(月刊)ひとり総研

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06_2014年にIPOしたスタートアップの財務分析をしてみた。

 こんにちは。気が早いようですが、現状分かっている範囲で2014年1月1日から2014年12月31日までに上場(または上場する予定のある)したスタートアップについてまとめたいと思います。2014年にIPOしたスタートアップの主要な財務データ等もまとめてあるので、気になる方は読んでいただけると幸いです。
 
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01_2012年、2013年にIPOしたスタートアップのファイナンスをまとめてみた。 - (月刊)ひとり総研

 
INDEX
◆2014年のIPO概況
 
IPOしたスタートアップの分析
①成長性
(ⅰ)PER
(ⅱ)-1 売上高成長率
(ⅱ)-2 経常利益成長率
②収益性(売上高経常利益率
③安全性(自己資本比率
 
◆まとめ
 
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◆2014年IPOの概況

 

 まず、2014年(※1)のIPOの概況をざっくりレビューしていきましょう。図表06_01は上場した市場に関係なく、2014年に上場した(若しくはする予定である)会社数を示したグラフです。
 
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 <図表06_01>
 
 IPO全件を総括すると、前期58件に比べ当期は74件と30%近く増加しています。さらに、新興市場(マザーズ)にフォーカスすると前期29件に比べ当期42件であり、45%近く増加しています。つまり、今年のIPO増加トレンドは、新興市場が牽引しているものと考えられます。
 
 では、新興企業のIPOにフォーカスして概況を整理しましょう。まず、本稿の分析対象とする「スタートアップ企業」を、①設立から上場まで10年以内の会社、かつ、②東証マザーズに上場した会社と定義します。このような企業について、年別の上場件数、調達額の合計、時価総額の合計をまとめたグラフが図表06_02です。
 
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<図表06_02>
 
 現時点(11/30)で分かっている限りのデータではあるものの、設立5年以内かつマザーズにIPOした会社は前期13件に比べ当期は今のところ22件であり、著増しています。新興市場は活況を呈しておりますが、その主な要因は設立年月が浅いにも関わらず、非常に成長性の高いスタートアップが上場している点が2014年IPO案件の特徴といえます。つまり、少なくともここ5年の間で2014年という年は、スタートアップにとって最もIPOしやすい絶好の時代であったということです。
 
 蛇足ではありますが、図表06_02の時価総額及び公募増資額を件数で割ったもの、つまり、1社当たりの増資額及び1社当たりの時価総額をグラフにしたのが、図表06_03です。
 
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<図表06_03>
 
 資金調達規模は前期と比べると小粒化していると見ることができます。但し、スタートアップであるにも関わらず、直接東証1部又は2部に上場することができた会社もあるため、一概に小粒化しているとは言えません。いずれにせよ、全体の傾向を見る限りではEXITは以前よりしやすくなっているものの、EXITした企業の企業価値が以前に比べ大きくなっているとはいえないのではないのかということです。
 

IPOしたスタートアップの分析

 

 次に、2014年11月30日現在で上場することがわかっているスタートアップ企業(①設立から上場まで10年以内の会社、かつ、②東証マザーズに上場した会社の2要件を満たす会社)はどういう会社があるのか見ていきます。図表06_04に、2014年にIPOすることが分かっているスタートアップの「上場(予定)日」「会社名」「業種・事業内容」「創業日」「創業日から上場日までの年数」「調達額」「時価総額」を整理しました。「調達額」は会社がIPOした結果、新たに調達(公募)することができる金額です(※2)。また、「時価総額」はIPOした時点のスタートアップの企業価値を表します(※3)。
 
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<図表06_04>
 
 図表06_04を元に計算すると、調達額の平均は9億程度、中央値で5億円程度です。2014年上半期での未上場スタートアップの調達データ(前回記事参照)によると、調達額の平均値3億,中央値1.2億なので、上場のメリットのひとつとして、多額の資金調達ができる点が挙げられますが、このメリットの恩恵を受けているスタートアップはまだ多い状況であることが読み取れます。一方で最近では、未上場でも数十億円規模のファイナンスが目立ってきているため、そういった会社にとっては、お金が欲しいから上場するというよりは、サービスやプロダクトの知名度を上げるため・社会的信用を得るために上場することが目的になってゆくものと考えられます。また、22件中6件が赤字上場である点も注目に値します。これは、マザーズに上場するにあたり、利益について特に数値的な基準がないので、成長可能性を説明することさえできれば上場が可能であるためこのような案件が出てきたものと推測できます。上場審査にあたっての基準は以下をご参照下さい。
 
