02_ハードウェア・ベンチャーのファイナンスをまとめたみた
INDEX
◆何を知りたいか。
◆何を調べたか。
◆何がわかったか。-今回のまとめから得た知見-
◆ひとり総研からの提言 -日本からメガベンチャーを輩出するために-
さて、前回の記事から、VCにとって「ハードウェア系」のスタートアップ企業は良い投資先になるのではないかという点について言及しました。つまり、こういった企業は、バイオベンチャーに比して投下資本の回収リスクが低く、ウェブサービス系のベンチャーに比してEXIT時のリターンが大きい。日本の新興市場で2012年度、2013年度にIPOを果たした銘柄を対象に、こういった知見を得ることができました。
今回はというと、国内外のハードウェア系スタートアップについて、以下の点につきリサーチしたいと思います。
◆何を知りたいか
①どんなハードウェア・ベンチャーが、どれくらいの規模で誰から資金調達をしているのか?
②なぜGoogleやFacebook等ITの巨人は、ハードウェア・ベンチャーをバイアウトするのか?
③日本のハードウェア・ベンチャーからメガベンチャーは登場するのか?
◆何を調べたか
対象となったハードウェア・ベンチャー(※1)に対して、以下の項目を調べました。
①創業日(創業年数)
調査対象の企業が「新興企業か否か」を判断する目的です。
②調達資金と投資家(事業会社)
当然、ここが一番知りたい項目です。ファイナンスの規模とお金の出し手を調べます。Sell OutによるEXITの場合は買手の事業会社の名称を調べます。
③資金用途
資金調達を行った際、殆どのスタートアップはPressを出し、その中で今回のラウンドで調達した資金の使い道を公表します。「ハードウェア・ベンチャーが何にお金を使うのか」。これを明らかにするための項目です。
④事業内容とプロダクトの独自性
資金調達を果たし、急成長を遂げるスタートアップであるからには、そのサービスは革新的であるはずです。サービスの革新性はそのスタートアップが手がけるプロダクトの独自性を源泉にするものという仮説のもと、リサーチを行っています。
事業会社によるスタートアップのBuy Outが行われる場合、そこにシナジーが生じる可能性については前回の記事でも言及しています。この項目について調査する事で、大企業が一見ニッチなガジェットをつくっているハードウェア・ベンチャーを買収することの合理性に迫ります。
⑥ 前回の資金調達
ハードウェア・ベンチャーの資金需要が生じるタイミング等の知見を得るため、前回の資金調達の概要を簡単にまとめます。
以上、6つの疑問点をリサーチしたのが、図表02_01です。・・・といってもあまり見えないと思いますので(笑)、細かいデータ等、気になる方は以下のリンクからエクセルをダウンロードして下さい。
Dropbox - 図表02_01(ハードウェア・ベンチャーファイナンス).xlsx
<図表02_01>
◆何がわかったか。-今回のまとめから得た知見-
図表02_01をご覧いただくと、本当にさまざまなプロダクトがファイナンスをしていることがわかります。切り口はいろいろあると思いますが、今回分かった事を凝縮してまとめたのが以下の①~③です。
③研究開発活動としてのベンチャー企業買収
図表02_01のファイナンス規模をレビューしていくと、ひときわ目立つのがIoT(※2)のサーモスタットメーカーNest(図表02_01のNo.19)のGoogleへのセルアウトです。
この他にも、調査対象期間を絞った関係で、図表02_01には反映されていませんが、VRヘッドセットベンチャーのOcculus(図表02_01のNo.17)がFacebookにUSD2,000,000,000で買収されたことは記憶に新しいでしょう。
大企業によるスタートアップのバリュエーションは、シナジーを見込む関係上、過大になる傾向があることは前回の記事で指摘しましたが(01_2012年、2013年にIPOしたスタートアップのファイナンスをまとめてみた。 - (月刊)ひとり総研参照)、ハードウェアの世界では具体的にどういうシナジーを求めてスタートアップの買収が行われるのでしょうか。
図表02_02はGoogleの2013年度における売上の内訳です。
Google製のハードウェアがGoogleの売上全体に占める割合は、売上総額ベースで10%に満たないレベルです。(2年前は売上の10%どころか売上が計上されていません。)
しかし、Googleは米国の証券取引委員会に届け出ているAnnual Reportにおいて、
Other revenues consist of non-advertising revenues including licensing, hardware and digital content. We expect other revenues to continue to grow. However, operating margin on other revenues is generally lower than that on advertising revenues.
