン」を描いてみました。
 
資金調達の勝ちパターン≫
・アーリーステージで、調達した資金を使ってある程度の人材確保⇒サービスをいっきに回して、自社サービスがマス化したときに浮き彫りになるであろうボトルネックを把握しておく。
・ミドル(Bラウンド)では自社のボトルネックを解消し、さらにサービスをスケールさせるための資金を調達する。積極的なハンズオンを行ってくれる独立系のVCに出資してもらうのもあり。
・レイターステージでは、自社サービスがターゲットユーザーをいっきに増やしてマス化するための資金を調達する。海外に進出するのも良いし、新規サービスをローンチするも良い。効果があると確信していれば、CMを流しても良いかもしれない。
 
飽くまで理想的な勝ちパターンに過ぎないので、この通りに調達をしている会社はあまりないと思います。
ただ、アーリーステージのスタートアップは、お金がなくてもKPIを回しサービスの仮説検証をすることはできます。一方で、仮説検証した結果、改善されたサービスをより多くのユーザーに使ってもらうことや、リソースが足りないためにカバーしきれていない課題には、資金がないと対応できません。なので、より良いサービスを作るためには、ミドルの段階である程度営業キャッシュをプラスに保つことが理想的であると考えられます。
以上より、(釈迦に説法であることは承知のうえですが、)サービスの成長段階で資金調達を成功させたいスタートアップの経営者(CFO)は、VCに対してこういう説得の仕方をするのが親切なのではないかなと思います。
 
「うちのサービスは、今こういう課題を抱えている。この課題を解決するためには、こういう施策をいつまでに実施すべき。そのためにはいつまでにどれくらいの金額が欲しい。」
 
 今回の記事は以上です。来月は2014年上半期のスタートアップファイナンスまとめ(海外版)をアップします。この記事に関して何か間違いや疑問点が御座いましたら、是非メールかコメント欄にお願いします。この記事を作成している筆者は一人なのでどうしてもいい加減なところはあると思います。記事を見てくれている皆さんとこの記事を完成させてゆきたいと思います。どうぞ宜しくお願いします。

02_ハードウェア・ベンチャーのファイナンスをまとめたみた

ご無沙汰しております。第1回の記事からだいぶ間が空いてしまいましたが、更新します。
半年放置していた自分への自戒の意味もこめ、ブログの名前を変更しました。
今後は毎月ペースで必ず更新します。
 
 

INDEX

 ◆何を知りたいか。

 ◆何を調べたか。

 ◆何がわかったか。-今回のまとめから得た知見-

 ◆ひとり総研からの提言 -日本からメガベンチャーを輩出するために-

 

さて、前回の記事から、VCにとって「ハードウェア系」のスタートアップ企業は良い投資先になるのではないかという点について言及しました。つまり、こういった企業は、バイオベンチャーに比して投下資本の回収リスクが低く、ウェブサービス系のベンチャーに比してEXIT時のリターンが大きい。日本の新興市場で2012年度、2013年度にIPOを果たした銘柄を対象に、こういった知見を得ることができました。

 

今回はというと、国内外のハードウェア系スタートアップについて、以下の点につきリサーチしたいと思います。

 

◆何を知りたいか

①どんなハードウェア・ベンチャーが、どれくらいの規模で誰から資金調達をしているのか?

②なぜGoogleFacebook等ITの巨人は、ハードウェア・ベンチャーをバイアウトするのか?

③日本のハードウェア・ベンチャーからメガベンチャーは登場するのか?