 
 個々の会社を見ていくと、ロボットスーツの製造販売を行うCYBERDYNEの時価総額及び調達額が特に目立ちます。この会社は日本で初めて種類株式を上場させたことでも有名です。また、調達額・時価総額ともに上位がU-NEXT、みんなのウェディング、クラウドワークス、セレス、フリークアウト、イグニスと、スタートアップ界隈でも名前を聞くことが少なくない会社がいくつかランクインしています。
 
 では、当期IPOすることができたスタートアップたちは、なぜIPOすることができたのでしょうか。前述したとおり、上場審査で自社の成長可能性を説明した上で、自社のビジネスモデルが効率よく稼げるビジネスであること(=収益性)、会社が倒産しないこと(=安全性)を示すことができたためと考えられます。以下のセクションでは、成長性・収益性・安全性を示すいくつかの指標の上位5件と下位5件の会社をピックアップして、IPOした会社の財務内容を簡単にレビューしていきたいと思います。データを全てまとめたファイルもエクセルで公開致しますので、参考にして頂ければと思います。(今回はGoogleDriveで共有します。)
 
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<図表06_05>
<ファイル(feel free to download)>
 

①成長性(成長可能性)

 会社の成長性を示す指標は大きく2種類に分かれます。『①将来どれくらい成長すると見込まれているか』と『②これまでどれくらい成長してきたか』です。①は、PER(株価収益率)の高さを見ることで把握できます。②は売上高及び経常利益(※4)の過年度に対する成長率を見ることで把握できます。
(ⅰ)PER

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⇒会社の利益に対する株価の割安(割高)さの程度を示す指標。大きければ大きいほど、現在会社が稼いでいる利益に比べ、株価が割高である。つまり、株主はその会社が将来稼ぎ出す利益が大きいと見込んでいることを示す。従って、PERの大きさを見ることで、株主が会社に対して見込んでいる将来性を把握することができる。
 
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<図表06_06:上位5社+赤字だが株価のついたスタートアップ>
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<図表06_07:下位5社>
 
 2014年に上場した(する予定)のスタートアップ企業のうち、PER上位5社(それに加えて、赤字であるにも関わらず株価がついた会社もピンク色で付け加えています。)及び下位5社を、それぞれ図表06_06と図表06_07に示しました。
 ざっと見た印象ですが、上位5社にはリアルワールド、弁護士ドットコム、アドベンチャー、フリークアウト、みんなのウェディングと、ベンチャーっぽいベンチャーが入っています。また、上位5位には全てVCが株主として入っているものの、下位5社にはFFRIを除く4件全てにVCが入っていません。ここから読み取れる事実は、VCが株主として入っているスタートアップは、利益水準に比べ公募価格が高く設定される傾向にあるということです。この理由として考えられるのは、VCが高値でのEXITを志向するため、IPOでダウンラウンドするわけにはいかず、結果として公募価格が高い水準になるものと考えられます。
 
(ⅱ)-1 売上高成長率

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⇒直前期の売上高が、直前々期に比べ、どれだけ成長したかを示す指標。「高い成長性」を上場の要件とするマザーズ上場会社にとっては、重要な指標。
 
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<図表06_08:上位5社>
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<図表06_09:下位5社>
 
 2014年に上場した(する予定)のスタートアップ企業のうち、売上高成長率上位5社及び下位5社を、それぞれ図表06_08と図表06_09に示しました(※5)。図表から読み取れるのは、基本的に直前期の売上が直前々期の売上に比べて減少している会社は成長性がないと判断され、IPOすることは困難であるということです。業種的に創薬系バイオと同様に経常的な赤字が見込まれるCYBERDYNEは例外的に成長率が下がっていますが、他は全件売上が伸びています。
 
