11_VCのファンドレイズから、今後どんなスタートアップにお金が集まるか考えてみた。
将来どんなスタートアップが評価されるのか?
INDEX
何がわかったのか?
5.ファンド投資対象のステージとファンド規模の関係
6.VCの属性とファンド規模の関係
7.ファンド投資対象の特徴とファンド規模の関係
8.VCの属性とファンド投資対象の特徴の関係
9.ファンド投資対象のステージとVCの属性の関係る
まとめ
何を調べたのか?
直近で組成されたファンドを対象に、以下の項目について調査しました。
調査対象
調査対象としては、2015年1月~8月の間に組成が発表されたVCファンドとします。大企業の事業再生等を目的としたPEファンド等は除外します。
調査項目
上記調査対象について、以下の項目を調査しました。
- 設立されたファンドの名称及び出資約束金額(※1)
- ファンド組成が発表された日付
- ファンドの運用期間
- ファンドのGP(運営者)
- GPが法人の場合、GPの株主
- ファンドのLP(運営者以外の出資者)
- 投資対象の特徴
- 投資対象のステージ
- 備考(投資ポリシー等)
調査結果
調査結果のサマリーは以下の通り。ファンド総額規模を大きい順で並べました。(最大規模はYJキャピタルの2号ファンド200億円。)
調査結果の詳細バージョンは下記リンクからDLできます。
図表_11_2015年1月~8月ファンドレイズデータ.xlsx - Google ドライブ
何がわかったのか?
"調査項目"で調べたデータをもとに、ファンド規模、ファンド投資対象のステージ、ファンド投資対象の特徴、VCの属性について、それぞれの相関関係を調べました。
ファンド投資対象のステージとファンド規模の関係
このセクションでは、どのステージのスタートアップに今後リスクマネーが集中するのか考察します。以下がその相関関係をまとめた図表です。
ご覧の通り、件数ベース(ファンド組成の件数)では、シード>アーリー>ミドル>レイターの順、金額ベース(出資約束金額の合計)では、シード>ミドル>アーリー>レイターの順となっています。以上より、シードステージのスタートアップを中心に資金が集まる傾向にあると考えられます(※2)。
VCの属性とファンド規模の関係
このセクションでは、今後どのような投資家が最もスタートアップに資金を供給するのか考察します。VCの属性については、以前の記事をもとに分類します。
ご覧の通り、事業会社系のVC(CVC:コーポレートベンチャーキャピタル)によるファンド組成が割合として最も多いことがわかります。
ファンド投資対象の特徴とファンド規模の関係
このセクションでは、今後どのような領域のスタートアップにリスクマネーが集中するのか考察します。ファンドの投資対象の特徴は以下の3つの観点から分類します。
- 【投資目的】投資対象が投資家の事業内容とシナジーがある事業を行っているか否か。
- 【ビジネスモデル】投資対象が多額の設備投資が必要な研究開発先行型のビジネスか否か。
- 【限定性】投資対象のコア技術が、ある特定の地方や大学、研究機関で生まれたものか否か。
上記の分類をもとに各分類の特徴をまとめると以下の通りです。
これらの相関関係をまとめた図表が以下です。
以上から、純粋なキャピタルゲインを目的として、研究開発投資を必要としないスタートアップに、場所に捕われずグローバルに投資するVCが多いことがわかります(※3)。
VCの属性とファンド投資対象の特徴との関係
このセクションでは、どのような属性のVCが、それぞれどのような特徴をもったスタートアップに投資をしようとしているのかを考察します。以下が両者の相関関係を示した図表です。
この図表をもとにVCの属性別にどのようなスタートアップを投資対象とするのか詳しく見てみましょう。
事業会社系VCについては、当然ですが、投資家と直接的な事業シナジーがありそうなスタートアップへの投資が相対的に多いです。また、研究開発型のスタートアップへの投資や、特定の大学や地方の技術シーズを発掘して事業化する試みも本格化していないように見受けられます。