 

◆何を調べたか

対象となったハードウェア・ベンチャー(※1)に対して、以下の項目を調べました。

①創業日(創業年数)

 調査対象の企業が「新興企業か否か」を判断する目的です。

 

②調達資金と投資家(事業会社)

 当然、ここが一番知りたい項目です。ファイナンスの規模とお金の出し手を調べます。Sell OutによるEXITの場合は買手の事業会社の名称を調べます。

 

③資金用途

 資金調達を行った際、殆どのスタートアップはPressを出し、その中で今回のラウンドで調達した資金の使い道を公表します。「ハードウェア・ベンチャーが何にお金を使うのか」。これを明らかにするための項目です。

 

事業内容とプロダクトの独自性

 資金調達を果たし、急成長を遂げるスタートアップであるからには、そのサービスは革新的であるはずです。サービスの革新性はそのスタートアップが手がけるプロダクトの独自性を源泉にするものという仮説のもと、リサーチを行っています。

 

⑤(事業会社の場合)シナジー

 事業会社によるスタートアップのBuy Outが行われる場合、そこにシナジーが生じる可能性については前回の記事でも言及しています。この項目について調査する事で、大企業が一見ニッチなガジェットをつくっているハードウェア・ベンチャーを買収することの合理性に迫ります。

 

⑥ 前回の資金調達

 ハードウェア・ベンチャーの資金需要が生じるタイミング等の知見を得るため、前回の資金調達の概要を簡単にまとめます。

 

以上、6つの疑問点をリサーチしたのが、図表02_01です。・・・といってもあまり見えないと思いますので(笑)、細かいデータ等、気になる方は以下のリンクからエクセルをダウンロードして下さい。

Dropbox - 図表02_01(ハードウェア・ベンチャーファイナンス).xlsx

 

f:id:vwwatcher0719:20140608223634p:plain

<図表02_01>

 

 

 ◆何がわかったか。-今回のまとめから得た知見-


図表02_01をご覧いただくと、本当にさまざまなプロダクトがファイナンスをしていることがわかります。切り口はいろいろあると思いますが、今回分かった事を凝縮してまとめたのが以下の①~③です。

 

①意外と短いファイナンスのスパン ~プロジェクトとしての資金調達の次は、法人としての資金調達。~
 
 読者の皆さんは、初期に設備投資が必要なハードウェア・ベンチャーのファイナンスのスパンはかなり長期的、つまり、前のラウンドと次のラウンドの間に大きな時間的な隔たりがあると予想されているはずです。
 但し、今回の調査対象に当たったスタートアップはそうではない企業が多いです。
 なぜなら、Kickstarter等のクラウドファンディングで成功したプロジェクトが、事業化するケースが多く、前のラウンドにおける資金調達をクラウドファンディングを利用して行った場合、ファイナンスのスパンはおよそ1年以内に収まる場合が多いためです。
 その原因として考えられるのは、VCが「クラウドファンディングでお金を集められる会社だから、今後事業がスケールするに違いない」と思ってファイナンスに応じたか、起業家が「うちのチームはクラウドファンディングでお金を集められたから、自分たちは社会的に大きなインパクトを与えられるプロダクトを作れるはずだ」と思ってファイナンスをしたか。
  釈迦に説法かもしれませんが、ハードウェア・ベンチャークラウドファンディングの親和性についてはクリス・アンダーソン著「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」に詳しいです。
 いずれにせよ、「クラウドファンディングで自分たちのプロダクトが認められた」という事実が、スタートアップに、1プロジェクトとしてではなく、1法人として事業をスケールアップさせるための資金調達を可能にさせるということが推測されます。その証拠に、多くのスタートアップが「自社エンジニア(開発者)の採用」を資金調達の用途として掲げています。
 

③研究開発活動としてのベンチャー企業買収

 図表02_01のファイナンス規模をレビューしていくと、ひときわ目立つのがIoT(※2)のサーモスタットメーカーNest(図表02_01のNo.19)のGoogleへのセルアウトです。

 この他にも、調査対象期間を絞った関係で、図表02_01には反映されていませんが、VRヘッドセットベンチャーのOcculus(図表02_01のNo.17)がFacebookにUSD2,000,000,000で買収されたことは記憶に新しいでしょう。

 大企業によるスタートアップのバリュエーションは、シナジーを見込む関係上、過大になる傾向があることは前回の記事で指摘しましたが01_2012年、2013年にIPOしたスタートアップのファイナンスをまとめてみた。 - (月刊)ひとり総研参照)、ハードウェアの世界では具体的にどういうシナジーを求めてスタートアップの買収が行われるのでしょうか。

