(月刊)ひとり総研

ベンチャー企業に関連する情報、ファイナンス情報、その他役に立ちそうなデータを月1ペースでまとめるブログ。

04_2014年上半期のスタートアップファイナンスまとめ(海外版)

 今月は2014年上半期に資金調達に成功したスタートアップについて調べました。前回が国内版のスタートアップファイナンスまとめだったので、今回は日本と海外の未公開株式市場の違いにスポットライトをあてた調査をしたいと思っています。(ちなみに、『月刊』と銘打ったものの、1記事つくるのがとても大変で更新が遅れてしまいました。すみません。来月から頑張ります。)
 
INDEX
◆何を知りたいか
①2014年上半期海外のスタートアップのファイナンスはざっくりどんな感じだったか。 ~2014年上半期スタートアップファイナンス概況~
②日本と海外(主に米国)のスタートアップを取り巻く市場環境の違いは何か。
③スタートアップは何のために資金調達をするか。 ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『資金用途』の観点から考察する~
④投資家はどのようなスタートアップに出資しているか ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『投資家』の観点から考察する~
⑤ファイナンスをしたスタートアップはどのようなサービスなのか。 ~2014年上半期のスタートアップファイナンスを『業種』の観点から考察する~
◆何を調べたか
①調査対象
②調査項目

◆何が分かったか ~2014年上半期スタートアップファイナンスのトレンド~
①2014年上半期ファイナンスはざっくりどんな感じだったか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンス概況~
②スタートアップは何のために資金調達をするか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『資金用途』の観点から考察する~
③投資家はどのようなスタートアップに出資しているか ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『投資家』の観点から考察する~
④ファイナンスをしたスタートアップはどのようなサービスなのか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『業種』の観点から考察する~

◆ひとり総研からの提案
 
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◆何を調べたか

①調査対象
下記項目にあてはまるファイナンスを調査対象としました。3つめの項目については、国内版スタートアップファイナンスまとめ(前回の記事)と異なる項目です。国内版では、原則的にプレスリリースを出ているファイナンス全件を調査対象としましたが、海外版だとスタートアップの数も無数にあるので、スタートアップの専門メディアの中でも代表的なメディアで記事にされている案件のみを調査対象としています。

・海外のスタートアップ企業によるファイナンス。
・「払込日」或いは「調達のプレスリリース日」が2014年1月1日~2014年6月30日のもの。
・全件を網羅することはできないので、CrunchBase及びTHE BRIDGEでピックアップされた案件(つまり、スタートアップ界隈で話題になったファイナンス)のうち、JPY2億超のファイナンスを調査対象とする。
・投資家及び調達資金の情報が公開されていないファイナンスについては対象外。

 

②調査項目


 前回と全く同じです。①の「調査対象」に当てはまったファイナンス全件について、下記を調べました。

 ・調達日付(分からない場合はプレスリリース日)
 ・会社名
 ・創業日
 ・調達ラウンド
 ・調達金額
 ・出資者
 ・サービス内容
 ・資金用途
 ・サービスの独自性
 ・業種
以下のセクションでは、↓のイメージ図の通り、各項目の関連性から、最近のスタートアップファイナンスのトレンドを分析してゆきます。
 

f:id:vwwatcher0719:20140713162517p:plain<イメージ図>

◆何が分かったか ~2014年上半期スタートアップファイナンスのトレンド~


①2014年上半期ファイナンスはざっくりどんな感じだったか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンス概況~

(ⅰ)調達額及び買収額の大きいスタートアップ
 今回の調査結果はざっくり版が図表04_01(簡易版)、詳細版が図表04_01(詳細版)になります。図表04_01(詳細版)については、サービスの独自性まで掘り下げて分析しておりますので、気になる方はDropboxからダウンロードして下さい(※1)。ひとり総研調べでは合計103件です。目立ったファイナンス案件としては、タクシーの配車アプリ「Uber」を提供するUber TechnologiesのUSD12億(約JPY1,200億)。これによるUberの企業価値はUSD170億(約JPY2兆)と報道されており、現在IPOしていないスタートアップ企業の中では最もバリュエーションが高い企業となっています。これに続き、AirbnbのUSD4.5億(JPY約450億)、PinterestのUSD2億(約JPY200億)、HouzzのUSD1.6億(約JPY160億)等が大きく報道されています。一方、既にExitしたスタートアップについては、Facebookによるバーチャルリアリティヘッドセットを開発するOcculus VRの買収USD20億(約JPY2,000億)や、GoogleグループのNest LabsによるDropcamの買収USD5.5億(約JPY550億)等が大きく取り上げられています。