(ⅱ)-2 経常利益成長率

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 ⇒直前期の経常利益が、直前々期に比べ、どれだけ成長したかを示す指標。こちらも「高い成長可能性」を上場の要件とするマザーズ上場会社にとっては、重要な指標。
 
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<図表06_10:上位5社>
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<図表06_11:下位5社>
 
 2014年に上場した(する予定)のスタートアップ企業のうち、経常利益成長率上位5社及び下位5社を、それぞれ図表06_10と図表06_11に示しました。ここからわかるのは、売上高成長率と同様に、「利益水準は低いものの、成長可能性のある会社を上場させる」ことがマザーズの目的であるため、基本的に経常利益が前期より増加していないと上場することは難しいという点です。但し、IPOしたスタートアップ全件が増益傾向にあるわけではなく、3件(リアルワールド、エクストリーム、サイジニア)の例外はあります。売上高と違い、経常利益が減少していても、成長性を説明することはできます(会員数などのKPIが伸びているが、広告宣伝費などがかさんでしまい、利益ベースでは減少しているケース等)。このような例外ケースの会社は、上場審査において「今後この事業は間違いなく成長しますよ」ということを合理的に説明することができた結果、直前期の経常利益が直前々期の経常利益を下回っていたとしても、上場することができたものと思われます。
 
 では、どうやって説明したのか。それは申請期の実績が直前期の実績を上回っている事実をもって説明したものと考えられます。例えば、2013年4月1日~2014年3月31日を上場直前期とすれば、2014年4月1日~2015年3月31日は申請期(名前の通り、上場を申請した日の属する会計期間)です。申請期は現在進行中ですが、四半期レベルでは業績が確定しています。なので、直前期が赤字だとしても、例えば申請期の第2四半期までに100百万円の経常利益が出ていれば、年間で200百万円の経常利益を出せるということを実績込みで説明することができるのです。
 リアルワールド、エクストリーム、サイジニアは、申請期で経常利益が黒字かつ直前期に比べ大きく成長しているため、直前期の経常利益の落ち込みが一時的なものであることを示すことができたのだと考えられます。リアルワールド、エクストリーム、サイジニアの具体的な財務分析は脚注(※6)をご参照下さい。
 
 以上をまとめると、上場審査上求められる事業の「成長可能性」を判断するにあたり、経常利益は直前々期より直前期が増加していることが求められるが、申請期の実績等から今後の成長が確実視される場合は、例外的に上場することができると考えられます。 
 

②収益性

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⇒売上高に対する経常利益の割合。大きければ大きいほど、利益率の高いビジネスモデルであることを示す。
 
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<図表06_12:上位5社>
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<図表06_13:下位5社>
 
 2014年に上場した(する予定)のスタートアップ企業のうち、売上高経常利益率上位5社及び下位5社を、それぞれ図表06_10と図表06_11に示しました。収益性(利益率)はどの会社もある程度決まっており、10%程度(平均値12.4%、中央値8.3%)が目安となります。ここで、上位5社と下位5社の違いを見て分かるのは、やっている事業の数です。つまり、上位5件に含まれる会社のセグメント数は全て1つだけである一方、下位5件の会社は複数のセグメントをもつ会社が5件中4件。1つの事業(セグメント)に集中している会社の方が収益性は高い一方で、セグメントが複数ある会社では、複数のセグメントを管理するための共通費などがかかってしまうから、収益性が低下してしまうと考えられます。
 
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<図表06_14>
 

③安全性

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⇒純資産額が総資産額全体に占める割合。スタートアップに関しては純資産額≒エクイティであり、純資産以外は負債(株主・創業者以外の他人から借りているお金)である。つまり、自己資本比率が高ければ高いほど、株主から調達したお金で事業を回しており、自己資本比率が低ければ低いほど、銀行等の外部から調達した借金で事業を回していることを示す。
 
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<図表06_15:上位5社>
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<図表06_16:下位5社>
 
