05_ベンチャーキャピタルのビジネスモデルを丸裸にしてみた。
INDEX
◆何を知りたいか
①そもそも、ベンチャーキャピタルはどういうビジネスモデルなのか?
②リスクマネーの供給者であるベンチャーキャピタル(VC)の視点で見たスタートアップ市場の環境
◆前提知識
◆VC3社の経営分析
①沿革及び特徴
③財務分析
◆VC3社の経営分析からわかったこと
①新興市場のマクロ的な傾向:EXITしやすい/初値がつきやすい
②事業会社系VCのメリット&デメリット
③一般的な投資の回収スパンは4年程度
タイトルが扇情的で誠に申し訳ありません(いいタイトルが思い浮かばなかったので・・・)。私のようにスタートアップファイナンスのニュースを日々ウォッチしている人間からすると、"どんなスタートアップがVCから資金調達をしているのか"というトピックが最大の興味関心事になります。しかし、今回の記事では趣向を変えて"どんなVCがスタートアップに投資しているのか"或いは"そもそもVCって何なのか"という問題提起をしてみたいと思います。VCといっても、その大半はボランティアでスタートアップにお金を出しているわけではなく、何らかの戦略をもって投資を行っているはずです。(例えば、前回の記事で紹介したとおり、欧米ではVCがそれぞれの専門分野を持って、スタートアップからパートナーとして選ばれるための戦略的なポジショニングをとっているケースもあります。)
なので、今回の記事はVCの経営分析を通じて、VCが何を考えているのか(VCの戦略)ということを、スタートアップファイナンスのざっくりとした知識を紹介しながら解説したいと思います。なお、筆者はこの記事で紹介したいずれのVCにも属していないので、HPや決算書などの一般公開されている情報をもとに記事を書いています。なので、多少の曲解はあるかもしれませんがお赦し頂ければと思います。
◆前提知識
①VCとは?
まず、VCの定義から見ていきます。以下、ジャフコのHPからの抜粋です。
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株式会社ジャフコ「ベンチャーキャピタルとは」
- ベンチャーキャピタルは、高い成長性が見込まれる未上場企業に対し、成長のための資金をエクイティ(株式)投資の形で提供します。 ベンチャーキャピタルによる投資は、金融機関や機関投資家などから運用委託された資金を基に組成した投資事業組合(ファンド)を通じて行われます。
- ベンチャーキャピタルは、 投資に際し、綿密なデユーデリジェンス(企業調査)を行い、その会社の将来性を判断します。投資後は、資金面だけでなく、人材の獲得、販売先・提携先の紹介等を通じて経営に深くコミットし、投資先企業の企業価値の向上を支援します。
- ベンチャーキャピタルは、高い成長性が見込まれる未上場企業に対し、成長のための資金をエクイティ(株式)投資の形で提供します。 ベンチャーキャピタルによる投資は、金融機関や機関投資家などから運用委託された資金を基に組成した投資事業組合(ファンド)を通じて行われます。
<図表05_01>
②ファンドの構成(投資事業有限責任組合の場合)~GPとLPの定義~
図表05_01において、GPとは、ファンドを運営する意思決定者です。そしてLPはそのファンドにお金を出すものの、意思決定はせず、ファンドの運用益を配当としてもらう主体です。普通の会社に置き換えると、GPはファンドの経営者兼株主、LPはファンドの株主であると考えるとわかりやすいです。
③ファンド取り込みの会計処理:取り込み時期/会計処理の趣旨
今回はVCの決算書を読んでいきますが、その前提知識として多少会計知識が必要です。図表05_01で見たように、VCそれ自体はベンチャー投資を行っていない(ファンドがベンチャー投資を行っている)ため、”VCがスタートアップに投資している”という経済実態を決算書で表現するために行う会計処理を「ファンド取込」と呼びます。
<図表05_02>
ファンド取込はファンドが持っている資産や負債をVCの貸借対照表上で取り込む会計処理であり、例えば、VCがGPをしているファンドの持分を20%もっている場合は、ファンドのもっている資産(負債)の20%分をVCの決算書上に付け加えて、あたかもVCが直接ファンドの保有する資産(負債)をもっているかのように処理するものす。以上、筆者の言葉でかなりざっくりした解説をしましたが、詳細を知りたい方は新日本監査法人の解説を参照して下さい。