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<図表04_01(簡易版)>
 

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<図表04_01(詳細版)>

 

(ⅱ)図表04_01から分かる海外と日本の未公開株式市場の違い
 読者の方に、以下のセクションをスムーズにご覧頂けるように、図表04_01から分かる海外と日本の未公開株式市場の違いを予めざっくりまとめたいと思います。また、前回の記事を予め読んでいただけると更に理解が深まると思います。

 (a)調達回数(ラウンド)が後の方になればなるほど、調達規模が大きくなる傾向にある。
   ⇒種類株式が普及しているため、調達回数と調達規模は比例関係にあることが多いです。詳しくは本稿の②(ⅱ)をご参照ください。
 
 (b)公開前にできる資金調達の機会が多い
   ⇒2014年上半期に限った話ではありますが、日本では最も多くてCラウンド(IPO前の4回目の資金調達)までの調達でしたが、今回の海外版ではFラウンドまであります。
 
 (c)公開前に調達できる金額が大きい
   ⇒こちらも2014年上半期に限った話ではありますが、日本では24億円が1企業が調達した最も大きい金額でしたが、今回の海外版で最も大きなファイナンスはSell OutによるEXITでUSD20億(約2,000億円)、EXIT前の調達でUSD12億(約1,200億円)で全体的に桁が違います。
 
 (d)買収も一般的
   ⇒今回調査の対象となったファイナンス108件のうち、8件がSell Outです。国内版では0件です。

 (e)業種が多種多様
   ⇒業種について、日本国内では殆どがwebサービス(アプリケーション)であり、その殆どがメディアやSNS、ゲームであるのに対し、(調査対象が広いので当たり前ですが)今回の調査の対象となったサービスは多種多様です。webサービスのほか、ハードウェアやテクノロジーそのものを商材としたスタートアップもあります。詳細は、本稿の③をご参照ください。

 (f)特徴のあるVCが多い
   ⇒海外の投資家は独立系VCの層が厚く、VCもハンズオンの仕方を差別化しています。詳細は、本稿の②をご参照ください。
 

②スタートアップは何のために資金調達をするか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『資金用途』の観点から考察する~
 
 スタートアップが調達した資金をどうやって使うかということについて調べます。調達した資金のパターン分類は前回の調査と同じです。分類の仕方については前回の記事(◆何を調べたか ③冒頭部分)をご参照ください。
 
パターン1:開発(機能強化)
パターン2:採用
パターン3:マーケティング
パターン4:海外進出
パターン5:新規サービスのローンチ
パターン6:その他(上記パターン1~5に当てはまらないもの。又はどれも当てはまるもの。シード期に調達する資金は便宜上パターン6に分類する。)
 
 2014年上半期に行われたファイナンスに全件ついて調査した結果、調達した資金の使途は以下の図表04_02のようにまとめることができました。
 

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<図表04_02>
 
 日本では、開発、採用、マーケティング、海外進出、新規サービスのローンチの順番で件数が多かったのですが(前回記事参照)、海外では、開発、マーケティング、採用、海外進出、新規サービスのローンチの順番で件数が多いです。つまり、海外では、マーケティング施策を打つための資金調達の方が、人員を拡大するための資金調達より件数が多いのです。この理由は、シリコンバレーをはじめとしたスタートアップエコシステムの発達した地域では、人材の流動性が高く、大企業の社員がスタートアップにジョインすることは珍しいことではないためと考えられます。従って、海外ではファイナンスを実施してまで人材採用のためのお金を用意する必要はなく、自然流入として、イケてるスタートアップに優秀な人材が流れるケースが多いと思われます。
 では、調達した資金の使途と、調達額や、調達した資金調達ラウンドの関係を以下で調べてゆきます。
 
 (ⅰ)調達規模と資金用途の関係
 このセクションでは、スタートアップが「どれくらいの燃料(調達資金)で、どのようなことができるのか」ということについて考えてゆきます。
 調達金額を3分類(日本円換算後で、100億円以上、10億円以上、2億円以上のファイナンスに分類。)し、それぞれの資金使途をまとめた円グラフが以下の3つです(図表04_03)。
 

