(月刊)ひとり総研

ベンチャー企業に関連する情報、ファイナンス情報、その他役に立ちそうなデータを月1ペースでまとめるブログ。

10_2015年7月までにバイアウト(M&A)された海外スタートアップまとめ(ざっくり版)

前回の記事に引き続き、M&Aのまとめです。

Index

■何が知りたいのか?

■何を調べたのか?

■調査結果のサマリー

■バイアウトによりEXITしたスタートアップ12社まとめ

■まとめ

何が知りたいのか?

 直近の記事で国内のスタートアップを対象に、バイアウトによりEXITした企業をリサーチしました。国内の事例を調べていたら国外の事例も気になってきたので、国外におけるスタートアップを対象に、どのような企業が実際にEXITしたのか、直近の事例をざっくり調べました。(詳細な分析記事は年末から年始にかけてアップしたいので、今回の記事の内容は実際にEXITしたスタートアップの紹介に留まらせていただきます。)

何を調べたのか?

 今回は2015年1月~7月にEXITしたスタートアップをまとめました。

調査対象

 調査対象としては、主にTechcrunchRe/code等のメディアを中心に掲載されている案件をCrunchBaseの情報をもとに以下のスコープで集計しました。なお、CrunchBaseの情報をもとにまとめているため、一部オフィシャルに公開されていない情報(メディアの調査による情報)をもとに調査を行なっている点につきご留意下さい。

  1. 国外のスタートアップ
  2. 2015年1月~7月
  3. 創業年数20年以内の企業
  4. USD100M以上のEXIT

※1:IT分野と明らかに関係のない業界は除く

※2:M&AによるEXITを調べるため、ただの第三者割当増資等は除き、創業者やVC等、既存の投資家によるEXIT案件のみを対象とする 

調査項目

 上記調査対象のスタートアップのうち、以下の項目を調査しました。

  • 買収されたスタートアップ及び買収した大企業の名称
  • スタートアップのサービスの内容
  • スタートアップと大企業の事業シナジー(買収に至った理由)
  • スタートアップがEXITまでにどれくらいの金額で、何回ファイナンスをしたか。

調査結果のサマリー

 上記の調査結果をまとめたものが以下の図表です(金額降順)。

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 大企業がスタートアップを買収した目的については以下の通り。図表の見方は前回の記事を参照してください。

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 「スタートアップがEXITまでにどれくらいの金額で、何回ファイナンスをしたか」については、平均調達回数が3.1回平均調達額がUSD 87.93Mとなりました。

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バイアウトによりEXITしたスタートアップ12社まとめ

1.Lynda.com

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 買収額:1,500,000,000 USD

 買収企業: LinkedIn

 Lynda.comの事業内容は、プログラミングやビジネススキルに特化したオンライン動画学習サイト「lynda.com」の運営。Re/Codeの記事を参考にすると、LinkedInがLynda.comを買収する際に見込まれるシナジーは以下の3点と考えられます。

  1. LinkedInは、転職希望者と会社(リクルーター)を結びつけるSNSであり、Lynda.comはプログラミングスキルを身につけるためのサービス。本件は、両者が何らかの形で提携し、Lynda.comでスキルを身につけた転職希望者がLinkedInで転職を成功させるというサイクルを将来的に実現させるための買収。
  2. アメリカの全大学の40%程度はLynda.comの法人顧客と言われている。LinkedInは学生にリーチするために、Lynda.comのもつ教育機関へのネットワークを目的とした買収をしたと考えられる。
  3. LinkedInユーザーが当該サービスを使う理由は転職のためだけではなく、むしろその主目的は一般的なSNS同様、コンテンツを作成したり閲覧したりすること。もしLinkedInのタイムライン上でユーザーがLynda.comのコンテンツを閲覧できるたら、ユーザーのサービス継続率が高まると考えられ、今回の買収にいたったと考えられる。

