(月刊)ひとり総研

ベンチャー企業に関連する情報、ファイナンス情報、その他役に立ちそうなデータを月1ペースでまとめるブログ。

07_2014年スタートアップファイナンスまとめ(国内)

INDEX
◆何を調べるか
◆調査結果(2014年未公開スタートアップ資金調達データ)
◆2014年未公開スタートアップ資金調達額ランキング(業種別)
◆今回の調査結果からわかること
◆まとめ


◆何を調べるか
 新興市場が盛り上がりを見せる中、スタートアップ・ブームが到来したと言われる2014年でしたが、未上場のスタートアップでも多額のファイナンスを成功した事例がいくつかありました。今回は往く年を振り返るということで、2014年の未公開スタートアップ企業の資金調達状況をまとめてみたいと思います。

◆調査結果
 図表07_01が2014年に資金調達をしたスタートアップ企業の情報をまとめたデータです。ダウンロードしてご覧ください。プレスリリースが出ているものを収集して延べ104件ピックアップすることができました。

図表07_01(2014年国内スタートアップファイナンスデータ).xlsx - Google ドライブ

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<図表07_01>
 
 また、10億円以上調達したスタートアップを対象に、調達額ランキングを作成しましたので、この1年でどんな企業が投資家から評価されたのかざっくり知りたい方はご覧ください。
 

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<図表07_02>

◆2014年未公開スタートアップ資金調達額ランキング(業種別)
 このセクションでは2014年に大型のファイナンスを成功させたスタートアップを業種別に振り返ります。ここでいう「業種」はサービスに関わるプレイヤーの関係及びマネタイズの方法を参考に分類したもので、分析しやすいように各サービスをきわめて単純化して分類したものです。
 具体的には「メディア(※1)」「EC(クラウドソーシング及び予約サイト含む)(※2)」「ゲーム(※3)」「SaaS(※4)」「決済(※5)」「ストリーミング(※6)」「ハードウェア(※7)」「その他(※8)」の9業種に分類しています。
 では、業種ごとに大型のファイナンスを実施したスタートアップを簡単に振り返りましょう。

①メディア
 メディア系のスタートアップ。自社のプラットフォーム上に広告を掲載し、広告主から広告収入を得るビジネスモデル。
 

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 <図表07_03>
 
 図表07_03から読み取れるトレンドは以下の通りです。
 
 ・ニュースキュレーションアプリの盛り上がり・・・「スマートニュース」(36億円調達)「Gunosy」(24億円調達)「NewsPicks」運営の「ユーザベース」(4.7億円調達)等。
 O2O関連のスタートアップも注目・・・「tab」(4億円調達)、「Pathee」を運営するtritrue(1.3億円調達)
 ・全体の傾向としてSNSとしての性格が強いCGM(Consumer Generated Media)が評価されている・・・「Tokyo Otaku Mode」(17.7億円)
 
 ニュースキュレーションアプリについては2014年もっとも盛り上がった領域であると言って良いでしょう。背景として、スマホシフトの加速に伴い、従来インターネットユーザーはウェブブラウザからYahoo!などのポータルを通してニュースを見ていましたが、スマホから直接ニュースを見ることができる「ニュースキュレーションアプリ」にユーザーが流れたものと考えられます。
 また、上記で挙げた「スマートニュース」、「Gunosy」、「NewsPicks」運営のユーザベースですが、面白いのはこれら3つのアプリのメディアとしてのスタンスがまったく異なることです。3つのサービスのイメージを説明した図表として図表07_04を用意したのでご覧ください。これら3つ以外にも"フォローメディア"(自分の好きなテーマをフォローできるアプリ)「kamelio」等のサービスもあり、スマホシフトによって情報収集の仕方が多様化してきています。
 

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<図表07_04>

 また、上記で挙げたCGM(Consumer Generated Media)」とは、ユーザーがコンテンツを作成するタイプのメディアです。そのため、CGMは共通の興味をもつコミュニティを集めて作られることが多く、広告の効果は高くなると考えられます。そういったコミュニティは無数に存在するため、こういったタイプのサービスはこれからもどんどん出てくるものと思われます。
 
 メディア系スタートアップ全体にいえることですが、ユーザーが広告を閲覧することが広告収入につながると考えると、一義的にはPV(アプリならばDL数)がKPIになります。そう考えるとTVCMなどでマス展開を図るのが収益をあげるためにもっとも効果的です。しかし、Gunosyやスマートニュースは、TVCMを打つ前にサービスのUIやUXを大胆に変更し仮説検証を繰り返しています。ある意味でメディアはユーザーの顔色を伺いながらサービスを作っていく側面があるので、自社サービスを一番使ってくれるユーザー(アーリーアダプター)はどんな人物なのか、仮説検証の段階で熟知してからマス展開をかけていくのが正攻法だと考えられます。