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<図表04_03>
 
 図表04_03から読み取れる事実をまとめると以下の通りです。
・JPY100億以上のファイナンスは開発・採用が凡そ40%を占める全体の傾向(図表04_02参照)と乖離しており、マーケティング・海外進出・新規サービスのローンチ等、既存のサービスをフックにして事業拡大を行うためのファイナンスが多い。
・日本においては、調達規模が大きくなる程、マーケティングのための資金調達案件が増加する傾向にあったものの、海外では調達規模に関係なく、マーケティングのための資金調達案件の割合は変化していない。
 
 JPY100億円以上の超大規模なファイナンスにおいて、開発や採用のために資金調達が行われるケースが少ない理由としては、2つの理由が考えられます。1つ目の理由として、米国等のスタートアップを取り巻くエコシステムが発達している国では、IPO(EXIT)する前にサービスが完成している場合が多く、既存のサービスを強化したり、大規模な人員強化を行う必要性が、アーリーステージと比べると相対的に少ないためであると考えられます。このように考えると、海外ではIPOする前に十分な資金を調達できる環境が整っており、そのために、社内の体制とそのサービスを確立したあとにIPOするケースが多いのではないかと思われます。逆にいえば、日本の新興市場では、IPOする資金を既存のサービスの強化や人員の補充に充てる場合が多く、社内の体制やサービスが確立しないままIPOしてしまうケースがあるということです。2つ目の理由としては、この規模のファイナンスとなると、単純にBuy Out(Sell Out)によるEXITが多く、既存のサービスがBuy Outした企業側のサービスにマージされるケースがあるためと考えられます。
 海外では日本と異なり、マーケティングのための資金調達案件の割合が、資金調達規模に関わらず一定であることの理由については、次のセクション(ⅱ)で述べます。
 
 (ⅱ)調達ラウンドと資金用途の関係 
 スタートアップは成長のステージごとに調達した資金の使い道が異なると考えられます。このセクションでは、調達ラウンドごとに、調達した資金がどのような目的で使用されるのかということについて考えます。
 調達ラウンドごとのそれぞれの資金使途をまとめた円グラフが以下の図表04_04です。
 

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<図表04_04>
 
 図表04_04から読み取れる事実をまとめると以下の通りです。
・Seed期からレイターステージにかけて、人材採用のためのファイナンスは減少傾向にある。
・日本においては、Cラウンドや、大規模なファイナンス案件においてマーケティング資金を調達するファイナンスの件数が目立つ(代表的なものはGunosy)。しかし海外においては、マーケティング用の資金調達はBラウンド(ミドルステージ)より20~30%をキープしており、レイターステージになればなるほどマーケティングのための資金調達案件は多くなる兆候は見られなかった。
・Eラウンド、FラウンドといったPreIPOともいえるラウンドでは、他のラウンドに比べると、海外進出のための資金調達案件が多い。一方、日本においては、どのラウンドにおいても、海外進出のための資金調達案件は割合としては少なかった(どのラウンドでも約10%)であったが、大型の調達になると、海外進出のための資金調達案件が増加する傾向にあった。
 
