(月刊)ひとり総研

ベンチャー企業に関連する情報、ファイナンス情報、その他役に立ちそうなデータを月1ペースでまとめるブログ。

01_2012年、2013年にIPOしたスタートアップのファイナンスをまとめてみた。

こんにちは。

 本ブログ(※1)では、ベンチャー企業のファイナンス絡みのニュースや、スタートアップにまつわる業界研究等を中心にデータの整理を行います。

本ブログの著者は国内の某インキュベーションファームにてスタートアップの支援に従事している若造です。本当に未熟者なので、実名は公開しない予定です。淡々とベンチャー界隈に落ちているデータを拾っては整理する個人的な日記帳みたいなものだと思ってください。

ただ、ここに載せるデータについては、恐れ多いのですが、スタートアップ企業のプレイヤーや、支援者、VCにとって役に立つデータでありたいと思っております。なので、コンテンツに関しては手を抜かずしっかり作りこんでゆきたいと思っている次第であります。宜しくお願いしますm(_ _)m

 

では、年の瀬だということで、早速2013年にIPOした企業について、そのファイナンスの軌跡をまとめてみることとしました。(ついでなので2012年にIPOした企業についてもまとめてみました。)以下、今回の記事のまとめでございます。

 

2013年、2012年にIPOしたスタートアップ企業のファイナンス実績のまとめ

 

INDEX

 ◆何を知りたいか。-今回のまとめの目的-

 ◆具体的に何をやったか。-今回のまとめの概要-

 ◆何がわかったか。-今回のまとめから得た知見-

 

◆何を知りたいか。

 

IPOしたスタートアップについて、IPOに至るまでにどのようなValuationがつけられたのか。

 

②スタートアップのValuationと、『業種』、『過去のファイナンス実績』、『投資家』の関係性。

 

IPO市場の最新動向。

 

◆具体的に何をやったか。
 

①まず、創業から上場までの期間が「5年未満」の企業を「スタートアップ」と定義し、今回の調査対象とします。

結果、2012年で14件、2013年で13件のサンプルが引っかかりました。どのスタートアップもベンチャー界隈のメディアをにぎわせたことが記憶に新しい超有名企業であります。

 

②上記スタートアップに関して、「目論見書」にある「株式等の状況」の記載データをまとめる。(目論見書の「株式等の状況」にはその企業が「いつ、誰から、どれくらいファイナンスを受けたか」という情報が書いてあります。)

 

③上記のファイナンスのデータから、「調達価額÷所有割合」で、当時のValuation(Post)を推定します。(※2)

スタートアップのValuationについて、まとめてあるサイトは意外に少なく(というか、私は見つけられませんでした。)、これは今回のまとめでは肝となるデータです。

 

④調査対象となったスタートアップについて、投資情報サイト東京IPOから、IPO時の情報をまとめます。

 

④結果、目論見書と東京IPOに記載あるデータという縛りはありますが、各ラウンドのValuationとIPO時の公募価格等のデータが出揃うことになります。これをまとめたのが図表01_01と02です。

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 <図01_01:2012年のIPO企業のValuation一覧>

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<図01_02:2013年のIPO企業のValuation一覧>

 

◆何がわかったか。

 

①業種とValuation

 

 ファイナンスの規模は業種によって異なるということがわかりました。具体的にはバイオ>ハードウェア関係>アプリケーション、webサービスの順番です(※3)。この理由として考えられるのは、2012-2013年にIPOしたバイオベンチャーは4社ありましたが、そのうち3社は創薬系ベンチャー、つまりレッドバイオです。従って、設備投資や臨床実験を進捗させるために多額の資金が必要になるため、ファイナンスの規模も大きくなる。ハードウェア関係のビジネスについても、ある程度の設備投資が前提となるため、ファイナンスの規模は大きくなります。一方、アプリケーションレイヤーのプレイヤー(つまり、webサービスの運営会社)は、ご存知の通り、設備投資等は小額で済むビジネスモデルをとっているため、ファイナンスは小規模でOKという理屈です。

 

 2012-2013でIPOした企業をこの3つの業種を(多少強引に)分類してみました。これが、図表01_03になります。

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<図表01_03:業種別のValuation分布>

 

 この図から判ることは、「ファイナンスの規模が大きいとEXIT時の企業価値も大きい。しかし、多額のファイナンスを必要とする企業は投資の回収可能性が低い可能性がある」というビジネスモデル固有のジレンマです。図表01_04をご覧下さい。投資の回収可能性とファイナンスの規模はトレードオフになっているため、3つの業種は異なるポジショニングで図示することができます。

