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(月刊)ひとり総研

ベンチャー企業に関連する情報、ファイナンス情報、その他役に立ちそうなデータを月1ペースでまとめるブログ。

12_2015年にIPOしたスタートアップの財務分析をしてみた。

IPO(新規公開)は、スタートアップがその出資者であるベンチャーキャピタル等の下を離れ、パブリックカンパニーになるという意味で、スタートアップにとっての1つのゴールとして説明されることが多いです。

では、どのようなスタートアップがIPOできるのかというとそれは経済環境の変化もあり、なかなか答えが出せない問いであります。

したがって今回は2015年10月現在までにIPOした企業の財務分析をして、どのような財務内容のスタートアップが上場できるのか、について調べてみました。

 

INDEX

何を調べたのか?
1.調査対象
2.調査項目
3.調査結果

何がわかったのか?
4.全体的な傾向

5.重要財務指標まとめ

 ①収益性(売上高経常利益率

 ②安全性(自己資本比率

 ③成長性(売上高成長率)

 ④成長性(経常利益成長率)

 ⑤成長性(PER)

6.時価総額TOPのITベンチャーはなぜ上場できたのか?

 ①メタップス

 ②Gunosy

 ③Aiming

まとめ

 

何を調べたのか?

 2015年10月31日までに上場した上場企業の財務分析をしました。2015年1月から10月までという何とも中途半端な期間をまとめているのですが、年末のIPOラッシュに向けてスタートアップの直近のEXIT環境をおさらいするという意味合いのまとめとなります。

 必要に応じて去年のデータとの比較をして今年上場した会社の財務的な特徴を分析していきたいと思います。

※去年も同じような内容の記事をアップしているのでそちらもご参照ください。

startup-finance.hatenablog.com

調査対象

 調査対象は、①設立から上場日までが10年以内かつ、②東証マザーズ上場企業で、10月31日までに初値がついた企業としました。

調査項目

 上記調査対象について、主に以下の項目を調査しました。

  • IPOした会社の名称・業種・事業内容
  • 公募価格から計算した資金調達額
  • 公募価格から計算したスタートアップの時価総額
  • 上場直前期・直前々期のスタートアップの業績指標(売上高・経常利益・当期純利益・1株あたり当期純利益
  • 上場直前期・直前々期のスタートアップの総資産及び純資産額

 情報ソースとしては主に東京IPO及び各社の新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)、そしてそれらのデータをわかりやすくまとめているSPEEDAを使っています。(SPEEDAは会員登録がないと閲覧できません。)

調査結果

 調査結果はGoogle Driveにアップしました。ご参考までに。

 図表_12_2015年1月~10月IPO企業財務分析

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何がわかったのか?

全体的な傾向

 以下が2015年10月末までに上場したスタートアップを、上場した時に市場から調達した金額順に並べた表です。調達金額の平均値は17.2億円、中央値は5.6億円です。去年と比較すると、平均値9億円、中央値5億円なので市場からの調達金額おおむね変動はないということがわかります。では去年と今年で何も変わらなかったのかと言うとそうでもなく、以下の2点が今年IPOした会社の特有のトレンドとして浮かび上がってきました。

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トレンド① 突出したバリュエーションでIPOしたベンチャー企業の存在

 2015年10月末までに上場したスタートアップを時価総額順に並べ直すと以下の通りとなります。時価総額の平均値は158億円、中央値は66億円。去年は平均値94億円、中央値59億円なので、主幹事証券によるバリュエーションが高くなっているという傾向が読み取れます。

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 なお、去年100億~200億円だったITベンチャー時価総額の上限値は、200億~400億円に跳ね上がっています。この原因を調べるために、度数分布図を作ってみると、去年新規上場した会社の時価総額はほぼ横並びなのに対し、当期は突出したバリュエーションの企業が何件か上場しており、時価総額の平均値(中央値)を引き上げていることがわかります。