 人材採用のためのファイナンスが資金調達の回数を重ねるにつれ減少傾向にある点については、日本と同様であるため、詳細については前回の記事をご参照ください。
 また、日本ではレイターステージにおけるファイナンスや、前のセクション(ⅰ)で述べた通り、規模の大きいファイナンスを実施してマーケティングのための支出に充てるケースが非常に多いですが、海外ではそのような傾向はないことから、これは日本のスタートアップ特有の傾向であると考えられます。日本においてマーケティングのために大規模な資金調達を行った企業の例として挙げられるのは、「Gunocy」「mercari」「アカツキ」等、一般消費者向けのスマホアプリを作っているスタートアップであり、これらのスタートアップが手がけるビジネスは(特にソーシャルゲームアプリ)、TVCMによる効果が大きいとされています。従って、これらのスタートアップは、そのサービスをTVCMによって一般消費者(つまり将来のユーザー)に認知させる強いインセンティブをもっており、その結果、大規模なファイナンスによって得た資金をTVCMに投下しています。そして、このようなコンテンツを提供するwebサービスは日本においてはスタートアップの主流ですが、海外に目を向けると、SNSやゲーム等を主力のサービスとするスタートアップは日本に比べ相対的に少ないため、大規模な調達をしてTVCMを打つ必要性がなく、「調達規模が大きくなればなるほどマーケティングのための資金が調達される」という傾向は日本独特である考えられます。
 さらに、海外進出のための資金調達案件がレイターステージになればなるほど増加する点についても、日本のケース(前回記事参照)と異なります。このような傾向が見られる理由としては、海外においては、ラウンドを重ねるごとに調達できる金額は大きくなるケースが一般的であり、日本においては、資金調達の回数と一度のラウンド調達できる金額が必ずしも比例関係にない、つまり、ラウンドが上がったとしてもバリュエーションが上がるとは限らないためと考えられます。 「ラウンドが上がったとしてもバリュエーションが上がらない」というのは、ダウンラウンド(※2)を意味しますが、ではなぜ日本の未公開株式市場は、海外に比べてダウンラウンドするケースが多いといえるのでしょうか。それは、日本の未公開株式市場において、種類株式が普及していないためであると推測できます。簡単に言えば、種類株式とは、株式をもっている株主にオプションで色々な権利を使うことを認めてあげようという内容の株式ですので、オプションがある分、普通株式による出資に比べてバリュエーションが高くなる傾向にあります。この種類株式について、日本ではその複雑さや、「普通株式による資金調達が一般的である」という市場全体の認識から、欧米に比べるとその普及度は著しく低いといわれています。海外のスタートアップファイナンス環境における、各ラウンドとその調達額の中央値を図表04_05にまとめたのでご参照ください。
 

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<図表04_05>
 
 
③投資家はどのようなスタートアップに出資しているか ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『投資家』の観点から考察する~

 投資家(VC)とスタートアップの関係にフォーカスしてみましょう。ひとり総研では、投資家を以下のように5タイプに分類したうえで、「どのタイプの投資家がどのタイミングでスタートアップにどれくらいのお金を入れる傾向にあるのか」を分析します。(※3

タイプ1:金融系
⇒銀行や証券会社等の金融機関を母体に設立されたもの。それに加え、今回は投資対象がスタートアップ以外のPEファンドを運営する資産管理会社等も金融系VCに含める(※4)。
タイプ2:事業会社・CVC系
事業会社を母体に設立されたもの、或いは事業会社からの直接投資。
タイプ3:独立系
ベンチャーキャピタル業を専業とする投資家であり、ファウンダーが個人であるもの。シードアクセラレーター等もこれに分類される。
タイプ4:政府系 
⇒公的機関により設立されたもの。
タイプ5:その他
ベンチャーキャピタル業を行いながらも、他の事業を行っている場合や、今回調査の対象となっていない個人投資家(エンジェル投資家)の資産管理会社が投資を行っている場合等、上記タイプ1~4に分類できなかったもの。(※5

 海外のスタートアップファイナンスの案件を全件調べたわけではないので、網羅性に限界はありますが、海外では独立系VCがスタートアップエコシステムで大きな役割を担っているように思えます。
 また、今回のリサーチを通じて分かった日本と米国のVCの最大の違いは、「VCがハンズオンの仕方について差別化を図っている」という点です。この理由としては、シリコンバレー等スタートアップを取り巻くエコシステムが発達した地域では、スタートアップのサービスが多種多様であり、IPO前に大規模なファイナンスまでできることから、未公開のスタートアップでも様々なステージの企業が存在していることから、VCは投資するスタートアップを「選ぶ」側というよりも、スタートアップから「選ばれる」側に立っているのではないかと思います。ちなみに、今回調べていて個性的だと思ったVCをピックアップしたのが図表04_06です。(YcombinatorやAndreessen Horowitzとかは有名すぎるので敢えて入れていません。
 

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<図表04_06>
 
(ⅰ)調達規模と投資家の関係 
 このセクションでは、国内版と同様、「一番金払いのいいベンチャーキャピタルはどういうベンチャーキャピタルか」ということについて考えてゆきます。(もちろん2014年上半期だけのデータから読み取れる結論なので、普遍的な結論は出せないことにご留意下さい。)
 

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<図表04_07>
 
図表04_07より読み取れる事実は以下の通り。
・最もディール規模が大きいのはCVC・事業会社系。
・金融系はレイターステージによっているので、規模の大きいディールが多い。
・独立系はシードアクセラレーター等も含むため、金融系に比べると比較的小さい案件が多い。
 