2.Trustwave

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 買収額:810,000,000 USD

 買収企業:Singtel

 Trustwaveは、独立系管理セキュリティサービスプロバイダー。一方、SingTel(シンガポールテレコム)社はアジアを中心に通信関連技術を提供する事業会社。リリースによると、SingTel社の幅広い顧客層と一連の強力な ICT サービスを、Trustwaveの奥の深いサイバーセキュリティ能力とあわせることで、強力な組み合わせが生まれるとともに、当社はサイバーセキュリティ分野でグローバルな機会を捉えることができるようになる、とのこと。

3.Plenty Of Fish

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 買収額:575,000,000 USD

 買収企業:Match Group(IACグループ)

 Plenty Of Fish(POF)は利用料完全無料のデーティング(出会い系)アプリを提供するスタートアップ。POFは、その運営を出来る限りユーザーの自治にゆだねることで、バナー等の広告収入でマネタイズを行なっているそうです。そのため、創業以来、VCからの資金調達を行なわず全持分を創業者が保有しているため、なんと創業者はUSD575M(約690億円)をキャッシュで受け取っています

 一方、Match.comを運営するMatch Groupは、TinderやOKCupidを運営し、デーティングアプリ以外の複数のメディアも運営するIAC(Inter Active Corp)の子会社。IACはPOF社以外にもデーティングアプリを運営する会社を買収しており、POFの巨大なユーザーベースを傘下に収めることでデーティングアプリ市場における支配的な地位を獲得できると考えられます。

4.Ganji.com

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 買収額:446,200,000 USD

 買収企業:58.com(Tencentグループ)

 Ganji.comは中国で展開するクラシファイド広告(3行広告)掲載ウェブサイト。中古車販売マーケットプレースに強みがある点が特徴です。一方で、58.comはTencentのグループ企業で、こちらもGanji.comと同様、中国で展開するクラシファイド広告のスタートアップです。Ganji.comが58.comを買収することで見込まれるシナジーは以下のようにまとめられます。

  1. 58.comとGanji.comは中国におけるクラシファイド広告業界における競合関係にある。58.comはGanji.comを買収することによってライバルとの競合関係を解消し、マーケティングコスト等を節約することを企図し、買収にいたったと考えられる。なお、第三者機関による調査から、58.comとGanji.comの当該市場におけるシェアはそれぞれ40.6%、33.4%といわれている。(以下の記事がソースです。)
  2. thebridge.jp

    58.comは引越しやクリーニングなどのマーケットプレイスに、Ganji.comは中古車販売のマーケットプレイスに強みをもっているため、58.com(その親会社のtencent)は、異なる強みをもったプラットフォームを統合することで業界における地位を確固たる物にすることができる。

5.Panaya

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 買収額:230,000,000 USD

 買収企業:Infosys

 PanayaはERP導入時のテストを行なうツール「CloudQuality」の提供を行なうスタートアップ。この買収はPanaya社の自動化・人工知能技術等を活用することにより現行サービスの競争力と生産性を強化することを目的とした買収。

6.Quandoo

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 買収額:219,000,000 USD

 買収企業:Recruit Holdings

 Quandooはヨーロッパで展開する飲食店予約及び飲食店側の予約管理ソリューションを提供するスタートアップ。創業年数はおよそ2.5年と社歴の浅いスタートアップ。

 欧州における飲食店のオンライン化率は15%程度と低く、大部分がオンライン化されている旅行予約サイト等、他分野とは異なり、市場の成長余地が多分に残されているため、同種のサービスを提供し、ノウハウがあるRecruitにより買収されていると考えられます。

7.Polyvore

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 買収額:200,000,000 USD

 買収企業:Yahoo!