 2014年に上場した(する予定)のスタートアップ企業のうち、売上高経常利益率上位5社及び下位5社を、それぞれ図表06_15と図表06_16に示しました。平均的な自己資本比率は40%程度(平均値41.0%、中央値40.3%で、企業の総資産のうち、半分よりちょっと少ないくらいのお金がエクイティとしてVCや創業者が入れたお金にあたります。
 また、スタートアップは基本的に借入金で多額の資金調達をすることが困難といわれます。しかし、IPOするステージの企業となると、借入をしている会社も多いようです。有価証券届出書を見たところ、22件中15~16件が外部から借入をしているようです。
 
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<図表06_17>
※○がついている会社は借入している会社です。
 
 

◆まとめ

 

・全体的にEXITはしやすくなっているが、EXITする金額が大きくなっているわけではない。
 
・スタートアップ企業(①設立から上場まで10年以内の会社、かつ、②東証マザーズに上場した会社の2要件を満たす会社)のうち、マザーズに上場した会社の各財務指標は以下の通り。
 
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<図表06_18>
 
・マザーズに上場するためには事業の成長可能性を説明する必要がある。そのためには、直前々期に比べ、直前期の売上高・利益ともに増加傾向にあることが原則的には求められると考えられる。しかし、四半期等の直近の実績が回復傾向にあることを示す事ができれば、事業の成長性を説明することも可能。
 
 以上です。特に"自社事業の成長可能性を説明する"ことの重要性について書きましたが、これは未上場企業がVCからお金を調達するときにも必要な心がけです。そのためには、利益が増加していることを示せるのが一番手っ取り早いですが、そうでない場合はKPIが伸びていることを示す必要があります。そう考えると日々のKPI管理の重要さを再認識する次第であります。
 来月は国内未上場企業のファイナンスニュース(下半期版)を頑張ってまとめます!ご指摘やリクエスト等あればご遠慮なく連絡いただければと思います。遅くなってしまうかもしれませんが返事はします!
 
 
 
※1:2014/11/30本稿作成時点で上場予定の企業を対象としております。2014年12月31日までに上場予定の企業は今後も出てくることを想定したうえで本稿を読んでいただければと思います。
 
※2:公募価格が提示されていないものは、目論見書記載の想定株価を参照しております。
※3:『時価総額=公募価格×(IPO前発行済株式総数+公募株式数)』で計算しております。
 
※4:分析では当期純利益ではなく、経常利益を用います。当期純利益は突発的なイベント(減損や子会社株式の売却による損益)によって発生した特別損益の影響を受けるため、分析指標として用いるのは不適切であると判断したためです。
 
※5:黒字企業の中でもPERが最も高かったリアルワールドが意外にも下位5件に入っています。これはそもそもリアルワールドが赤字スレスレの当期純利益で上場しているため、PERを計算するときの分母がかなり小さくなってしまい、PERが極めて高水準になったためです。つまり、計算構造上のイレギュラーであるため、分析上特段問題とはしません。
 
※6:直前期の経常利益が直前々期の経常利益を下回るにも関わらず、上場することができた会社3社(リアルワールド、エクストリーム、サイジニア)について、①なぜ経常利益の成長率が減少してしまったのか、②上場審査にあたり自社の「成長性」を説明するためのキーポイント、③なぜ上場することができたのか、の3点にフォーカスして財務分析をします。
 
■ リアルワールド<主幹事証券:大和証券 監査法人あずさ監査法人
①なぜ経常利益の成長率が減少してしまったのか
売上原価が増加したことによるもの。売上に対する原価の割合が直前々期44%から53%に増加している。この要因は「顧客獲得及び活性化のために会員に対するポイント還元率引き上げを実施したことに伴うポイント関連費用が209,104千円増加したことによるもの」であると第2【事業の概況】7【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】で説明されている。
 
上場審査にあたり自社の「成長性」を説明するためのキーポイント
リアルワールドの事業の両輪は、ポイントエクスチェンジ事業クラウド事業クラウドソーシングで受注した仕事で、クライアントから収益を獲得し、それをポイントとしてユーザーに還元するときに費用が発生する。おそらくユーザーにサイトを使ってもらうために無償でポイントを付与するキャンペーンなどを実施した結果、ポイント費用が増加したことで経常利益が減少したと考えられる。従って、上場審査でキーとなるのは、利益が落ち込んだのは、キャンペーンの実施という一時的なイベントによるものであって、将来的に利益は必ず増加していくビジョンを見せられるかどうかである。
 