②EC(クラウドソーシング及び予約サイト含む)
 Eコマース、つまり、インターネットを利用したサービスやプロダクトのマーケットプレースの提供を事業としているスタートアップ。この領域のスタートアップは売手と買手をつなげるプラットフォーマーであり、両者の取引のうち一定割合を手数料として収受する。
 

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<図表07_05>
 
 業種の括りが広いこともあって、33件のスタートアップをピックアップしました。図表07_05から読み取れるトレンドは以下の通りです。
 
 ・CtoCフリマアプリの盛り上がり・・・「mercari」(38億円調達)、Fablicが運営する「Fril」(10億円調達)
 ・スタートアップが物流などリアルなサービスにも進出・・・スターフェスティバルが運営する「ごちクル」(28億円調達)や、鮮魚流通の「八面六臂」(4,500万円調達)
 ・まだまだ盛り上がりをみせるクラウドソーシング・・・「ランサーズ」(10億円調達)、うるるが運営する「Shufti」(6.3億円)等
 ・全体の傾向としてバーティカルコマース(特定の分野に特化したECサイト)が評価されている・・・「Tokyo Otaku Mode」(17億円調達)、「オーマイグラス」(9,000万円調達)等

 こちらの領域でも、スマホシフトの加速に伴い急成長したサービスがあります。そのひとつがCtoCフリマアプリです。従来Yahoo!オークション等でウェブブラウザを使ったCtoC取引があったものの、スマホの普及でPCでの取引よりもっと簡単かつ手軽に取引ができるようになったことがCtoCフリマアプリ普及の背景です。
 そしてやはり、メルカリが運営する「mercari」と、Fablicが運営する「Fril」についても、サービス及び資本政策に異なる特徴があるので図表07_06にまとめてみました。
 

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<図表07_06>

 スタートアップがリアルなサービスにも進出しているのは海外ではUber等の例がある通り、1つの大きなトレンドです。この背景には運送業者等にもモバイルデバイス(スマホタブレット)が普及し、それを活用する文化が浸透してきた点が挙げられます。
 また、上記で挙げた八面六臂は鮮魚の流通をITで効率化するスタートアップですが、このようにモバイルデバイスどころか、ITが普及していなかった業界にITを普及させるビジネスは、まずはその業界のプレイヤーに「ITを活用することのメリット」をアピールしなければならないという点で非常に骨が折れる反面、業界に変革を起こしうるビジネスだと考えられます。

③ゲーム
 ゲームの開発及び流通(パブリッシング)を行うスタートアップ。
 

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<図表07_07>
 
 調達金額の平均値が10億円を超えており、この領域のスタートアップはいずれも投資家から高い評価を受けている点が特徴です。なかでもモバイルネイティブゲームの開発・販売を行うgumiは50億円の調達を実施しており、今年東証一部に上場しています。
 
 また、これらのスタートアップに共通しているのはグローバル展開していること三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる調査報告書「著作物等の流通促進に関する調査報告書」によると、日本から海外に輸出されるコンテンツ(物販除く)のうち、95%がゲームであり、その輸出額はH23年度時点で5,064億円にのぼるそうです。つまり、世界でもっとも受け入れられやすい日本のサービスがゲームであるため、ターゲットユーザーが多い分収益力も上がり、企業価値が高く評価されているのではないかと推測されます。
 
SaaS
 Software-as-a-Serviceの略。主にエンタープライズ向けのソフトウェアシステムをクラウド上で提供するスタートアップ。
 

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<図表07_08>
 
 この領域のスタートアップはゲームとは対照的に調達金額の平均値は4,000万程度であり調達金額は少ないです。2014年に調達を成功させたプレイヤーとしては、ERP・経理財務系のシステムを提供する「マネーフォワード」(15億円調達)「freee」(14億円調達)「アカウンティング・サース・ジャパン」(13億円調達)、CRM系のシステムを提供する「Sansan」(14億円調達)等が挙げられます。
 
 SaaSのマネタイズ方法は基本的にサブスクリプション(月額課金)であることから、軌道に乗れば収益力は他のスタートアップに比べ高いはずなので、もっと評価されるスタートアップが出てきても良いのではないかと思います。その反面、サービス導入段階で、スタートアップの提供するシステムを導入しようとするインセンティブがユーザー側に働かないことが多いので、営業人員の強化は必要不可欠であると考えられます(SaaSスタートアップの約30%が調達した資金を人員採用のために充てると公表しています。)。
 