④ファンド組合決算書とファンド取込
VC(XX Ventures)はファンド取込をするために「ファンドがどんな資産(負債)をいくらもっているか」という情報を入手する必要があります。これはファンド側で(XX fund)作っている決算書があり、そこから入手します。ファンドが作っている決算書は基本的には金融商品取引法とは別の法律で作成が求められているものですが、ある一定の要件(※1)を満たしたファンドについては、金融商品取引法に基づく決算書を作成する義務があります。いずれにせよ、VCはファンドが作った決算書をもとにファンド取込を行います。
<図表05_03>
⑤営業投資の定義
「営業投資有価証券」(以下、「営業投資」)とは、多くの場合、VCから資金調達をしたスタートアップの発行している株式です。スタートアップはファイナンスをする際、株式を発行しますが、VCが引受先となった場合、VCはその株式を投資育成目的で保有することになります。VCの営業の目的はスタートアップに投資・育成を実施することで、スタートアップの企業価値を向上させ(バリューアップ)、当初投資した金額より大きい金額で外部に売却(EXIT)することで、キャピタルゲインを得ることです。従って、VCが投資育成目的で保有した株式はその名の通り、「営業」投資として保有される株式となります。
◆VC三社の比較経営分析
このセクションでは、日本で上場している代表的なVCを3社選び、財務分析などのざっくりとした経営分析を行います。比較する三社はジャフコ・デジタルガレージ・日本アジア投資を選びました。財務分析の手法としては、クロスセクション比較(同時系列における類似企業の財務データ等を比較する分析方法)を通してそれぞれのVCの特徴を、時系列比較(直近5年度の財務データ等の推移を分析する分析方法)を通して最新のVCのトレンドを分析します。
①沿革及び特徴
比較3社のバックグラウンドをレビューして、それぞれのもつ特徴を整理します。
(ⅰ)株式会社ジャフコ
当社は昭和48年4月5日、日本合同ファイナンス株式会社の商号をもって東京都中央区に設立されました(資本金5億円、未上場の優良中堅・中小企業を発掘、投資、育成することを主要業務とし、それとの関連でリース、延払(割賦)、融資等のファイナンスサービスを行うことを目的として設立)。
昭和48年というと、1973年なので40年超VCをやっていることになります。日本に現存するVCの中では最古のVCとなります。
昭和57年4月 わが国で初めて投資事業組合を設立
また、特筆すべきは、日本で初めて投資事業組合(ファンド)を設立したという点です。この投資事業組合は、後に投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)によって、「投資事業有限責任組合」に法人形態を進化させ、今日のベンチャー投資制度の重要なインフラとなっています。
なお、おそらく創業当初より野村グループからの資本参加があり、有価証券報告書の「関係会社の状況」には、間接所有分も合わせて19.5%野村ホールディングスに株式を保有されています。この事実を指してスタートアップ界隈では、「ジャフコは金融(証券会社)系VCである」と言われるわけです。
(ⅱ)株式会社デジタルガレージ
平成17年7月 インキュベーション事業を担当する連結子会社(旧)㈱DGインキュベーションを設立。
その後、DGは検索・広告・イーコマース・決済まで事業領域を広げ、平成17年にDGインキュベーションを設立し、スタートアップの投資育成を手がけることとなります。もともとは純粋な事業会社であったものの、事業領域を広げてゆくにつれインキュベーション事業に参入したことから、DGのインキュベーション事業は「事業会社系のVC」に分類されると考えられます。有価証券報告書を見ると、DGの事業セグメントは3つに分かれており、①マーケティング事業、②ペイメント事業、③インキュベーション事業と記載されており、DGによるVC事業はDGのメイン事業の1つとして成長したことがわかります。
(ⅲ)日本アジア投資株式会社
昭和56年7月 東京都千代田区丸の内二丁目3番2号に日本アセアン投資株式会社の商号をもって設立(資本金10億円)平成3年6月 日本アジア投資株式会社に商号変更