 Polyvore(ポリボア)は、ソーシャルショッピングアプリを運営するスタートアップ。ソーシャルショッピングとは、個人が自分の持っている洋服等を出品し、売買できるCtoCマーケットプレース。

 一方、Yahoo!はPolyvoreに出品されるファッションアイテムをコンテンツ化し、自社で提供するデジタルマガジンを強化することで、消費者向けと広告主向けサービスを拡充する予定。なお、Yahooの注力分野はMaVeNS(Mobile,Video,Native/Social Adds)といわれており、この方針に従った投資であると考えられます。

 

8.Wahanda

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 買収額:171,000,000 USD

 買収企業:Recruit Holdings

 Wahandaは美容室のオンライン予約サイトを運営するスタートアップ。欧州における美容室のオンライン化率は1%未満といわれており、大部分がオンライン化されている旅行予約サイト等、他分野とは異なり、市場の成長余地が多分に残されているため、同種のサービスを提供し、ノウハウがあるRecruitにより買収されていると考えられます。

9.Kallidus Technologies

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 買収額:120,000,000 USD

 買収企業:Infosys

 Kallidus Technologiesは、ECプラットフォームの構築サービス「Skava」を提供するスタートアップ。一方、InfosysはITコンサルティングサービスを提供する事業会社。この買収によりInfosysは新たにIP技術や自動化ツールを通じた顧客への新たなデジタルエクスペリエンスの提供のほか、拡大しつつあるコマース分野における専門性の発揮やコンサルティングの提供をする見込み。

10.Dotloop

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 買収額:108,000,000 USD

 買収企業:Zillow

 Dotloopは不動産を売買する個人間及び不動山仲介業者のための電子署名プラットフォームを提供するスタートアップ。今回の買収は、オンライン不動産売買サービスを運営するZillowがインターネット上で取引を完結させるための電子署名プラットフォームであるDotloopを買収し、自社サービス強化するためのものと考えられます。

11.Sunrise

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 買収額:100,000,000 USD

 買収企業:Microsoft

 Sunriseは無料カレンダーアプリ「Sunrise Calender」を提供するスタートアップ。創業年数はおよそ3年と比較的社歴の浅いスタートアップ。

 今回の買収は、MSが同社の提供するソフトウェアをクラウド上で提供するため、モバイルシフトを進めるためのもの。具体的には、PC以外の端末からアクセスするWindowsユーザーのために、Outlookとカレンダー機能を連携させることにより、カレンダーへの予定入力をスムーズにできるようになる、といった新しいサービスの連携を実現させています。

12.AlertMe

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 買収額:100,000,000 USD

 買収企業:British Gas

 AlertMeはユーザーが家庭の電力使用状況をモバイルやブラウザから管理できるツールを提供するスタートアップ。イギリスの電力小売会社British Gasがこのスタートアップを買収した背景として、UKでは電力自由化が進んでおり、電力小売業者はBritish Gasを含めた6社による自由競争が行なわれている点が挙げられます。British Gasは自社サービスにAlertMeのソリューションを組み込むことで他社に対し競合優位に立つことを企図していると考えられます。なお、British Gas社は電気料金のシミュレーションやモニタリングサービス等をITサービスとして既に提供しています。

 

まとめ

 前回の記事でまとめた通り、大企業がスタートアップを買収する目的によってEXITの規模やプレミアム、バリュエーションは異なります。たとえば今回のケースだと、Lynda.comのEXITでは、一見、他の分野で事業を行なっている2つの企業が手を組むことで様々な可能性が生まれるため、USD 1.5Bの大規模な買収が行なわれています。

 また、スタートアップがもつユーザーベースや、成熟した事業を買うタイプの買収(今回のケースではPlenty Of FishやWahanda、Polyvore等)も大規模になりやすいと思われます。これはM&A自体が、新規事業のシード(種)を1から育てるコストと時間をM&Aをすることで省略するという意味合いをもつための考えられます。

 その一方で、たとえばSunriseやQuandoo等、社歴が2~3年程度で、事業規模やユーザー数も未だ十分に獲得できていないと思われるようなスタートアップが、USD 100MのEXITを実現するケースも見られます。これは大企業が新たに参入する業界や地域に必要な人材や技術を早期に囲い込んで自社リソース化しようとするものと考えられます。このような事例を見ると米国のスタートアップのEXITの仕方は本当に多様だなと思います。上述したとおり、海外スタートアップのM&Aについては年末から年始にかけて深堀りした記事をアップする予定ですので、ご期待頂ければありがたいです。