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トレンド② 赤字上場企業に高いバリュエーションがつく

 また、突出したバリュエーションで評価された企業のほとんどが、直前期の利益が赤字であることも今年のトレンドです。 

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重要財務指標まとめ

 上に挙げた会社の財務指標から、どのような業績・財務内容の会社が実際にマザーズに上場できるのか把握します。指標の詳細な説明は去年の記事参照。

①収益性(売上高利益率)

 売上高に対する経常利益の割合。この割合が高い会社は、利益率の高い優れたビジネスモデルを確率できているといえます。

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<上位5社> 

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<下位5社>

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<去年のデータとの比較>

 収益性については、中央値7%、平均値11%であることから、大体10%が一般的な水準であるといえます。

 

②安全性(自己資本比率

 純資産額が総資産額全体に占める割合。

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<上位5社>

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<下位5社>

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<去年のデータとの比較>

 安全性については、中央値40%が一般的な水準であると言えます。なお、創薬バイオであるサンバイオは直前期債務超過で上場しています。

 

③成長性(売上高成長率)

 直前期の売上高が、直前々期に比べ、どれだけ成長したかを示す指標。「高い成長性」を上場の用件とするマザーズ上場会社にとっては重要な指標。

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<上位5社>

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<下位5社>

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<去年のデータとの比較>

 売上高成長率は中央値60%程度が一般的な水準だと思われます。これについては去年とあまり変わりないように見受けられます。

 

④成長性(経常利益成長率)

 直前期の経常利益が、直前々期に比べ、どれだけ成長したかを示す指標。「高い成長性」を上場の用件とするマザーズ上場会社にとっては重要な指標。

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<上位5社>

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<下位5社>

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<去年のデータとの比較>

 当期の経常利益成長率は中央値105%で、直前々期から直前期にかけて利益水準が2倍くらいに成長するのが望ましいといえます。注目すべきは下位5社で、直前々期から直前期に利益が改善するわけではなく、むしろ赤字幅が拡大している点です。しかも、そのうち3社(ヘリオスGunosy、メタップス)は時価総額TOP5にランクインしている会社です。

 

⑤成長性(PER)

 IPO時の公募価格と1株あたり利益を比べ、「将来どのくらい成長すると見込まれているか」を求める指標。

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<上位5社>

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<下位5社>

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<去年のデータとの比較>

 まず、赤字企業はPERを算出できないので、直前期の利益が黒字である企業のPERを比べます。当期のPERは平均値43倍、中央値27倍であり、PER約30倍くらいが一般的な水準。前期(中央値50.95倍、平均値239.18倍)或いは一般的なマザーズ上場企業のPERと比べると、低い水準に推移しました。

 しかし上記は黒字上場したスタートアップのバリュエーションの話です。下記6社については、赤字企業でありながら公募価格がついています(※1)。また、この6社のうち、サンバイオ、ヘリオスGunosy、メタップス、Aimingは、時価総額トップ5にランクインしています。

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<赤字企業一覧>

 以上をまとめると、主幹事証券は黒字企業のバリュエーションについては去年よりも保守的に、赤字企業のバリュエーションについては去年よりもアグレッシブ(高め)に評価されていると考えられます。サンバイオやヘリオス等、創薬バイオについては設備投資が先行するビジネスモデルであるため、その成長可能性について合理的な説明ができそうな気がするのですが、Gunosy、メタップス、Aiming等、バリバリのITベンチャーについては、上場直前期が赤字であるにもかかわらず、その成長可能性をどうやって説明したのでしょうか。以下のセクションで検証していきます。

 

時価総額TOPのITベンチャーはなぜ上場できたのか?