こちらも創業は古く、昭和56年(1981年)です。その後5年後に、ファンドを通じた投資事業を行う会社に事業目的を変更します。有価証券報告書を見たところ親会社やその他JAICの株式をもっている関係会社等は存在せず、完全に独立資本の会社です。ジャフコと違って、JAICは金融機関の資本参加がありませんし、DGと違って、投資事業以外の事業をやっている会社でもありません。つまり、JAICはVCをやるために設立された純粋なVCである「独立系VC」です。
②ポートフォリオ
このセクションでは、それぞれのVCが保有するポートフォリオをざっくり把握したいと思います。とは言っても、それぞれとても歴史が長いVCですし、規模もまちまちなので、ポートフォリオ全てを比べるのは面倒ですし、ほぼ不可能です。ここは、アントレペディアさんのデータベースから任意でそれぞれのVCにつき10社ずつポートフォリオを挙げてみましょう。
<図表05_04>
それぞれのVCについて特に決まった特徴があるとはいえません。理由としては比較3社全てが大企業であり、特定のジャンルに特化した投資するというよりも、万遍なく色んなサービスに投資する傾向にあるからではと思います。但し、DGだけはウェブサービス系のスタートアップに集中的に投資しています。これは本業とのシナジーのないセグメント(創薬等)には投資しないためだと考えられます。
ここで、ジャフコについては、そのメインとなるファンド(※2)の組合決算書を開示していました。このファンド決算書「組合等の現況」に記載されている「投資有価証券の主要銘柄」をもとに、業種、ステージ別に件数ベースのデータをまとめ、ヒートマップを作成しました。
<図表05_05>
図表05_05を見ると件数ベースでは、ジャフコは意外にもアーリーステージへの投資が多いです。業種的にはITサービスが圧倒的に多いものの、医療・バイオ、エレクトロニクスへの投資は少ないことがわかりました。
③財務分析
以上のセクションではジャフコ・DG・JAICについて定性的な情報を中心に比較をしてきましたが、以下では、それぞれの有価証券報告書から取れる数字をもとに定数的な分析(財務分析)を行います。財務分析をするにあたり会計的な知識が多少必要ですが、それについては、「前提知識」のセクションを参照して下さい。目次と知りたいことをまとめた表が図表05_06になります。
<図表05_06>
(ⅰ)営業投資割合の比較と推移
「営業投資有価証券」(以下、「営業投資」)とは、スタートアップの発行している株式です。従って、VCの有価証券報告書で計上されている営業投資が、VCの総資産に占める割合を算出することで、「VCの資産のうち、どの程度をベンチャー投資に回しているのか」がわかります。
営業投資割合=営業投資有価証券÷総資産
<図表05_07>
図表05_07を見ると、ジャフコとJAICの営業投資割合はやはりDGを圧倒的に上回っていることがわかります(ジャフコにいたっては、全資産の50%を営業投資に回しています。)。これは二社が専業のVCであるためであると考えられます。
しかし、時系列で比較すると、ジャフコは横ばい、JAICは減少傾向にあるものの(※3)、DGの増加が目立ちます。つまり、専業VCからだけでなく、事業会社からのリスクマネー供給が増加傾向にあると考えられます。具体的には、営業投資割合1%だった5年前に比べ、2014年度には10%成長し、11.36%になっています。この要因として考えられるのが、投資先であるスタートアップの中にIPOしたものの、まだDGが売却せずに保有している株式の時価が高騰したことによる影響です。それを表すのが、主に営業投資有価証券の評価差額が計上される「その他有価証券評価差額金」で、前期107,938千円であるのに対し、当期(2014年6月期)は2,163,068千円と、前期比で200%近くの評価差額が計上されています。つまり、DGのようなVCを専業としない事業会社系VCにおいても、近年は投資案件自体が増えていることはもちろんのこと、実際にIPOして時価がついているスタートアップを輩出してきているということがわかります(※4)。
<図表05_08>
大まかな傾向としては営業投資割合でわかることと同じで、やはりリスクマネーの総供給量は上昇傾向にあるといえます。ジャフコについては、割合ベースで見ると前期と当期は横ばいですが、金額ベースで見ると増加傾向にあることが特徴的。こちらも主に時価評価された営業投資の評価増が増加の主要因です。DGでもそうですが、IPOしたスタートアップ株式が市場で高く評価されていることから、営業投資に係る評価差額金が多額に計上しているようです。