 CVC・事業会社系の投資家の調達規模が大きいのは、事業会社によるスタートアップのBuy Outが含まれており、調達金額にExit価額が含まれているためであると考えられます。
 また、金融系VCの調達規模が大きいのは、調達規模が大きいレイターステージからの資本参加が多いためと考えられます。金融系VCがレイターステージから資本参加する理由については、前回の記事をご参照ください。
 
(ⅱ)調達ラウンドと出資者の関係
 このセクションでも、国内版と同様、「どういう投資家がどの段階で資本参加してくれるのか」ということについて考えます。結果は、以下の図表04_08及び図表04_09にまとめました。独立系VCの絡んだ案件が多すぎるので絶対数で比較するとわかりにくいことから、各々のタイプのVCが出資したラウンドの案件数を100分率ベースで見たものが図表04_09です。
 

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<図表04_08>

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<図表04_09>

 上記図表から読み取れることは、国内版で見た通りのことです。即ち、日本のVCも海外のVCもタイプ別に見たら資本参加のタイミングに大きな差異はない、ということです。詳細は前回の記事の「◆何が分かったか ③ (ⅱ)」をご覧下さい。
④ファイナンスをしたスタートアップはどのようなサービスなのか。 ~2014年上半期海外のスタートアップファイナンスを『業種』の観点から考察する~
 2014年上半期の海外のスタートアップによる資金調達ですが、ざっくりサービスの属性(業種)を分類したうえで、今どんなジャンルのサービスに資金が集中しているのかを分析します。分類方法は、分類①と分類②という大きく2つのレベルに分類し、それぞれの説明は以下の図表04_10に示しました。(前回の記事では分類は①から③までありましたが、今回は多種多様なサービスが調査対象になっているため、2つにとどめておきました。)
 

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<図表04_10>
 
(ⅰ)調達規模とサービスの属性(業種)の関係
 このセクションでは、「どのサービスが投資家の注目を集めているのか」ということを考えます。それぞれの分類ベースで調達金額をまとめた図表04_11をご覧下さい。
 

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<図表04_11>
 
図表04_11のうち、投資家からの注目度が高い業種についてレビューします。
 
IoT :調達金額が最も大きいのは、FacebookによるOcculus VRの買収USD20億が含まれているため。また、全4件中3件がSell Outである点にも注目すべき。これは、大企業が研究開発戦略の一環としてスタートアップを買収しているものと考えられます。(詳細は前々回のハードウェア関連のスタートアップについてリサーチした記事をご参照ください。)
 
SharingEconomy :世界中のスタートアップの中で最もバリュエーションの高いUberが属する業種であることから、投資家からの注目度は非常に高いと考えられます。Sharing Economyといっても、共有するものによって分類することができ、乗り物のシェアは「Uber」、スペースのシェアは「Airbnb」や、国内では最近注目度の高い「スペースマーケット」等が具体例として挙げられます。しかし、ここで注目すべきは、全6件中4件が乗り物のシェアリングサービスであるという点です。つまり、Uberのクローンが各国で複数ローンチされているということですが、なぜこのようなスタートアップが続々と資金調達を成功させているのでしょうか。その理由はSharingEconomy系サービスは地域に根ざしたビジネスであるためだと考えられます。つまり、SharingEconomy系のサービスは、ユーザーのサービスに対するアクセシビリティや、現地の規制に対応する必要があるということです。例えば、現在Uberが東京の一部地域で利用可能となっているものの、地方に住んでいるユーザーはUberのサービスを受けることができません。このように、各国の慣行や規制、文化に精通した現地のプレイヤーがユーザーに最も使われる可能性が高く、逆にUber等の国際展開を進めるメガ・プレイヤーは、各国にサービスをローカライズする必要があります。よって、各地域に根ざしたSharing Economy系サービスは、たとえUberのパクりであろうと、ある程度の成長性は見込める(寧ろUberの成功体験に習うことができる)ため、投資家からの注目を浴びるのには一定の合理性はあるといえます。
 
Fintech :この分野が注目される理由は、ITによるイノベーションが起こっていない領域が多くあるためであると考えられます。例えば、Eコマースが各国で一般化するにつて、決済関連のサービスへのニーズが高まるし、BitCoinの普及によって、BitCoinの決済や交換などの周辺サービスへのニーズが高まるものと考えられます。
 