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と述べている通り、ハードウェアの売上成長を加速させる意気込みがあります。
上記事実と、2013年12月頃になされたGoogleはハードウェア・ベンチャーを8社買収したという報道等から読み取ると、Googleは経営資源を外部に見出しており、ハードウェア分野での競争優位を早期に確立するため、買収を行っているものと考えられます。
ハードウェア・ベンチャーはそのチームがもつ技術力をコアに事業を展開しています。Webサービス系のスタートアップとは違い、個々のスタートアップ間の模倣可能性が著しく低く、従って、Google等の大企業からすれば研究開発投資の一環としてM&Aが位置付けられているのではないでしょうか。
③米国と日本のファイナンスの特徴
図表02_03は図表02_01から日本と米国に法人登記をしている会社を抜き出し、ファイナンスの特徴を比較した表です。日本のハードウェア・ベンチャーの投資環境を、米国のそれと比較して、何かしらの示唆を得たいという趣旨でまとめたものです。
<図表02_03:米国vs日本のハードウェア・ベンチャーファイナンスデータ比較>
・・・と、思ったのですが、日本国内で未上場のスタートアップがエクイティで資金調達をしている事例が少なすぎました。
今回サンプルに当たったのは「J-TOWER」「ロイヤルゲート」「コイニー」の3件です。これでも搾り出したほうなので、他の事例に心当たりがある方は教えてください。
ファイナンス規模については、中央値で比較すると(※3)意外にも日本の方が規模感があります。この理由については、国がお金を出しているというのも考えられますが、やはり彼らがプロダクトを「つくる」ための資金を集めているからでしょう。
資金調達のスパンについても、米国に比べて間隔が長いです。また、米国では日本に比べ、創業間もないスタートアップが資金調達に成功しているイメージもあります。想像ですが、日本のVCとしては実績も何もない怪しいチームに大枚をはたくのには大きな抵抗がある、といったところなのでしょうか。
なお、最近では、CYBERDYNEの上場等の好事例は出ているものの、事業内容のバラエティについても米国のほうが富んでいます(会社の絶対数が違うので仕方ないといえば仕方ありませんが・・・)。さらにVCについても日本国内では産業革新機構など限られたVCしかお金を出していません。米国ではLemnos LabsやHaxr8r(ハクセラレーター)等、ハードウェアに特化したシードアクセラレーターの名も多く聞くとおり、やはりハードウェアでの企業を促すような風土が醸成されているのでしょう。
◆ひとり総研からの提言-日本からメガベンチャーを輩出するために-
今回の調査結果を踏まえ、ひとり総研から新興市場へ2つの提案を投げかけてみたいと思います。
①ハードウェア専門のクラウドファンディングプラットフォームの可能性。
②悩める大企業こそ、ハードウェア・ベンチャーのバイアウトを。
第1の提言ですが、ハードウェアに特化したクラウドファンディングプラットフォームを利用するスタートアップが増えれば、日本のハードウェア・ベンチャーからメガベンチャーが登場する可能性が高いのではないかという意見です。ハードウェア特化のクラウドファンディングは以下の点で優れています。
(ⅰ)市場調査やトライアルをしなくても、プロダクトに対して高関与なユーザーがプロダクトに対してフィードバックをもたらしてくれる。
(ⅱ)クラウドファンディングでの出資者は購入者であるため、つくったものは必ず売れる。従って、ハードウェア特有の在庫リスクや開発資金不足等の問題は起こりにくい。
(ⅲ)本来、スタートアップが「実績」をつくることは大変困難なこと。しかし、クラウドファンディングでお金が集まったプロジェクトは、お金を集めたことを「実績」として更なる資金調達ができる可能性がある。つまり、クラウドファンディングプラットフォームにおける資金の出し手が、「目利き」を行っているといえる。