 図表02_02はGoogleの2013年度における売上の内訳です。

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<図表02_02:Google決算情報>

 Google製のハードウェアがGoogleの売上全体に占める割合は、売上総額ベースで10%に満たないレベルです。(2年前は売上の10%どころか売上が計上されていません。)

 しかし、Googleは米国の証券取引委員会に届け出ているAnnual Reportにおいて、

 

Other revenues consist of non-advertising revenues including licensing, hardware and digital content. We expect other revenues to continue to grow. However, operating margin on other revenues is generally lower than that on advertising revenues.

 

 と述べている通り、ハードウェアの売上成長を加速させる意気込みがあります。

 上記事実と、2013年12月頃になされたGoogleはハードウェア・ベンチャーを8社買収したという報道等から読み取ると、Google経営資源を外部に見出しており、ハードウェア分野での競争優位を早期に確立するため、買収を行っているものと考えられます。

 ハードウェア・ベンチャーはそのチームがもつ技術力をコアに事業を展開しています。Webサービス系のスタートアップとは違い、個々のスタートアップ間の模倣可能性が著しく低く、従って、Google等の大企業からすれば研究開発投資の一環としてM&Aが位置付けられているのではないでしょうか。

 

③米国と日本のファイナンスの特徴

 図表02_03は図表02_01から日本と米国に法人登記をしている会社を抜き出し、ファイナンスの特徴を比較した表です。日本のハードウェア・ベンチャーの投資環境を、米国のそれと比較して、何かしらの示唆を得たいという趣旨でまとめたものです。

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<図表02_03:米国vs日本のハードウェア・ベンチャーファイナンスデータ比較>

 

 ・・・と、思ったのですが、日本国内で未上場のスタートアップがエクイティで資金調達をしている事例が少なすぎました。

 今回サンプルに当たったのは「J-TOWER」「ロイヤルゲート」「コイニー」の3件です。これでも搾り出したほうなので、他の事例に心当たりがある方は教えてください。

 ファイナンス規模については、中央値で比較すると(※3)意外にも日本の方が規模感があります。この理由については、国がお金を出しているというのも考えられますが、やはり彼らがプロダクトを「つくる」ための資金を集めているからでしょう。

資金調達のスパンについても、米国に比べて間隔が長いです。また、米国では日本に比べ、創業間もないスタートアップが資金調達に成功しているイメージもあります。想像ですが、日本のVCとしては実績も何もない怪しいチームに大枚をはたくのには大きな抵抗がある、といったところなのでしょうか。

 なお、最近では、CYBERDYNEの上場等の好事例は出ているものの、事業内容のバラエティについても米国のほうが富んでいます(会社の絶対数が違うので仕方ないといえば仕方ありませんが・・・)。さらにVCについても日本国内では産業革新機構など限られたVCしかお金を出していません。米国ではLemnos LabsやHaxr8r(ハクセラレーター)等、ハードウェアに特化したシードアクセラレーターの名も多く聞くとおり、やはりハードウェアでの企業を促すような風土が醸成されているのでしょう。

 

◆ひとり総研からの提言-日本からメガベンチャーを輩出するために-

今回の調査結果を踏まえ、ひとり総研から新興市場へ2つの提案を投げかけてみたいと思います。

①ハードウェア専門のクラウドファンディングプラットフォームの可能性。

②悩める大企業こそ、ハードウェア・ベンチャーのバイアウトを。

第1の提言ですが、ハードウェアに特化したクラウドファンディングプラットフォームを利用するスタートアップが増えれば、日本のハードウェア・ベンチャーからメガベンチャーが登場する可能性が高いのではないかという意見です。ハードウェア特化のクラウドファンディングは以下の点で優れています。

 