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<図表01_04:トレードオフのイメージ>

 

 

 ここで私が思うのは「中間層」であるハードウェアビジネスへの投資がもっと活発化しても良いのではないかということです。なぜなら、ハードウェアビジネスというのは、投資の回収可能性についてはバイオビジネスよりも高いうえに、EXIT時にウェブサービスビジネスよりも高いValuationが見込めるので、キャピタルゲインも多く見込めるためです。これは私の肌感ですが、シード、アーリーステージのVCというとウェブサービスのプレイヤーへの投資が多いのではないかと思います。今後3Dプリンティングや3Dスキャニング等が一般化するなかで、モノを作ることが低コスト化することが予想されます。2014年以降ものづくり系のスタートアップがファイナンスを決めるケースが増えることを願っています。

 

②投資家とValuation

  投資家といっても多種多様です。今回の調査では大きく4つに投資家を分類します。①金融系のVCファンド、②事業会社(CVC)、③創業者や役員などの安定株主、④その他エンジェル投資家等に4分類します。

 この中で最も大胆なValuationをつけてくるのはどの投資家でしょうか?答えは②の事業会社です。具体的なケースを見てみましょう。

 【ケース1:ワイヤレスゲート】

  図表01_05をご覧下さい。目論見書に書いてあるファイナンスのデータがとても多いのですが、最もValuationが跳ね上がっているのは第10回のファイナンスです。これは、ビックカメラによる1.46億円のファイナンスで、結果として12%のシェアを獲得しています。HPを見てみると、ワイヤレスゲートはビックカメラビックカメラとワイヤレスゲートの関係はただの出資者とVBという関係ではなく、事業シナジーを見込んだ資本提携であることがわかります。

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  <図表01_05:ワイヤレスゲートの各ラウンドごとのValuation推移>

 

 【ケース2:ユーグレナ】

  図表01_06をご覧下さい。ここでは、第9回目のファイナンスを見てみましょう。IPO前のファイナンスですが、Valuationが従来のものからかなり跳ね上がっています。このラウンドでは、東京センチュリーリース、電通、全日空清水建設等が出資しています。ユーグレナのニュースリリースを見てみると、これらの出資者はユーグレナの進めるバイオジェット等に必要な技術のパートナーや、マーケティング面でのパートナーであることがわかります。つまり、こちらも事業シナジーを見込んだ資本提携にあたります。

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  <図表01_06:ユーグレナの各ラウンドごとのValuation推移>

 【ケース3:アライドアーキテクツ】

  図01_07をご覧下さい。第3回のファイナンス時のValuationが頭ひとつ抜けていますね。実は第3回以外のファイナンスはインキュベーションファームであるドリームインキュベーターによる出資ですが、第3回は事業会社であるアイスタイルが投資しています。アイスタイルのニュースリリースによると、ソーシャルメディアマーケティングに注力しはじめたアイスタイルが、その分野に専門的知見をもつアライドアーキテクツとの提携を視野に入れて出資をしたとのこと。つまり、こちらも事業シナジーを見込んだ資本提携です。

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  <図表01_07:アライドアーキテクツの各ラウンドごとのValuation推移>

 

 上のケース以外にも、enishに対するGREEの出資(2012年)等事業会社による大型の出資が目立ちます。詳しくは図表01_01をご覧下さい。)

 事業会社が大胆なValuationをつける理由として考えられるのは、金融系のVCは純粋なキャピタルゲインだけを見返りとして求めるのに対し、事業会社は資本提携による本業との事業シナジーを企図しているためと考えられます。つまり、(誤解を恐れずざっくり言うと)キャピタルゲインを挙げられなくても、投資先のスタートアップの経営資源が何らかのかたちで自社の事業に役立てばいいじゃないかと考えているため、Valuationが甘くなりがちなのではないかと考えられます。

 

③騰落率(図01_01では「超過率」)とValuation

 一般的に以下の場合には超過率が高くなる傾向にあります。(しかし、2013年に関して言えば、超過率は平均的に200%であり、全体的に高い水準であることがわかります。)

 -前のラウンドから時間がたっているとき(例えば2012年4月にIPO前のファイナンスをして、2013年12月に上場する場合)