(ⅱ)営業投資有価証券売却高の比較と推移
営業投資有価証券売却高は、VCが営業投資有価証券を売却した金額、つまりEXIT価額です。この指標を比べることで、VC3社が投資しているスタートアップのEXIT規模を概括的に把握することができます(この金額が大きければ大きいほどより大きなEXITによりたくさん携わっているということになります)。
<図表05_09>
図表05_09を見るとジャフコの売却高が圧倒的に大きいことがわかります。ジャフコとJAICを比較すると、営業投資の規模はジャフコはJAICの約7倍であり、売却高についてもジャフコがJAICの7倍なので、妥当な水準といえそうです。一方で、ジャフコとDGを比較すると、営業投資の規模はジャフコはJAICの14倍、売却高についてはジャフコはJAICの7倍なので、なんとDGはジャフコより少ない投資でより大きな成果を挙げていることになります。この理由としては、大きく2つ考えられます。まず1つの仮説としては、DGの投資規模の小ささにあると考えられます。ポートフォリオがある程度小さいと、大規模な専業VCと違いハンズオンも積極的にできると考えられます。2つめの仮説は、スタートアップが事業会社であるDGに出資してもらうことでバリューアップしたということが考えられます。事業会社系のVCは営業投資といえどある程度本業とシナジーをもつ事業領域に投資しているはずなので、スタートアップはDGのノウハウや経営資源を共有することができるものと思われます。
また、時系列で比較すると、前期(2013年3月期)で一旦少し落ち着いているものの、急速な勢いで営業投資売却高が増加していることがわかります。新興市場全体が右肩上がり(スタートアップがEXITしやすい環境)であることを如実にあらわしています。
(ⅲ)キャピタルゲイン割合の比較と推移
キャピタルゲイン割合は以下の数式で表される指標です。VCが投資した金額を100%とすると、EXITにより回収した金額は投資に対して何%上回っているのかを示す指標なので、「VCのポートフォリオのうちどれくらいのスタートアップがEXITしたか/しないか」ということではなく、更にその上のレベルの話として「EXITしたスタートアップがどれくらいのバリューでEXITしたのか」ということをあらわす指標です。
キャピタルゲイン割合=営業投資売却高÷営業投資売上原価 - 1
<図表05_10>
キャピタルゲイン割合の1つの目安が「0%」(投資した金額が全額回収できた状態)です。そう考えると三社全て0%を上回っており、全体として高い傾向にあるといえます。ジャフコ・JAICといった専業VCがDG(事業会社系VC)のキャピタルゲイン割合を上回っているのは、やはり専業VCとしてのノウハウがあるためだと考えられます。例えば、ジャフコ運営ファンドの組合決算書を読むと、ジャフコは投資した株式を流動化(売却して現金化)するための専門部隊を擁していることがわかります。つまり、VCとしてキャピタルゲインを徹底的に取りに行くリソースも事業会社系のVCに比べると圧倒的に多いことが読み取れます。従って、キャピタルゲイン割合については専業VC(ジャフコとJAIC)が高い結果を示したと考えられます。(※5)
(ⅳ)投資回収スパンの比較と推移
投資回収スパンとは、VCが投資をしてからスタートアップをEXITさせるまでの期間です。もちろん、早ければ早いほど現金が手に入るので良いということになりますが、これをどうやって算定するのかというと以下の算式で算定します。
営業投資回転期間(投資回収スパン)[ヶ月]=営業投資(引当金控除後)÷(営業投資売却高÷12ヶ月)
財務分析の手法の一つに回転期間分析というものがありますが、これをVCの経営分析用に応用した指標です。例えば、一般事業会社で売掛金がどれくらいで現金化されるのかということを計算するときには、以下のように計算します。期末時点の売掛金の大きさが1ヶ月の売上の何倍かを見ることでその売掛金が何ヶ月で解消するかということを見ることができる指標です。
なお、この指標の逆数として、営業投資回転率も参考までに算出しておきました。これは、営業投資売却高が営業投資の何倍かを見ることで、営業投資の効率性を分析する指標です。