(ⅰ)⇒(ⅱ)⇒(ⅲ)の順番で重要になっています。つまり、クラウドファンディングが活発化した場合に今後ある事例としては、以下のような事業のスケールのパターンが在り得るということです。
ある才能あるチームが作ったプロダクトが、クラウドファンディングサイトで大きな注目を集める。そのプロジェクトは開始1日で目標金額を突破、インターネット上で話題が話題を呼び、目標金額を大きく超えるかたちで締め切りを迎える。 決済が完了し、プロダクトが手元に届いた後も、クラウドファンディングを通じて形成されたユーザーのコミュニティからさまざまなフィードバックをもらい、次バージョンのプロダクトのイメージもはっきりしてきた。 ここで、そのチームは法人登記後、VCから出資を募ったところ、プロダクトがクラウドファンディングサイトで高い評価を得たということで高いバリュエーションで十分な資金を調達することができた。これを機に、創業者は大企業から優秀なエンジニアを迎えることができた。 |
もう一点、「大企業によるスタートアップの買収」自体が少ない日本ですが、特にハードウェアの世界にこそ、大企業によるスタートアップの買収が望まれます。なぜなら、ハードウェア・ベンチャーのコア・コンピタンスは多くの場合その『技術力』や、プロダクトを中心に構築した独自の『サプライチェーン』であると考えられるためです。こういった要素は一夜にして構築できる程模倣可能なものではないし、大企業におけるイノベーションのジレンマを考慮すると、大企業の中にそもそもそんな技術が芽を出す可能性すら低いのです。
そう考えれば、大企業としては、スタートアップの買収を通して研究開発活動を効率化することができるし、スタートアップとしてはVCより高いバリュエーションで研究開発資金を得ることができる。両者の力関係で多少の違いがあれど、理論的にはWin-Winの関係が築けるはずです。
以上のとおり、今回は2つの提案を投げかけて筆を置かせて頂きます。よく考えるとこの2つの提案はスタートアップ界隈ではよく言われていることで、別に目新しいことではない。しかし、世界のハードウェア・ベンチャーの資金調達を概観した結果、このようなことがわかったという点では、日本の新興市場に対して強い示唆となるのではないでしょうか。
来月は2014年上半期のスタートアップのファイナンスまとめを行う予定です。コンスタントに書き続けます!(決意)
宜しくお願いします。
※1今回の調査対象となったスタートアップ企業は以下の通りです。
① 2013/2/1~2014/1/31の約一年間でエクイティファイナンスを実施した企業
② 取り扱うサービスがプロダクト(実体)を伴うものである企業
③ 2013/2/1~2014/2/28の間にTech Crunchさんあるいは、StartUp Dating(THE BRIDGE)さんで調達のニュースが報じられている企業
④ ファイナンスについて、調達した資金と資金の出し手がわかる企業
⑤ファイナンス規模がJPY1億円以上(一回のラウンドが複数に分かれているものも含む。)
⑥ファイナンスがVCによって行われたものであること。
少なくとも、「調達→製造→組立→販売→サービス(保守)」のバリューチェーンの俎上にあるプロダクトをつくっているスタートアップであるというイメージを持っていただけると読みやすいです。
※2モノのインターネット(IoT)については、以下の資料に詳しい。
https://www.nri.com/jp/event/mediaforum/2012/pdf/forum183_1.pdf
※3平均値を用いずに中央値を用いる。Nestの買収等、調達額の大きさが桁違いのものを含めて平均をとると、データに偏りが生じてしまうため。