独立系VCについても、事業会社系VCと同様、研究開発型のスタートアップへの投資、特定の大学や地方で生まれた技術シーズへの投資事例は少ないです。日本の独立系VCの投資担当者等は金融機関出身者が多く、技術的なリテラシーを持った人間がいないことがこの理由のひとつであると考えられます。今後この分野での投資ノウハウを蓄積するために、専門家を雇ったり、現状国(地方)とスタートアップの間で生まれている「産学連携」の輪を拡げ、事業会社やVCを参加させる動きがでてきたりしたら面白いですね。
金融系VCについては、地銀が地元の企業と組んでファンドを組成する事例が多く、政府系VCについては、国立大学初のVCファンド組成が事例が増加しています。後者については、国の施策として、国立大学等によるVC等の出資が促進されている政策的な背景があります(※4)。
各投資家の属性と投資対象の特徴ををまとめたのが以下の図表です。
ファンド投資対象のステージとVCの属性の関係
このセクションでは、どのような属性のVCが、どのステージに力を入れようとしているのかを考察します。
”ファンド投資対象のステージとファンド規模の関係”の項目で見たとおり、どの属性のVCもシードステージへの投資を活発化していく方針のようですね。
まとめ
全体の傾向としていえるのが、(今後も引き続き?)国内未公開株式市場ではシードステージを中心に、多額の設備投資を必要としないコンテンツ・メディア・ECサイト等のITサービスを運営する国内外のスタートアップに、リスクマネーが供給されるものと考えられます。また、事業会社系VCのファンド組成により、キャピタルゲインだけでなく事業シナジーを目的とした事業投資的な意味合いでのベンチャー投資も今後増えてくるかもしれません。
一方で、多額の設備投資を必要とするバイオ・創薬・ハードウェア等の領域や、これらの技術シーズが生まれる大学や研究機関と、事業会社・独立系VCが積極的に連携している事例は少ないのではないでしょうか。国の施策(産業競争力強化法及び特定研究成果活用支援事業計画の認定等に関する省令)により、およそ1000億円の予算がベンチャー投資にあてられているといわれていますが、投資家として投資先をバリューアップさせるノウハウやコネクションをもっている点は事業会社系VCや独立系VCの大きな強みです。この強みが、ベンチャー投資を大学(≒国)だけで実行する場合のデメリットを補完し得るものと考えれば、産学連携の「輪」の中に事業会社や独立系VC等の民間企業をジョインさせる必要があるのではないかと思います。
以下、注釈
※1 出資約束金額:ファンドが出資者からこれだけのお金を集めることができますよ、という出資金額の枠。ファンドの規模を示します。出資約束金額は出資者からの募集を一次募集、二次募集と区切って増額されることがありますが、今回集計したデータは8月までに各社でリリースされた最新のデータを使っています。
※2 といっても、シードステージのスタートアップへの投資は、1件あたりの投資額に限界があるため、需要と供給のバランスがとれなくなり、シードステージのスタートアップのバリュエーションが必要以上に高くなり、レイターへの投資に投資対象をシフトするVCが出る等のVCの行動により、市場の均衡が図られるものと考えられます。
※3 前項の結果と見比べると、この傾向は一見、事業会社系のVCファンドが多く組成されている点と整合していないような気がしますが、事業会社系のVCがキャピタルゲインを目的としてベンチャー投資を行うケースがあるため、投資目的がキャピタルゲインを目的としたものである案件の割合が高いものと考えられます。一般的な事業会社においても、直接的な事業シナジーが見込めなくても、低価額で投資して高価額でEXITできればキャピタルゲインの恩恵にあずかることができるためが増えたということでしょう。(もちろん、EXITできないスタートアップとどこかで協業できるかもしれないという保険的な意味合いも含む投資である場合がほとんどだと思いますが、今回の記事は飽くまで「直接的な事業シナジーの有無」を調べる趣旨で、「保険的な意味合いの投資」は事業シナジーを目的とした投資の定義から除外しています。)
※4 認定特定研究成果活用支援事業者として認定されたVCは大学から出資や人的・技術的支援を受けられるというもの。これを受けて研究機関における技術シーズを元にスタートアップする事業者が増加することが期待されている。(参考リンク:国立大学等によるVC等への出資(METI/経済産業省))