⑤決済
 決済に関係するサービスを提供するスタートアップ。 
 

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<図表07_09>

⑥ストリーミング
 ユーザーに対し、コンテンツの配信を行うスタートアップ。
 

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<図表07_10>
 
⑦ハードウェア
 プロダクトの開発(製造・販売)を行うスタートアップ。
 

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 <図表07_11>
 
 ハードウェア系スタートアップも1件あたりの調達額が多額である点(調達額の平均が9.8億円)が特徴的です。研究開発型のスタートアップは売上がほとんどたたない場合が多く、従って運転資金として多額の資金を必要とするケースが多いものと考えられます。
⑦その他

 上記いずれにも該当しなかったスタートアップ。
 

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<図表07_12>
 
 ①~⑦いずれにも分類されなかったスタートアップとして「Quipper」(5.8億円調達)「マナボ」(3.3億円調達)「ライフイズテック」(3.1億円調達)等の教育系(Edutech)スタートアップが目立っています。(これらは、「教育」というひとつの切り口で様々なサービスを提供するスタートアップであるため、①~⑥いずれにも分類ができなかったものです。)
 
◆今回の調査結果からわかること
 前セクションでは2014年の資金調達の状況を具体的な企業名ベースで見ていきましたが、このセクションでは図表07_01から読み取れる以下のことについて考えてゆきます。といっても、同様の考察は以前上半期のスタートアップファイナンスまとめで書きましたので、詳しくは7月の記事をご参照ください。
 
①スタートアップは何のために資金調達をするのか?
 (Ⅰ)資金用途と調達規模の関係
 (Ⅱ)資金用途と調達ラウンドの関係
②スタートアップはどのような投資家から資金調達するのか?
 (Ⅰ)投資家と調達規模の関係
 (Ⅱ)投資家と調達ラウンドの関係
 
 図表07_14が2014年の調達案件全件の資金用途をプレスリリースの内容等をもとにまとめたものです。
 

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<図表07_14>

 (Ⅰ)資金用途と調達規模の関係
 このセクションでは、スタートアップが「どれくらいの燃料(調達資金)で、どのようなことができるのか」ということについて考えてゆきます。
 調達金額を3分類(10億円以上、1億円以上、1億円未満のファイナンスに分類。)し、それぞれの資金使途をまとめたグラフが以下の3つです(図表07_15)。
 

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<図表07_15>

<図表07_15からわかったこと>
・調達額が10億超になると海外進出・マーケティングのための資金調達が目立つ。
・逆に採用のための資金調達はファイナンス規模が大きくなればなるほど少なくなる。


 (Ⅱ)資金用途と調達ラウンドの関係
 スタートアップは成長のステージごとに調達した資金の使い道が異なると考えられます。このセクションでは、調達ラウンドごとに、調達した資金がどのような目的で使用されるのかということについて考えます。
 調達ラウンドごとのそれぞれの資金使途をまとめた円グラフが以下の図表07_16です。

<図表07_16>
 

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<図表07_16からわかったこと>
・Seed期からレイターステージにかけて、人材採用のためのファイナンスは減少傾向にある。
・Cラウンド(レイター)においてマーケティング資金を調達するファイナンスが目立つ(代表的なものはGunosy)。
・Bラウンド(ミドル)は開発及び人材採用以外はほぼ横並びであり、スタートアップによって調達した資金の用途がバラバラである。


②スタートアップはどのような投資家から資金調達するのか?
 投資家(VC)とスタートアップの関係にフォーカスしてみましょう。ひとり総研では、投資家を5タイプに分類したうえで、「どのタイプの投資家がどのタイミングでスタートアップにどれくらいのお金を入れる傾向にあるのか」を分析します。
 VCのタイプ別の調達件数は図表07_17に示した通りですが、事業会社・CVC系の投資家によるファイナンスが多数見受けられます。 WiL1号ファンドにSONY等の大企業が出資したことや、KDDIが100億円規模のファンドを組成した出来事に代表される通り、今年のひとつのトレンドとして、大企業の資金がスタートアップに流れはじめた点が特徴といえるでしょう。
 