①メタップス

 時価総額406億円、調達額38億円のIPOを果たしたメタップス。上場に至るまでのイベントを整理してみると以下のようになります。

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 2012年9月以前にはSEOコンサルティング事業やTOKUPO(共同購入型のクーポンEC)を運営していたメタップスですが、直前期(2013年8月期)にはスマホアプリ用分析ツール「metaps」にサービスを一本化します。ファイナンス面でキーとなっているのは、2013年8月期に行われた転換社債をあわせて10億円の調達だと思われます。この調達を機にメタップスは海外展開を加速します。翌年(直前期)の営業活動に係るキャッシュアウトフローは△6,000万円/月※2)(つまりサービスを運営しているだけで月6,000万円のお金が流出していく)。この年は、エンジニアへの給料や通信費等、metapsの運転資金だけでなく、海外への広告宣伝を強化※3したことによりバーンレートが非常に高い水準になり、直前期の赤字幅が拡大していると考えられます。ただし、申請期(2015年8月期)においては海外進出のために支出した広告宣伝費をぐっと抑え、営業活動に係るキャッシュアウトフローも△10万円/月まで改善しています。その後、上場が見えてきた2月に事業会社等から40億円の巨額なファイナンスをしたうえで、IPOでさらに40億円近くの資金調達をするに至っています。

 上記を考慮したうえで、メタップスが上場審査上評価された点は、直前々期に調達した資金(10億)を元に海外展開をやりきった経営陣の手腕であると推測されます(※4)。セグメント注記を見ると、直前々期売上高のうち20%程度だった海外売上が直前期においては国内売上を抜いて60%にまで成長し、結果として全社の売上高が2倍近くに成長していることがわかります。今後は、2014年8月期に開始した新サービス「SPIKE」にmetapsで培ったノウハウを横展開し、さらに両サービスのトランザクションを増やしていくことで黒字転換を図っていくものと考えられます。

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<日本とアジアにおける売上高の割合(セグメント注記より)>(単位:千円)

Gunosy

 時価総額332億円、調達額53億円のIPOを果たしたGunosy。上場に至るまでのイベントを整理してみると以下のようになります。

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  直前期においては、営業活動に係るキャッシュアウトフローは△1.26億円/月であり、VCから調達した15億円がそのままPL上費用化するレベルの莫大な広告宣伝費を支出していたため、赤字になっています。

 Gunosyが上場できた理由は単純で、直前期の業績に比べ、上場申請をした期(申請期)の売上及び利益が急激に伸びているためだからと考えられます。

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<業績の推移(単位:千円)>

※「上場時の着地見込」は、上場承認時に開示されている四半期情報(第3四半期)を×4/3して年換算した数値です。

 上記が業績及び主要KPIの推移です。広告宣伝費の伸びに対して粗利の伸びが上回っています1DLあたりの売上が年々伸びている点を考慮すると、上場審査上、いずれ黒字転換することに合理的な説明ができると考えられます。(実際進行期に黒字着地を成功させています。)

 

③Aiming

 時価総額293億円、調達額22億円のIPOを果たしたAiming。上場に至るまでのイベントを整理してみると以下のようになります。

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 直前々期に海外子会社を設立し、台湾でグラフィック開発、フィリピンでサーバー運用、韓国で配信業務を行うという現在の運営体制を確立しています。その後、売上規模を急拡大させながら、定期的にVCから資金調達を実施、申請期である2014年12月期に黒字転換を果たします。

 上記を考慮したうえで、Aimingが上場審査上評価された点は以下の2点と考えられます。

  1. Aimingのビジネスの実態は、開発期間長期にわたるソフトウェア制作です。よって、売上高の成長の後、一定のタイムラグが空いたのち、利益がついてくるビジネスモデルです(※5)。直前期と直前々期は業績赤字であるものの、直前々期→直前期にかけて売上高10億円の改善に比し、経常利益は3億円改善と、赤字幅は狭まっており、直前期と直前々期は黒字転換(ブレイクイーブン)に向けた"溜め"の期間であることに合理的な説明をつけることはできると考えられます。(実際に申請期に黒字化を達成しています。)
  2. タップス同様、直前々期にVCからの調達資金をもとに一気に海外展開を仕掛け、現在の運営体制の基盤をつくっている点が評価のポイントになったのかもしれません。流れとしては、直前々期にグローバルで開発体制を整え、直前期に旗艦プロダクトをリリースしています。

 