(ⅱ)調達ラウンドとサービスの属性(業種)の関係
   このセクションでは、「どのようなサービスが何回目の出資を受けているのか」ということを調べることで、スタートアップ業界において将来的にバズるであろう業種を推定します。これについては、例のごとくGartnerの”HypeCycleもどき”を作りました。詳細は、前回の記事(◆何が分かったか ④(ⅱ))をご参照ください(※6)。
 

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<図表04_12>
 
 図表04_12から各業種の市場環境について考察した結果、以下のことが分かりました。
・BtoBのSaaSERP,BigData,HRM,CRM)はレッドオーシャン
・SharingEconomy系サービスはレッドオーシャン(?)
 
 まず、BtoBのSaaS全般の市場環境ですが、BigData関連のBI(Business Intelligence)ツールや、HRM等の分野ではとくにプレイヤーの数が多いうえに、類似サービスを提供しうる既存の大企業(Intuit等)が存在することから、レッドオーシャンであると考えられます。しかしながら、例えばIntuitはスタートアップのBuy Outを非常に積極的に行っているため、EXITをSell Outとすれば、スタートアップ側も参入しやすい市場と言えるかもしれません。
 そして、非常に注目度の高いSharingEconomy系サービスですが、交通機関の共有はUber、スペースの共有はAirbnb等、各ジャンルにおいて支配的なプレイヤーが決している事から、一見レッドオーシャンであるように見えます。しかし、上述の通り、SharingEconomy系サービスは地域に根ざしたビジネスモデルであるが故に、各国におけるタイムマシン経営(※7)が成り立ちます。従って、UberやAirbnb等のメガ・プレイヤーがいかに迅速にグローバル展開、というよりもグローカル展開を行うかによって、各国の市場がレッドオーシャンブルーオーシャンになるかが決するものと思われます。
 最後に、こちらも注目分野であるIoTですが、ひとり総研ではブルーオーシャンな市場であると判断しました。その根拠としては、以下が挙げられます。
(a) ウェアラブルデバイスについては、その支配的なソフトウェアが決まっていない点。
(b) 今回の調査対象となったスタートアップのうち、4件中3件がSell OutによるExitであることから分かるように、大企業のIoTに関連する技術力に対する買収ニーズが非常に高いうえに、例えば、Googleの2013年度の売上の内訳を見ると、ハードウェア関連の売上はほとんど計上されていない(前々回の記事の◆何が分かったか ③をご覧下さい。)ことから、IoT分野で十分にマネタイズできている支配的なプレイヤーもまだ決まっていないといえる点。
(c) インターネットにつなげられるモノは、事実上無数にあることから、モノの数だけビジネスチャンスが広がる点。
 

◆ひとり総研からの提案

 

 海外のスタートアップファイナンスを調査して、日本のスタートアップを取り巻くファイナンス環境に今後必要な要素を挙げて、少しマクロな視点からの提案を掲げようと思います。筆者の言いたいことは図表04_13に凝縮していますので、時間のない方はそちらをご覧下さい。
 