a.営業投資回転期間(投資スパン)
<図表05_11>
図表05_11では、ジャフコ及びJAICの回転期間は50ヶ月(4年)程度であるのに対し、DGは110ヶ月(10年)程度です。投資の回収に10年かかるとは思えませんが、これだけ違いが出てしまった要因は2つ考えられます。1つ目は、単純にDGの投資回収スパンが長いこと。つまり、シード・アーリーステージをメインに投資しているためであると考えられます。2つ目は、営業投資の金額(分子)が1ヶ月当たりの営業投資売却高(分母)に比べ大きすぎるという理由です。分子の営業投資は、正確な計算の観点から(※6参照)、投資損失引当金控除後の営業投資を用いていますが、DGが見積もった投資損失引当金が小さすぎるため、このような結果になったと考えられます。こちらについては詳細は(ⅴ)で見ていきたいと思います。
なお、ジャフコとJAICの営業投資回転期間が正常な値だとすると、一般的なVC(長期の投資スパンを想定しているシードアクセラレーターなどを除く専業VC)は3~4年の間にEXITすることを見込んでスタートアップに投資を実行するものと考えられます。
b.営業投資回転率
<図表05_12>
本セクション(ⅱ)で述べたとおり、DGの投資効率の良さが注目ポイントです。また、こちらも(ⅱ)で述べたとおり、ジャフコとJAICの投資効率は同程度(0.5回転程度)です。
(ⅴ)投資損失引当率の比較と推移
投資損失引当金(※7)とは、かなり大雑把に言えば、期末時点において、将来営業投資から損失が出そうなものについて、将来出そうな損失の額を見積もって計上した金額です。つまり、投資損失引当金が大きいということは、VCは将来EXITができず、投資回収ができなくなる銘柄がたくさん出てくると悲観的な予想を立てており、一方で投資損失引当金が小さいということは、VCは将来EXITできない会社なんて全然でないと楽観的な予想を立てている、ということです。つまり、投資損失引当金の大きさを見ることで、VCの新興市場に対する将来予測を読み取る事ができるのです。
投資損失引当率=投資損失引当金÷営業投資
<図表05_13>
図表05_13をまとめると、JAICは悲観傾向、DGは楽観傾向、ジャフコは両者の中間だが近年は楽観傾向にあるということです。まず、DGの楽観傾向ですが、(ⅳ)で述べた通り、通常の投資回収スパンから予想すると、やや不合理な引当率といっても良いかもしれません。つまり、将来的には現在計上している引当金を超える損失(想定外の損失)が出てしまう可能性が高いということです。これは、DGが営業投資から損失が出ないと高をくくっているのではなく、営業投資からどれくらいの損失が生じるのか見積もるノウハウが他2社に比べ蓄積されていないためと考えられます。
そして、JAICについては営業投資が減少傾向にあるのに関わらず、その営業投資に対する投資損失引当率は増加傾向にあり、悲観的な予測となっていますが、一方でジャフコは営業投資は増加傾向にあるのに関わらず、その営業投資に対する投資損失引当率は減少傾向です。全く逆の傾向を示している2社ですが、ここから読み取れるメッセージとしては、JAICについては「今後は今までの投資を回収するフェーズに移行するので、(回収できたとしても)損失が出てしまう銘柄は増えますよ」、ジャフコについては「今後もたくさんベンチャー投資していくし、市場環境も良くなってきたのでどんどんEXITさせるよ」というシグナルが読み取れます。
◆わかったこと
①新興市場のマクロ的な傾向:EXITしやすい/初値がつきやすい
2014年3月期までの時系列比較を通じて、VC3社の有価証券報告書から読み取れる「VCの視点で見たスタートアップ市場の環境」は非常に良好だと言えます。というのも、営業投資売却高は3社右肩上がりで、投資額に対するキャピタルゲインの割合も年々高くなってきているためです。つまり、EXITの確度が上がっているだけでなく、高いバリューでのEXITも増えてきているといえます。
②事業会社系VCのメリット&デメリット