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<図表07_17>

(Ⅰ)投資家と調達規模の関係
 このセクションでは、ざっくり言うと「一番金払いのいいベンチャーキャピタルはどういうベンチャーキャピタルか」ということについて考えてゆきます。 
 ひとり総研では、図表07_01のデータを、それぞれのタイプの投資家ごとに集計し、ファイナンス規模(調達額)の平均値及び中央値をとってみました。その結果が図表07_18になります。
 

f:id:vwwatcher0719:20141231175209p:plain<図表07_18>


<図表07_18からわかったこと>
・独立系VCのファイナンス金額(平均値)がもっとも大きい(独立系VCが資本参加している案件は業界的に注目されるディールであることが多い。)。但し、中央値で比べると金融系VCを下回るため、案件ごとにばらつきがある。


(Ⅱ)投資家と調達ラウンドの関係
 このセクションでは、「どういう投資家がどの段階で資本参加してくれるのか」ということについて考えます。結果は、以下の図表07_19にまとめました。
 

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<図表07_19>

<図表07_19からわかったこと>
・金融系はCラウンドからの参加が多い。一方で創業期のスタートアップへの投資件数は少ない。
・CVC・事業会社系及び独立系に関しては、金融系とは異なりレイター投資の件数少ない。
事業会社・CVC系はベンチャー投資によって得られるシナジーをどう見込んでいるかによる。早期から出資しているケースが多いが、レイターから資本参加するケースも見受けられる。

◆まとめ
 以上、2014年のスタートアップファイナンスをざっくりまとめましたが、全体として「メディア」とくに「キュレーションメディア」、「EC」とくに「CtoC」、そして「ゲーム」領域のスタートアップが投資家から圧倒的に評価されている点が特徴でした。なお、多額の調達をしているスタートアップはいずれも世界に挑戦するスタートアップであり、日本から世界へ飛び出すスタートアップも2015年はもっと増えることっでしょう。
 それに加え、ハードウェア系のスタートアップのファイナンスも増えてきたように感じます。ハードウェア・スタートアップのファイナンスについては、以前記事を書いたのでそちらを参照していただければと思います。
 投資環境としては、事業会社によるスタートアップへの投資が増加傾向にあり、今後はM&AによるEXITにも注目してみようと思います。
 ということで、2015年もがんばって更新していきますので、ひとり総研をよろしくお願いします。
 

 


以下、注釈。

※1:「メディア」系スタートアップの定義として、以下の要件を全て満たす企業を分類しています。
①プレイヤーとして「媒体(プラットフォーマー)」「ユーザー」「広告主」が存在している
②サービスのトラフィックがスタートアップの収益と比例関係にある。
③主な収入源を広告主から得ている。
 
※2:「EC」系スタートアップの定義として、以下の要件を全て満たす企業を分類しています。
①プレイヤーとして「プラットフォーマー」「売り手」「買い手」が存在している
トランザクション単位でマネタイズしている(取引金額の一定割合をスタートアップの収益とする。)
 なお、クラウドソーシングサービスは「個人(売り手)のスキルを企業(買い手)が購入するマッチングプラットフォーム」と考えれば、上記定義を満たすため、EC系スタートアップに分類しています。また、予約サイトや賃貸物件の仲介サイト等についても「不動産や旅行プランをもっている人(売り手)がその商材をユーザーに紹介するためのマッチングプラットフォーム」と考えれば、上記定義を満たすため、EC系スタートアップに分類しています。
 
※3:「ゲーム」系スタートアップの定義は、「ゲームの開発」または「ゲームの販売」を事業としている企業を分類しています。
 
※4:「SaaS」系スタートアップの定義は、「会社または個人のビジネス支援システムを、ソフトウェアとしてクラウド上で提供するスタートアップ」とし、ERP(基幹システム。図表07_01では、経理・財務ソフトも含む。)、CRM(顧客管理システム)、HRM(人材管理システム)、BI(ビジネスデータ分析ツール)等をクラウドベースで提供する企業を分類しています。
 
※5:「決済」系スタートアップの定義は決済周辺業務にかかるサービスを提供する企業を分類しています。
 
※6:「ストリーミング」系スタートアップの定義は、以下の要件を全て満たす企業を分類しています。
①プレイヤーとして「媒体(プラットフォーマー)」「ユーザー」が存在している
②主な収入源をユーザーから得ている。
 
※7:「ハードウェア」系スタートアップは、プロダクトの開発を行っている企業を分類しています。従って、プロダクトを販売するだけの企業等は当該定義を満たさないため、ハードウェア系スタートアップとして分類しません。
 
※8:「その他」に分類されたスタートアップは、ビジネス立ち上げ段階でマネタイズ方法が確立していない会社や、複数のサービスを運営していることから1つの領域に分類することが難しい会社などが含まれます。