③なぜ上場することができたのか
申請期(第3四半期)で経常利益が146百万円計上されている。年ベースで換算すると、194百万円であり、前期を440%程度上回る。上場審査時には、既に経常利益が将来的に増加するビジョンを実績込みで示すことができので上場にこぎつけることができたものと想定される。
 
■ エクストリーム<主幹事証券:大和証券 監査法人あずさ監査法人
①なぜ経常利益の成長率が減少してしまったのか
売上原価が増加したことによるもの。売上に対する原価の割合が直前々期69%から74%に増加している。この要因は「ソリューション事業のプロジェクト数の増加による労務費及び外注費、プラットフォーム事業者等への支払手数料及びコンテンツプロパティ事業におけるソフトウェア償却費によるもの」であると第2【事業の概況】7【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】で説明されているが、要因が複数に亘るため、よくわからない。
そこで、第5【経理の状況】に書かれているセグメント情報を参照すると、コンテンツプロパティ事業からセグメント全体の営業利益(セグメント利益の計:160,454千円)に比べて70%近い損失が出ていることがわかる。

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<図表06_19>
 
コンテンツプロパティ事業とは、PC向けブラウザゲームの開発・販売を行う事業だが、第2【事業の概況】1【業績等の概要】を見ると、次のように書かれている。
 

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<図表06_20>
 つまり、既存タイトルが終了するにも関わらず、新タイトルをリリースすることができなかったため、収益が立たず、結果的に開発費用が増加してしまい売上原価を増加させてしまったということであると推測される。 
 
 
上場審査にあたり自社の「成長性」を説明するためのキーポイント
ソリューション事業(エンジニアの派遣事業)に比べ、コンテンツプラットフォーム事業は開発費用が先行するいわば研究開発型の事業と捉えることができる。従って、前者が後者をカバーできるだけの収益力があるか、又は、後者について、開発の計画が予定通り進捗しているかがキーポイントになる。
 
③なぜ上場することができたのか
進行期(第2四半期)で経常利益が74百万円計上されている。年ベースで換算すると、148百万円であり、前期を6000%ほど上回る。上場審査時には、既に経常利益が将来的に増加するビジョンを実績込みで示すことができので上場にこぎつける事ができたものと想定される。
 
■ サイジニア<主幹事証券:SMBC日興証券 監査法人新日本監査法人
①なぜ経常利益の成長率が減少してしまったのか
・売上原価の増加:売上に対する原価の割合が直前々期66%から79%に増加している。この要因は「売上高の増加に伴う、広告枠の仕入れ、また人件費と経費が増加したことによるもの」であると第2【事業の概況】7【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】で説明されている。確かに第5【経理の状況】に記載の売上原価明細を見ると、直前々期から直前期にかけての売上原価の増加額256百万円のうち、231百万円は仕入の増加によるもの。
・営業外費用の増加:直前期より借入をしており、借入利息が当期から発生している。
 

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<図表06_21>
 
上場審査にあたり自社の「成長性」を説明するためのキーポイント
同業他社であるフリークアウトの収益性を見ると、しっかり利益を出していることから、「ビジネスモデル上赤字が出て当然」といった事業をしているわけではないと考えられる。そう考えると、今は原価の増加により利益が圧迫されているものの、原価低減の施策等を通じて全体的に収益構造を改善してゆくことができるか否かという点につき、合理的に説明することができるかがポイントとなる。
 
③なぜ上場することができたのか
進行期(第1四半期)で経常利益が18百万円計上されている。年ベースで換算すると、72百万円であり、黒字化見込みである。上場審査時には、既に経常利益が将来的に増加するビジョンを実績込みで示すことができので上場にこぎつける事ができたものと想定される。但し、今後9ヶ月間で赤転する可能性も十分にあるため、結局何が決め手となったかは目論見書から読み取れない。