(ⅰ)市場調査やトライアルをしなくても、プロダクトに対して高関与なユーザーがプロダクトに対してフィードバックをもたらしてくれる。

(ⅱ)クラウドファンディングでの出資者は購入者であるため、つくったものは必ず売れる。従って、ハードウェア特有の在庫リスクや開発資金不足等の問題は起こりにくい。

(ⅲ)本来、スタートアップが「実績」をつくることは大変困難なこと。しかし、クラウドファンディングでお金が集まったプロジェクトは、お金を集めたことを「実績」として更なる資金調達ができる可能性がある。つまり、クラウドファンディングプラットフォームにおける資金の出し手が、「目利き」を行っているといえる。

 

(ⅰ)⇒(ⅱ)⇒(ⅲ)の順番で重要になっています。つまり、クラウドファンディングが活発化した場合に今後ある事例としては、以下のような事業のスケールのパターンが在り得るということです。

 ある才能あるチームが作ったプロダクトが、クラウドファンディングサイトで大きな注目を集める。そのプロジェクトは開始1日で目標金額を突破、インターネット上で話題が話題を呼び、目標金額を大きく超えるかたちで締め切りを迎える。

決済が完了し、プロダクトが手元に届いた後も、クラウドファンディングを通じて形成されたユーザーのコミュニティからさまざまなフィードバックをもらい、次バージョンのプロダクトのイメージもはっきりしてきた。

ここで、そのチームは法人登記後、VCから出資を募ったところ、プロダクトがクラウドファンディングサイトで高い評価を得たということで高いバリュエーションで十分な資金を調達することができた。これを機に、創業者は大企業から優秀なエンジニアを迎えることができた。

 

 もう一点、「大企業によるスタートアップの買収」自体が少ない日本ですが、特にハードウェアの世界にこそ、大企業によるスタートアップの買収が望まれます。なぜなら、ハードウェア・ベンチャーコア・コンピタンスは多くの場合その『技術力』や、プロダクトを中心に構築した独自の『サプライチェーン』であると考えられるためです。こういった要素は一夜にして構築できる程模倣可能なものではないし、大企業におけるイノベーションのジレンマを考慮すると、大企業の中にそもそもそんな技術が芽を出す可能性すら低いのです。

そう考えれば、大企業としては、スタートアップの買収を通して研究開発活動を効率化することができるし、スタートアップとしてはVCより高いバリュエーションで研究開発資金を得ることができる。両者の力関係で多少の違いがあれど、理論的にはWin-Winの関係が築けるはずです。

以上のとおり、今回は2つの提案を投げかけて筆を置かせて頂きます。よく考えるとこの2つの提案はスタートアップ界隈ではよく言われていることで、別に目新しいことではない。しかし、世界のハードウェア・ベンチャーの資金調達を概観した結果、このようなことがわかったという点では、日本の新興市場に対して強い示唆となるのではないでしょうか。

来月は2014年上半期のスタートアップのファイナンスまとめを行う予定です。コンスタントに書き続けます!(決意)

宜しくお願いします。

 

※1今回の調査対象となったスタートアップ企業は以下の通りです。

① 2013/2/1~2014/1/31の約一年間でエクイティファイナンスを実施した企業

② 取り扱うサービスがプロダクト(実体)を伴うものである企業

③ 2013/2/1~2014/2/28の間にTech Crunchさんあるいは、StartUp Dating(THE BRIDGE)さんで調達のニュースが報じられている企業

④ ファイナンスについて、調達した資金と資金の出し手がわかる企業

⑤ファイナンス規模がJPY1億円以上(一回のラウンドが複数に分かれているものも含む。)

⑥ファイナンスがVCによって行われたものであること。

少なくとも、「調達→製造→組立→販売→サービス(保守)」のバリューチェーンの俎上にあるプロダクトをつくっているスタートアップであるというイメージを持っていただけると読みやすいです。

 

※2モノのインターネット(IoT)については、以下の資料に詳しい。

https://www.nri.com/jp/event/mediaforum/2012/pdf/forum183_1.pdf

 

※3平均値を用いずに中央値を用いる。Nestの買収等、調達額の大きさが桁違いのものを含めて平均をとると、データに偏りが生じてしまうため。