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<図表04_13>
 
 スタートアップが公開前にファイナンスを行ううえで、ひとまずのゴールとなるのは「EXIT」です。このEXITをしやすく、なおかつ、EXIT後もその成長性を持続させるためには、スタートアップを取り巻く環境(エコシステム)はどうあるべきでしょうか。ひとり総研では、その答えとして理想的な未公開株式市場の2つの特徴を挙げたいと思います。1つ目が「Sell Outの活発化」、2つ目がIPO前のスタートアップの「サービス、及び内部統制(※8)の確立」です。これについては、どの教科書を見ても書いてあるようなことですね。但し、大事なのはこの2つの施策をどのように実現させてゆくべきかという点です。
 「Sell Outの活発化」を実現させるためには、ハードウェア・スタートアップをはじめとしたスタートアップの業種が多様化し、それを育てる多様なインキュベーター・VCが出現する必要があります。ここで、「スタートアップの業種多様化」と「インキュベーター・VCの多様化」は因果関係にあるものの、どちらが先かは分かりません。卵と鶏の関係です。但し、どちらかが多様化することによって、スタートアップのBuy Outを行うような大企業の多様なニーズに応えうる豊かなエコシステムを醸成すると考えられます。
 一方、「サービス、及び内部統制の確立」の実現は、スタートアップがEXIT前に多額かつ、何度も調達できる環境できるような未公開株式市場を前提としています(※9)。つまり、未公開のスタートアップでも、イケてる企業には多額に資金が集まり、資金調達の機会も豊富に与えられているという環境が理想的です。日本の未公開株式市場では、調達できる資金が海外に比べて少ないうえに、投資家・スタートアップともにダウンラウンドを恐れて資金調達の機会が極めて限定的になっています。その状況を打開できるのが「種類株式」であると考えられます。上述の通り、種類株式はオプションがついている分、普通株式よりバリュエーションを底上げすることができるため、投資家も安心して多くの金額をベットすることができます。その結果、スタートアップがEXIT前に多額かつ、何度も調達できる環境できるような市場環境が実現すれば、VCの動きも活発化し、「インキュベーター・VCの多様化」につながりますし、スタートアップにたくさんお金が流れるため、「スタートアップの業種多様化」にもつながります。
 つまり、「スタートアップの業種多様化」、「インキュベーター・VCの多様化」、「EXIT前に多額かつ、何度も調達できるファイナンス環境」を実現し、スタートアップエコシステムを整備することで、スタートアップがEXITしやすい環境をつくり、なおかつ、EXIT後も持続的に成長を続けられることが期待されるのでは、ということです。
 
 以上のように、海外のスタートアップファイナンスを調べる事で、日本のスタートアップを取り巻くファイナンス環境に今後必要となるべきであろうポイントをあぶりだすことができました。今回はややマクロ寄りの話になり、筆者も自信がない部分もありますので、何か変なところがあれば指摘して頂ければと思います。来月も宜しくお願い致します。
 

 

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以下、注釈
 
※1:2014/8/17現在、時間の関係で独自性の部分が調べ切れていないサービスがありますが、こういったものについては『更新準備中』と書いてあります。調べ次第、Dropboxにて共有したファイルを随時更新し、更新したタイミングで当ブログにてお知らせ致します。やっつけで仕上げるより時間をかけて丁寧に記事を作る方針ですので、申し訳ありませんがご了承ください。

 

※2:ダウンラウンドとは、企業が増資をする際に既存の投資家のバリュエーションより、新しく増資に応じた投資家のバリュエーションが低くなってしまう現象です。
 
※3:情報のソースが不明確であったり、明らかに投資家に関する情報が不足している場合は、図表04_01ではカウントしていません。どうしても分類できなかったものは、4~5件あります。

※4:プライベート・エクイティのうち、スタートアップを投資対象とするのが、ベンチャー・キャピタルと考えます。プライベート・エクイティの中には、成熟した大企業のバリューアップを目的とした投資を行うファームもあり、もちろんベンチャーキャピタル業を行いながらも、成熟企業のバリューアップも事業として行うファームがあります。こういった投資家は、「投資会社」である事業会社とみなす視点と、「金融屋さん」である金融系VCとみなす視点がありますが、こういった投資家とスタートップの間には事業シナジーは生まれないため、金融系VCと解釈して今回のリサーチを行いました。
 
※5:個人投資家(エンジェル投資家)については、カウントの対象外としています。特筆すべき個人投資家が出資している場合は、図表04_01のK列には括弧書きで付記しています。 
 
※6:図表04_12については、2014年上半期までのデータのみ反映しているため、この図表から得られた知見は限定的なものになってしまう点につき、ご留意ください。
 
※7:タイムマシン経営とは、海外で成功したビジネスモデルを国内にいち早く持ち込む経営手法。孫正義が命名したとされる。(はてなキーワードより)
 
※8:内部統制とは、簡単に言えば、社長が見えないところで従業員が不正をしないように、社内での相互牽制をするための仕組みのことです。「内部統制」は専門用語ですが、ここでは社内の管理体制(記帳をしっかりしているか、従業員の勤怠管理ができているか等)全般のことを広く指しているつもりです。
 
※9:とは言うものの、公開前に調達を行ってはいるものの、なかなかEXITできないリビング・デッドを増やせというわけではないです。限度があります。
 
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以下、参考文献
 
宍戸善一・ベンチャー・ロー・フォーラム(編).2010.ベンチャー企業の法務・財務戦略 商事法務
磯崎哲也.2014.起業のエクイティ・ファイナンス---経済革命のための株式と契約.ダイヤモンド社