まとめ

 以上をまとめると、2015年にIPOしたスタートアップの主要財務指標は以下の通りです。

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 これに加え、今年特有のトレンドは突出したバリュエーションでIPOしている会社の存在、及びそれらの会社の直前期業績が大幅な赤字である点です。

 「時価総額TOP5のITベンチャーはどのように上場できたのか?」のセクションでは、赤字上場かつ公募価格ベースの時価総額が200~400億円のスタートアップの財務分析を通じて、赤字上場のスタートアップがどのように会社の成長可能性を説明できたのか推測しました。共通するポイントとしては、VCや事業会社から調達した資金をもとに、上場前に積極的に海外展開及び、前年度の2倍から10倍に至るまで、思い切った広告宣伝支出をやりきった点です。

 ここから得られる結論は、(未上場時の資金調達時にもいえることですが、)IPOをする際に求められるのは「再現性」だということだと思います。すなわち、多額の資金調達をした後に、どのような施策にいくらつかって、どのような効果があったのかということが明確化されていなければ、投資家からお金を集めることができないということです。この点、上記3社は直前期における業績こそ芳しくないものの、売上高や諸KPI、申請期における利益額でその再現性を実証することができたために上場まで漕ぎ着けることが出来たのだと思います。

 

 

 

※1:直前期が赤字でありながら公募価格がついているということは、「将来これくらい稼ぎます」というロジックだけで株価が決まっているので、上場審査上、「成長可能性」について相当な説得力が必要です。つまり、ファイナンス理論の観点から考えると、マーケットアプローチ(マルチプル法)で参照できる利益が存在しないので、インカムアプローチだけで時価総額を算定しているということです。インカムアプローチは、会社の事業計画上、将来獲得が見込まれるフリーキャッシュフローの金額を割り引いて会社のバリュー(公募価格)を算定するので、会社が作成した事業計画がかなりの確度で達成可能である必要があります。

 

※2:営業活動に係るキャッシュアウトフローは以下のように求めています。

 連結キャッシュ・フロー計算書における営業活動に係るキャッシュ・フロー÷12ヶ月=1ヶ月あたりの営業活動に係るキャッシュアウトフロー 

 この金額を現在会社の貸借対照表に計上されている現金及び預金で割ると所謂、バーンレートを求めることが出来ます。本稿では、営業活動に係るキャッシュアウトフローを、営業活動(本業)を継続することによって社外に流出するお金として捉え、スタートアップの資金繰りが各会計期間でどれくらい厳しいものだったか分析してみました。

 

※3:広告宣伝費は直前々期から直前期にかけて、約15倍の3.5億円に増加しています。直前々期にVCから調達した10億円のうち、30%近くを広告宣伝費に充てたということになります。

 

※4:下記2点についても上場審査上、メタップスの成長可能性を説明できた理由かと推測されます。

・直前期に転換社債の転換、及び借入金の返済を実施して、スタートアップとしてはかなり低い水準だった自己資本比率(当時8%)を改善することができた点。

資金使途のうち、13億円はSPIKEを運営するにあたり資金決済法上求められている供託金13億円を預け入れるためである(目論見書参照)ことから、2015年8月期より開始したSPIKEの直近のKPIが良好であるのかもしれない点。

 

※5: Aimigの制作するゲームはスマートフォン向けのMMORPG。「パズドラ」や「モンスト」等のカジュアルゲームとは違い、数百万人のユーザーが同時にオンラインでプレイするRPGであるため、開発工数もカジュアルゲームに比べ長期間になります。1つのプロジェクトを開始してからリリースするまでの期間は、そのプロジェクトにエンジニアの人件費やテストプレイにかかったコストがチャージされます。リリースされた後も開発にかかったコストを回収できる分だけユーザーが課金をしてくれないとプロジェクト自体は黒字化しません。すなわち、Aimigのような長期間にわたるソフトウェア制作を行う会社では、1つのプロジェクトについて、開始からブレイクイーブンポイント(損益分岐点)までの期間が長期間にわたるため、売上高が伸びたとしてもすぐに利益が計上できるとは限らないのです。