(月刊)ひとり総研

ベンチャー企業に関連する情報、ファイナンス情報、その他役に立ちそうなデータを月1ペースでまとめるブログ。

08_2014年にIPOしたスタートアップの業績まとめ

久々の投稿となります。更新しなくてすみません・・・

今月からがんばります(`・ω・´)

 

Index

■何が知りたいのか?

■何を調べたのか?

■何が分かったのか?

■おまけ

 

何が知りたいのか?

 (だいぶ前の投稿になりますが)以前の投稿で、2014年のマザーズ新規上場数をレビューしましたが、新興市場が非常に活気付いてきているということをお伝えしました。

 一方で、昨今は新興企業を中心とした成長企業の上場直後のパフォーマンスについて、東証から一種のアラートらしきものが出る事態にもなっています。

 この潮流を受けて、今回は”花々しくIPOしたスタートアップは、果たして「上場ゴール」だったのか?”ということをテーマに進めていきたいと思います。

 

何を調べたのか?

調査対象

前期(2014年)マザーズに上場した企業のうち、創業年数が10年以内のベンチャー企業の売上高・経常利益・当期純利益(及び総資産・純資産)。

調査期間

2015/5/31までに公表されている財務数値(*1)。

調査方法

それぞれのスタートアップの上場日は当然異なるので、上場した期を「N期」として、その1年前及び2年前を「N-1期」、「N-2期」とすることで、上場した時期に関係なく、上場日を基準に業績がどのように推移しているのかを企業ごとに比較できるように集計します。

調査結果

以上に挙げた調査対象の範囲でそれぞれの上場企業の業績をトラッキングしたところ、売上高の推移は以下のように、

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経常利益の推移は以下のように、

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当期純利益の推移は以下のようになりました。

 

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USENだけ金額の水準が明らか大きいので縦軸を別にしてます。

 

 すみません。全然わからないですよね。ただ、大雑把に、上場日を挟んで業績がどのように推移したのかがわかるのではないでしょうか・・・?以下が、それぞれの指標について、調査対象22社の中間値の推移です。(黒塗りになっている部分については、CYBERDYNE1社のみで、母集団が明らかに統計的に有意ではないので無視します。)

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※総資産・純資産は右軸。

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何が分かったのか?

全体的な傾向

 上記調査の結果から分かる全体的な傾向として、IPO後(N期)に大きく業績はアップしており、その一方でN+1期1Qを最高点に、N+1期2Qに全体的に業績が落ち込んでいるケースが多いということ。N期に調達した資金を開発や人材採用等に投資したことから、業績が悪化しているためでしょうか・・・。次のセクションでは、N+1期の2Qで業績が落ち込んだ原因を個社ごとに分析していきましょう。

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個社分析

 N+1期の2Qで業績が落ち込んだ会社の業績不振の要因を、有価証券報告書・決算説明資料をもとにまとめました。

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 経常利益が下落しているのは22社中7社ですが、その7社のうち、売上自体が下落しているのは3社です。原因を見てみると、殆どが翌期以降の売上を立てるための開発・人員増強のためのコストが先行していることがわかります。これは、調達した資金を固定費化(設備投資や採用資金に)したものの、その固定費をまかなうだけの収益が上がっておらず、結果的に赤字(又は業績低下)に繋がっている状態であると考えられます。

 

 つまり、上場後のスタートアップは、上場したことによって得られた資金を投資活動に回したことにより、上場直後の会計期間ベースでは利益が落ち込んでいるということです。この状態はVC等からファイナンスを受けたものの、利益がまだたっていないスタートアップ期の状態と相似しており(*2)、従って、IPO直後はその会社にとっての"第2のスタートアップ期”であると考えることもできます。

 

 但し、IPOする前と異なるのはステークホルダー(利害関係者)の多さ。不特定多数の株主からファイナンスを受けている以上、そのお金をどこに投資するかという意思決定は、今までに増して非常に重要な判断となります。

 

 以上より、上場直後に業績が落ち込むという事実だけをもって「上場ゴール」と判断することはできません(むしろ業績が落ち込むのは必然)。しかし、上場直後のベンチャー企業は「第2のスタートアップ期」にいることから、CFOをはじめとしたマネジメントは、その投資の効果について、これまで(上場前)以上に厳しくモニタリングする必要があると考えられます。

 

おまけ「上場期・上場直後期における業績修正の有無」

 上記調査に加えて、何かと話題になる業績予想の修正の有無も調べました。当初予想に対する未達成率(下方修正した%)を、N期及びN+1期分、適時開示情報をもとに集計しました。

 結果は以下の通りです。

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 実際に利益を下方修正しているのは、N期で1/22(4%)、N+1期で2/22(9%)であり、少数であることがわかります。

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 N+1期目に修正を行っている企業(フリークアウト、イグニス)は、N期に上方修正を発表しており、N+1期に大幅な未達を予定しています。下方修正を出す会社はソフトウェア開発等、期ズレの影響を受けやすい業態であり、利益の予測が困難な会社が多いということもわかります。

 

 

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*1:業績等の財務数値は累計ベースではなく、四半期ベース(2015/3/31の業績は、2015/1/1~2015/3/31の間の業績。2014/4/1~2015/3/31の業績ではない。)で集計。累計ベースの業績は直近のトレンドを反映しないため、このような集計方法にした。なお、届出書等で通期の実績しか公表されていない会社は月数で按分したのち該当期間のうち発生した売上等を推測する。

 *2:個人的な感覚です。