クロスセクション比較をしたところ、ジャフコ・JAICに比べDGの特徴が目立つ結果となりました。事業会社系VCのメリットとしては、ポートフォリオが小さいためハンズオンが行き届くが故に、EXITの確度は高い点です。これは営業投資回転率の高さから読み取ることができます。一方でデメリットとしては、①高いバリューでの投資回収(EXIT)が困難である点と、②投資家側にベンチャー投資のノウハウの蓄積が少ない点が挙げられます。①については、キャピタルゲイン割合が他2社に比べ低いこと、②については、引当率の水準が他2社に比べ楽観的であることから導かれた結論です。大企業によるベンチャー投資が活発化している昨今、大企業側でベンチャー投資のノウハウを構築する必要があります。具体的には、投資先の財務情報のモニタリングや、適切なバリュエーションを客観的に見積もることができるバリュエーションのチームや、投資回収を行うためにポートフォリオの売却先を探すチームなどを構成し、ノウハウを蓄積することなどが考えられます。
③一般的な投資の回収スパンは4年程度
限られたデータから得られた知見ではあるものの、一般的な投資の回収スパン(最初に投資してからEXITするまでの期間)は4年程度と計算することができました。ジャフコとJAICは他のVCより業種・ステージともに満遍なく投資を行っているため、比較的説得力のある数字であると考えています。
以下、注釈
・金融商品取引所に上場されている有価証券
・店頭登録されている有価証券
・募集または売出しにあたり有価証券届出書または発行登録追補書類を提出した有価証券
・所有者数が1000人以上の株券(株券を受託有価証券とする有価証券信託受益証券及び株券にかかる権利を表示している預託証券を含む。)または優先出資証券(ただし、資本金5億円未満の会社を除く。)、及び所有者数が500人以上のみなし有価証券(ただし、総出資金額 が1億円未満のものを除く。)
・店頭登録されている有価証券
・募集または売出しにあたり有価証券届出書または発行登録追補書類を提出した有価証券
・所有者数が1000人以上の株券(株券を受託有価証券とする有価証券信託受益証券及び株券にかかる権利を表示している預託証券を含む。)または優先出資証券(ただし、資本金5億円未満の会社を除く。)、及び所有者数が500人以上のみなし有価証券(ただし、総出資金額 が1億円未満のものを除く。)
※2:ジャフコ・スーパーV3-A号投資事業有限責任組合、ジャフコ・スーパーV3-B号投資事業有限責任組合、ジャフコ・スーパーV3-P号投資事業有限責任組合、ジャフコV2-C号投資事業有限責任組合、ジャフコV2-D号投資事業有限責任組合が投資する357銘柄を調査対象としました。
※3:JAICが減少しているのは、総資産規模が10%近く減少しており、さらに2014年3月期より経常利益が黒字転換していることから、営業投資を含めた自社資産を積極的に売却すること業績アップを目指しているものと考えられます。
※5:なお、H23、H24年度のDGのキャピタルゲイン割合が著しく高くなっているのは、母数である営業投資原価が他2社と比べてかなり低い水準であったためであると考えられます。
※6:営業投資回転期間及び営業投資回転率に用いる営業投資の金額を投資損失引当金控除後の値としている理由は、必ずしも全ての営業投資有価証券が将来売却されるとは限らないためです。つまり、残念ながら将来EXITできない営業投資有価証券も期末残高に含まれているため、それを売却高と割るのはおかしいからです。
<図表05_14(式のイメージ 分析Graphシートより)>
※7:投資損失引当金の正確な定義は以下の通りです。以下で「未公開株式」はVCがもっているスタートアップの株式です(スタートアップの株式は時価がないので、我が国の会計基準上では原則的に投資したときの金額(取得原価)で評価されます。)。
投資事業有限責任組合における会計処理及び監査上の取扱い(業種別委員会実務指針第38号)
46. 未公開株式の実質価額が著しく低下している状況には至っていないものの、実質価額がある程度低下したときは健全性の観点から投資損失引当金を計上することができる。ただし、この場合には、実質価額の回復可能性が客観的に確実であるにもかかわらず引当金を計上する等、過度に保守的な会計処理とならないよう留意する必要がある。47. 未公開株式の実質価額が著しく低下したものの、回復可能性が見込めると判断して減損処理を行わなかったが、回復可能性の判断はあくまでも将来の予測に基づいて行われるものであり、その回復可能性の判断を万全に行うことは実務上困難なときがある。このような場合も当該リスクに備えて投資損失引当金の計上を十分検討しなければならない。