 -過去にダウンラウンドしている場合

 この理由としては、基本的に資金調達をするときに株価を算定する際は、前回のファイナンスをベンチマークにするためであることが考えられます。つまり、前回のファイナンスからあまりにも時間がたっている場合、正確な企業価値が算定しづらいため、Valuationを算定する際のディスカウントや割引率を大きめに設定していると推定されます。

 また、過去にダウンラウンドしている場合も、正確なValuationの算定が困難である場合が多く、ディスカウントや割引率を大きめに設定し、IPO時の公募価格を低めにしていると考えられます。

 

⑤その他

 最後に全体的なIPO時の調達額の傾向ですが、公募での調達金額を比較すると、2012年は平均1,175,487千円、2013年は平均1,385,962千円となり、2億近く2013年が上回ります。従って、2012年に比べ、2013年はIPOの件数が増えただけでなく、調達額も増えたということになります。2014年はIPOの件数ベースで70件行くとか行かないとか言われていますが、調達できる金額も右肩上がりになれば良いですね。

 

 最後まで読んでくださった方、有難う御座いました。質問や資料の訂正が必要な点等が御座いましたらメールで通知いただくか、コメント欄に書き込んで頂けると幸いです。では、2014年も宜しくお願いします。

 

~追記~

お久しぶりです。初回の記事から多くの方にご覧頂き、誠に光栄です。(SNSでシェアして頂いている方もいらっしゃるようで嬉し恥ずかしな心境です。)

コメント欄でご指摘がありましたが、上記図表01_01及び、01_02の解像度が悪くよく見えないということでした。ほんとだ・・・申し訳ないです・・・。

代わりにexcelファイルのリンクを張ったので、こちらからご覧下さい。m(_ _)m

今後もひとり総研は、一生懸命コンテンツを作りこんでいく所存ですので、本年もどうぞ宜しくお願いします!

 

 

図表01_01

https://www.dropbox.com/s/5n688zhgdriony4/%E5%9B%B3%E8%A1%A801_01%282012%E5%B9%B4%E3%81%AEIPO%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%AEValuation%E4%B8%80%E8%A6%A7%29.xlsx

図表01_02

https://www.dropbox.com/s/lu6nmex0dizwy7z/%E5%9B%B3%E8%A1%A801_02%282013%E5%B9%B4%E3%81%AEIPO%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%AEValuation%E4%B8%80%E8%A6%A7%29.xlsx

 

~追記2~

コメント有難う御座います!頂いたコメントは順次お返しいたします!!

 

 ~注釈~

※1 「一人総研」という名前をつけてみました。私が1人でスタートアップ界隈のファイナンス、業界研究のまとめを不定期でUPしてゆくブログです。但し、ブログを続ける過程で趣旨が変更するかもしれませんがそのあたりは柔軟に見守ってやってください。 

 

※2 簡単に説明すると、「誰がどれくらいの金額を出してどれくらいのシェアの株式を買った」というデータがわかれば、金額をシェアで割り戻したときに、お金を出した投資家がその企業にどれくらいの価値を見込んで投資したのかということがわかります。ちなみに、この計算式だと、出資が行われた後のValuationが計算されます。これを「PostのValuation」と呼びます。(説明がざっくりで申し訳ありません。詳しくは磯崎先生の本をご参照下さい。笑)

 

※3 この3分類についは、OSI規格(IT用語辞典)や、私がインキュベーション支援を行ってきた経験から培った選球眼(笑)を駆使して、総合的に判断したものです。正直結構主観的な分類なのですが、大方正確だと思います。どうしても分類できないものは「その他」に入れております。各分類の大まかな概要は以下の通りです。

 

バイオ・・・レッドバイオ(創薬)のほか、グリーンバイオ(生物を利用したバイオ関連技術)ビジネスを含むバイオベンチャー。特徴的なので識別しやすい。

 

ハードウェア関係・・・ハードウェア及びハードウェアに直接結びつくソリューションの提供を行うベンチャー。

 

アプリケーション・・・Webアプリケーションの開発・運営を行うプレイヤー。コンテンツビジネスにまつわるベンチャー(SAP等)が多い。

 

その他・・・コンサルティングファームや人材系の会社。

 

※4 この3つのケースを選んだのは、ファイナンスの過程で金融系VCも、事業会社も両方出資していることが確認することができたためです。このようなサンプルを選ぶことで、事業会社がつけるValuationが金融系VCのそれに比して大胆なヴァリューを見込んでいるということがわかります。